きそーら最高! パ・パン・パ・パン・パン!
きそーら最高! パ・パン・パ・パン・パン!
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きそーら最高! パ・パン・パ・パン・パン!
きそーら最高! パ・パン・パ・パン・パン!
きそーら最高! パ・パン・パ・パン・パン!
きそーら最高! パ・パン・パ・パン・パン!
終演直後、沸き起こるチャント。果たしてそうだろうか? コンサート最終盤に噴射され床に落ちた銀テープをかき集める見苦しい中年男性を横目に、首を傾げて向かう出口。私にとっては、最高ではなく、最低でもなく、ほとんど心を動かされることのないコンサートだった。ある時期から私はHello! Projectの現場にいてもこれといった感情が沸いてこない。無の時間。この団体のコンサートを最後に観たのが2023年4月2日(日)。浅倉樹々さんのつばきファクトリー最終出勤。それ以降は、池袋のサンシャイン噴水広場で行われているリリース・パーティを無銭でちょこっと冷やかす程度のことを除けば、Hello! Projectのコンサートやイベントには一度も参加していない。参加したいとも思わない。心残りもない。今の私には別の楽しみがたくさんある。もはやHello! Projectを必要としていない。
1年と2ヶ月ぶりにつばきファクトリーのコンサートを観たら、自分はどう感じるのだろう。それには興味があった。インディー(KissBeeやBLUEGOATS)を観るようになった自分に、久し振りに観るつばきファクトリーはどう映るのか。やっぱりHello! Projectはモノが違う、こっちの方が楽しい、となる可能性もあるんじゃないか。Hello! Projectの世界に出戻りたくなるんじゃないか。もうインディーには戻れなくなるんじゃないか。それが少し恐くもあり、楽しみでもあった。『スカウト目線の現代サッカー事情』で田丸雄己さんが書いていたのだが、あらゆるカテゴリ(1部リーグ、2部リーグ、育成世代等々)の試合を観ることでその国のサッカーを深く理解できる。実際、私もたまに明治安田J2リーグの試合を観ると、横浜F・マリノスに出来ていてJ2のチームに出来ていないことが浮き彫りになって見えてくることがある。J2を観ることでJ1のJ1たる所以が分かる。同様のことはHello! Projectとインディー・アイドルの比較においても言える。メンバーさんの容姿や歌唱力の水準の高さ、長年積み上げてきた楽曲資産など、Hello! Projectが優れている点はたくさんある。イスラム教徒がハラル認証の飲食店を選ぶように、アイドルならHello! Projectを観ておけば大外しはしない。そういうブランドだ。
何でそもそも今日来たかっていうと、5月末をもってファン・クラブを退会するにあたりゴールド・カードに貯まっていたポイントを使い切る必要があった。結構貯まっていた。最後の数ヶ月に駆け込みで小片リサさんのコットン・クラブ公演、今日のつばきファクトリー、数日後のJuice=Juice(植村あかりさんの最終公演)のコンサート・チケットと交換し、いい具合にポイントをほぼ消費することが出来た。小片さんとJuiceのチケットはたまたま知人に譲ることになって、余ったのがつばきのチケット。積極的に買い手を探すのも面倒くさいので、自分で入ることにした。つまり、私は今日のチケットをお金を払って買ったわけではない。
月曜日の18時開演。Hello! Projectでは重要なコンサートを平日に開催するのがすっかり当たり前になっている。つくづくオタクはナメられているが、何の問題もなく人が集まる。今日に関してはチケットの売れ行きが芳しくはなかったようだが、恥ずかしくない程度には客席が埋まっていた。もちろんC'mon Everybodyと銘打ちながらもeverybodyが来ているとは言いがたかったが、ガラガラとか武道半とかの惨状ではなかった。久々に目の当たりにするHello! Projectそしてつばきファクトリー支持者の層の厚さ。圧倒される。日本武道館周辺を賑わす多種多様な異常者たち。異常者の玉手箱。平日のこの時間。数千人。9千円くらいするチケット。このスーツ率の低さ。どういう仕組み? 私はオフィスに出勤してそのままスーツ姿で行ったのだが、開演前に少しお話ししたF君は、スーツだと浮きますよ。関係者だと思われますよと笑っていた。ちなみにネクタイは赤。完全にまおぴんカラーです。セブン・イレブンで調達したプレミアム・エビス ジューシー・エール。甘栗。入場。
アリーナ。いい席。通路席。出禁だかファン・クラブ除名だかになっている某有名新沼支持者を観測。前座、名乗るまで誰だか分からなかった松原ユリヤさん。見違えるほどの成長(スキルがどうとかじゃなくて生物としての発育という意味で)。感じる月日の経過。リル・キャメ勢も大人への階段を着実に上がっている。八木栞さんが漂わせるいいオンナ感。処女でなくなった可能性がある。性的になった豫風瑠乃さんのからだつき。彼女たちの成長に合わせたかのようにダンスに取り入れられる、杭打ち騎乗位のような動き。少し見ない間にこんなに大人になって……という発想が既にジジイ。この1-2年は彼女たちにとっては少しの期間ではないのだろう。時間の尺度が異なる。
コンサートのほぼすべての時間を、私は無言で過ごした。私はいま喉の調子が良くない。大きな声を出すのも継続的に喋るのも少し難しい。そして、そもそも感情が高ぶらない。だが、新沼希空さんと谷本安美さんに特別ゲストの山岸理子さん、岸本ゆめのさん、小片リサさん、浅倉樹々さんを迎えてのオリジナル6による『気高く咲き誇れ!』、そこに小野田紗栞さん、小野瑞歩さん、秋山眞緒さん通称さにこ(なんだそれ? と思って数日前に検索したら太陽のようだからSunnyなのと3人という二つの意味を掛け合わせているらしい。イク!つばで命名されたとのこと。いやいや、太陽のようなというか、日が没しているだろう)を加えての『初恋サンライズ』で突如として感情を取り戻した。ちょっと泣きそうになった。小片リサさんと浅倉樹々さんが同じステージで曲をパフォームする奇跡のような時間に立ち会えるとは! 小片さんと浅倉さんが曲中に向き合って目を合わせる場面では武道館がどよめいた。オリジナル6と、さにこ(なんだそれ?)を加えた9人。この編成によるパフォーマンスを観られる機会は、おそらくもう二度とないだろう。本日をもって新沼希空さんは芸能界を引退するからだ。この2曲だけで、私にとっては仕事を早く上がってここまで観に来た価値があった。それ以外の時間はすべて私には無価値だった。山岸さん、岸本さん、小片さん、浅倉さんが抜け、現体制によるコンサートが再開したとき、私は夢から醒めたような気持ちになった。名称こそ引き継がれているが、私が追っていたのとは完全に別の集団になったんだなと改めて実感した。あの幻のような2曲。あのわずかな時間。浅倉さんと小片さんの共演。これで私の中でつばきファクトリーという集団が成仏し、正式に解散した。もちろん実際にはまだ集団が存続しているのは言うまでもない。しかし私にとってはあのオリジナル6、9、8の時代、あの面子がつばきファクトリーなのである。フットボール・クラブのように選手は入れ替わってもチームを愛し続けるというわけにはいかない。私にとってつばきファクトリーはそういうものではない。これだけメンバーが入れ替わると、つばきファクトリーと言われても、もはや別の集団がカヴァーしているのと変わらないのだ。もちろん、今のつばきファクトリーが好きな人々のことを否定するつもりは一切ない。あくまで私にとってはということに過ぎない。
2時間半、みっちりとコンサートをやり切るのはHello! Projectのスゴさ。当たり前のようにやっているけど、コレはインディーには望めない。インディー界は必死に営業をかけて客を集めようとする割に肝心のコンサートが拍子抜けするくらいの分量しかないことが多い。同じ2時間半を使うにしても、配分がコンサート30分で、特典会2時間みたいな。コンサートをしっかりと作り上げることに対しての愚直さ、実直さにかけてはHello! Projectは本当に素晴らしい。一方で、インディーの規模に慣れてしまうと、武道館のアリーナでもずいぶんと遠いなと思ってしまった。会場が大きくてステージとの距離が遠いのを補うほどの表現力や演出効果の迫力は感じなかったのが正直なところだ。
興味を失い、しばらく離れた今となっては、私はもうHello! Projectに前のような情熱を注ぐことは想像すら難しい。ファン・クラブを辞めるとき、事務所から届いた書類には脱会という言葉が使われていた。辞書的には間違ってはいないのだろうけど、普通、退会じゃない? 私の感覚では、脱会ってカルト宗教を脱出するときによく使う言葉だ。Hello! Projectはまさにカルト宗教であり、自足自給の村だったんだと今になって私は思う。村の中だけを見て、外を見ないことが幸せになるための秘訣。他の陣営や娯楽と比較、相対化したら終わり。目が醒めてしまう。閉じた世界。それが悪いとは言わない。きそーら最高! と叫んでいた紳士たちにしても、世の中のあらゆるアイドルと新沼さんを比較した上で、彼女こそが最高だという結論を出しているわけではない。たまたま好きになったから最高。自分が愛するのは彼女だと決めたから彼女が最高。それでいいのだ。おそらく幸せというのはそういうものだろう。