2025年5月7日(火)。ただの平日ではない。カレンダー上ではゴールデン・ウィーク(四連休)明けの初日。一年の中でも最上級に都合をつけづらい。もちろん人にはよるだろう。それぞれに固有の事情があるので。だが一般的には人が集まりにくい日だったのは間違いない。LiVSの場合、支持層に占める遠征民の割合が大きい。そういう紳士たちの場合、仕事終わりにフラッと立ち寄るというわけにはいかない。本日の千穐楽で下北沢シャングリラを満員にするのがこのツアーの目標だった。そもそもの会場規模が普段よりも大きいのに加え、日程面の条件は厳しかった。
BLUEGOATSは五日前に新宿ロフトでコンサートを開催した。新宿ロフトの収容人数は約500人。LiVSが今日埋めようとしている下北沢シャングリラは約600人(ソース:Google検索)。片やゴールデン・ウィーク直前、片やゴールデン・ウィーク直後。この二集団が奇しくも近い日程で、似た規模の会場でコンサートを決行した。結果は対照的だった。BLUEGOATSは新宿ロフトをほぼ満員にした。LiVSは下北沢シャングリラを埋めることが出来なかった。(チケットが実際に何枚売れ、何人が来場したのか、私は知らない。前回よりも少なかったと聞く。)同じような条件(日程、会場)でコンサートを開催した場合、BLUEGOATSとLiVSとでこのような差がつくのは仕方がない。動員規模という基準で見ると今のBLUEGOATSはLiVSの一歩も二歩も先を行っている。BLUEGOATSでさえ500人の会場でチケット完売までいかなかったのだから、LiVSが600人の会場を埋めきれないことに驚きはない。瞬間風速でもLiVSの動員がBLUEGOATSを超えるには学徒動員のような形で百人単位の人々を強制連行する必要があった。「知らない顔が少なすぎる」。開演前に歓談した紳士はフロアを見渡して言った。挨拶を交わすかは別にして、ほぼ見たことのある顔しかいないのがLiVS現場の現状である(よくも悪くも)。
私のチケットはA19(人間チケット)。JPY3,000。その前にはSS(超最高チケット JPY31,500)が30番くらい、S(最高チケット JPY10,000)が28番くらいまでいた。(名古屋のときと同様、コチャキンTVさんの脱退に伴う返金対応があったため、欠番がある。)入場時間が過ぎて、私の番号が呼び出された時点で、後ろを振り返ってみると、20人くらいしかいなかった。18時10分すぎに私がフロアに入った時点で100人もいなかった。3列目の左側に立つことが出来た。十分に近い。フロアの立ち位置だけを考えるとJPY31,500やJPY10,000を払う意味をほとんど感じない。(右側はもうちょっと混んでいた。)もちろん18時半の開演までまだ時間はある。今日に関しては最初の30分はゲストの時間。LiVSが出てくるのは19時からである。仕事で遅れて来る人もいるだろう。これからフロアに人は増えていく。とはいえ、これから一気に何百人も増えるという展開は考えづらい。フロアを人でいっぱいにする。もしそれが本日の至上命題だとするならば、もう勝負はついているのではないか? だとすると今日のこれって消化試合?
そもそも私はツアー・タイトルになっている“Revenge Shangrila”にさほどピンと来ていない。昨年8月にこの会場を埋められなかったときのリヴェンジと言われても、そのとき私はLiVSの存在すら知らなかった。今日に至るまでのストーリーに関与していない。下北沢シャングリラには行ったこともない。どういう会場なのかも分かっていない。検索すれば収容人数も分かるし画像も出てくるけど、そうやって情報として目にしたとしてもこのツアー・タイトルに込められたLiVS側の思いを私は知る由がない。そしてこのツアーに関して言えば、私は四日前の名古屋公演で満足していた。超最高チケット(JPY31,500)で入場し、最前で観て、すべてを出し切ったと思えるほどに公演を楽しんだ。終演後には通常の特典会に加え、超最高チケット所持者だけの特別な特典会にも参加した。これ以上を望むべくもない濃い時間だった。自分の中での“Revenge Shangrila”ツアーはもう終了済みで今日はおまけくらいの気分だった。
18時半に開演してはじめの30分はトップ・シークレット・マンのしのだくんという青年(『僕の声、跳ね返る』という素晴らしい楽曲をLiVSに提供してくださった方)によるDJタイム。本編の前にDJタイムがあるのは #KTCHAN で経験済み。だからそれ自体に大きな違和感はない。ただ何のために彼を呼んでこの時間を設けたのかがよく分からなかった。LiVSの登場に向けてフロアを温めることなのか、それとも集客のため(しのだくんさんのファンをこの公演に連れて来る)なのか。そこが最後までふわっとしていた。依頼を受けたから淡々と自分の業務をこなしている雰囲気のしのだくんさん。あまりフロアのヘッズとコミュニケーションを取る意思が感じられない。これが #KTCHAN 登場前のDJ YANATAKEさんであれば何度も我々に手を挙げさせたりコール・アンド・レスポンスをやってみたりするところである。音楽自体は聴いていて心地がよかった。目を瞑って聴くとトリップする感覚があった。しかし、あの音を、LiVSのコンサートが始まる直前のフロアで流す意図については計りかねた。LiVSの音楽とはノリが別物すぎて、ウォーミング・アップには向いていなかった。ゲストを呼んで集客をドーピングしているという印象を与えることでツアーのコンセプトにケチをつけた上に、その集客効果もさほどなかったとすると悪手だった気がしてならない。
コンサートの後半だったかな。下北沢シャングリラを埋められなかったことについて、集団を代表してミニ・マルコさんから談話があった。一気に重苦しくなるフロアの空気。彼女は涙ながらにフロアに向けて頭を下げた。「ごめんなさい」。これは本当に私が見たくない姿、聞きたくない言葉だった。謝ってほしくなかった。謝る理由はない。少なくともフロアにいた我々に対しては。頭を下げてほしくなかった。胸を張ってほしかった。ウチらはこんなにイケてる。来ない方が悪い。知らない方が悪い。それくらいの態度でいてほしかった。それくらい今日のLiVSは輝いていた。開演前にはまったく予期していなかったのだが、私がLiVSを観るようになってから、今日が一番心を掴まれた。嘘みたいに楽しくて、一人でケラケラ笑っている時間があった。アンコール前最後の曲“ONE”では泣いた。耳栓(KsGearのEvo2)をつけているのを完全に忘れるほど音楽に没入し、腹の底から声を出した。ひとつのコンサートの中で様々な感情の波が押し寄せてきた。LiVSを好きになって、LiVSを観てきて本当によかったと心の底から思った。ミニ・マルコさんとLiVSに出会ってから、この時間、この空間は私にとって生きる理由になっている。だから、数値目標だけを基準に成功と失敗を判断しないでほしい。動員目標の未達という事実だけで、今日の公演、このツアー、日頃の活動を否定しないでほしい。私にとってLiVSは数字以上の意味を持っている。