ほとんどすべての人の性格というものが、どの年齢期かに特に適合しているらしい[…]。このため性格はその年齢期になると、ほかの年齢期のときよりも好ましいものになる(ショーペンハウアー、『幸福について』)
徹夜向きの性格とそうでない性格というのがあると思う。朝まで飲もうとか騒ごうとか思えるのは端的に言うと性格が若い。学生ノリ。パーティー・ピーポー。ご存じのように私の性格はパーティ・ピーポーとはかけ離れている。学生のときから学生ノリではなかった。上に引用したショーペンハウアーの説からすれば私の性格は中年期以降に向いているのだろう。大勢の人たちとワイワイすることに向いていない。徹夜で騒ぐどころか、たとえば飲み会の二次会でさえ避けたい。早めに帰りたい。銭湯に行きたい。休みたい。一人の時間が欲しい。もちろん性格だけでなく体力も関係している(というより性格と体力は切り離せない関係にあるのかもしれない)。一日くらい寝なくても翌日の責務を果たせる、無理が効く人はいるだろう。私は無理をしたら普通に疲れるし後に影響が残る。ちゃんと寝る必要がある。ショート・スリーパー堀大輔さんのようにはいかない。大人になってからの体力の差を生み出す要因としてはおそらく子どもの頃からの運動経験の蓄積が大きい。今でこそ私は健康のために多少の運動をしているが、大人になるまでの運動経験は乏しい。ただこれは因果のはき違えかもしれない。そもそも生まれつき体力があるから運動がしたいと思えるのかもしれない。いずれにせよ、性格と体力。この組み合わせが徹夜への適正を決めている。私は明らかに向いていない。
2025年5月7日(水)に下北沢シャングリラで開催されたツアー千穐楽。その余韻を噛み締める間もなく、わずか三日後に24時間ライブという過酷すぎる企画をぶち込んでくるLiVS。24時間ライブとは何か。渋谷CYCLONEで11時開演の1セット目を皮切りに、翌日13時に渋谷CLUB CRAWLで開演する24セット目までぶっ続けで開催されるライブ(なおこのブログで再三に渡って指摘しているように日本語におけるこのライブという言葉は本来の英語とは異なる和製英語である。だが、便宜上ライブという言い方をする)。各セットが1時間で、ライブと特典会から成る。つまりライブ(コンサート)そのものが文字通り24時間ぶっ通しで行われるわけではない。会場は一つではない。四つのライブハウス(これも和製英語。以下この注釈は略す)を渡り歩く。移動時間も含めると実質的な拘束時間は約27時間。この間、睡眠が取れないのは言うまでもなく、休憩時間らしい休憩時間も設けられていない。時程を見るかぎり食事が取れるかも怪しい。我々はアブ・グレイブ刑務所でアメリカ兵に虐待される捕虜のような扱いを受けることになる。人権侵害。
いや待てよ、冷静に考えるとこういうのって好きなときにふらっと入って出ていくものなんじゃないの? 何もこっち側が27時間ずっと張り付かなくてもいいだろう。当たり前のように通しチケット(JPY8,000)を購入しておいてなんだが。私は過去にKissBeeとBLUEGOATSの24時間ライブを観に行ったことがある。そのときは自分が全通するなんて発想はハナからなかった。KissBeeのときは(再入場が自由だった)朝と夜にちょこっとずつ観た。BLUEGOATSのときは一つのブロックだけ(4時間分だったかな)入った。別にLiVSの24時間ライブでもそういうスタンスで良かったとは思うんだけど、絶対に最初から最後まで居てやるという意地のようなものがMERA MERAとワイの内側に沸いていた。こういうのは向いていないと分かりつつも、経験しておきたかった。ある種の通過儀礼として。LiVSに対する私のコミット度合いを示す証として。
一部:渋谷CYCLONE(11時~15時。1-4セット目)
二部:新宿Live Freak(16時~22時。5-10セット目)
三部:新宿WALLY(23時~翌9時。11-20セット目)
四部:渋谷CLUB CRAWL(10時~14時。20-24セット目)
二部:新宿Live Freak(16時~22時。5-10セット目)
三部:新宿WALLY(23時~翌9時。11-20セット目)
四部:渋谷CLUB CRAWL(10時~14時。20-24セット目)
セット単位で詳細の記憶は残っていない。一部の渋谷CYCLONEは確実に楽しかったと思う。こんな感じで今日(明日)はたくさんLiVSを観られるんだというワクワクしかなかった。二部も、どちらかというと楽しかった。ただ、疲れを感じ始めたと思う。三部は開始の時点から疲弊していたと思う。だんだん前で観たいという欲求がなくなってくる。ケチャをする気力が失せてくる。ジャンプするのがしんどい。コールを入れるのも徐々にきつくなってくる。ある時点から喜びよりも苦痛が上回っていた。今の私にとって生きる理由と言えるほどに大好きなLiVSでも、体内時計を無視して、睡眠どころか休みも取らずに観続けているとこんなにつらくなってくるんだという発見があった。
途中でふと冷静になる。俺は、俺たちは、LiVSは、なんでこんなことをやっているんだ。目的が分からない修行。苦行。宗教的。この先に何かがあるのか。救いがあるのか。分からない。この持久戦を通して我々が何を目指しているのか、それが明示されていない。たとえば8月18日(月)のLIQUIDROOMに向けて今のLiVSに足りていない何かを手に入れるためだとか、そういった事前の説明や発信を見た覚えがない。普段の70-80分の公演をやるのにいちいち理由は要らないけど、人間の生活リズムを無視した行事を乗り切るためには何かしらの大義が欲しくなってくる。しかしその渇望がLiVS信徒としての未熟さの証のような気もしてくる。信心が足りていない。つらさが頂点に達したのが午前四時台。“Reverse”の最中に意識が途切れ、よろけた。立ちながら居眠りをしていた。スタンディングのライブ中に寝る。しかも盛り上がる曲で。こんなことがあるのかと自分で驚いた。数時間前から立ち続けるのが苦しくなっていた。特典会が終わってから次のセットに行くまでの10-15分はフロアに座り込んでいた。四時台のセットもフロアの端っこ、壁沿いで観ていた…というよりやり過ごしていた。深夜の時間帯はみんな変なテンションになって楽しい的な言説を目にしたが、私の場合は単純に疲れて眠くて限界になるだけだった。時間を追う毎にどんどん体調が悪くなっていった。(私が居眠りをした直後のセットで運営さんたちによるショーがあった。それで何か目が覚めて、以降はずっと起きていられた。大食いを味変で乗り切るような感覚。)
コンニチハクリニックさんに異変を感じるセットがあった(6時台だったかな)。体調は大丈夫なのだろうかと心配になる感じだった。特典会で聞いたら、運営さんのショー(5時台)中に寝たところその後のセットで眠気が取れずライブ中に寝そうになってしまったとのことである。“Reverse”中に私が寝てしまった件についてミニ・マルコさんに話したら、倒れて頭を打ってしまう危険があるから無理はしないでと気遣ってくれた。演っている方はどういう感じなのか(眠くないのか)と聞いたところ、もはや分からないというようなことを彼女は言っていた。観ている分にはまったくいつもと変わらない旨をお伝えすると、嬉しい、体力オバケにならないとね的なことを言っていた。
頭が回らなくなってくる。特典会が始まっても誰の列に並んでどの券を使えばいいのかが分からない。誰とどんなポーズでチェキを撮って、何を話すのか、いっさい思いつかない。呆然と立ち尽くしているうちに特典会の受付が締め切られる。というのが何回もあった。この24時間ライブではコンパクト・ディスクを買ってLiVS券をもらういつもの形式とは別に特典会おみくじが販売された。内容は正月のときと同様。一枚JPY1,000。私は一部、二部、三部で10枚ずつ買った(10枚買うと1枚おまけでもらえるので計33枚)。ケツ・バット、デス・ソース、タイ・キック(2回)、ビンタの暴力シリーズをミニ・マルコさんでコンプリート出来た。一生の思い出である。支持者冥利に尽きる。ケツ・バットはもう一枚引き、コンニチハクリニックさんにやってもらった。デスソースが正月のときよりもだいぶからく感じたのだが、今思うと体調があまり良くなかったのが原因かもしれない。
現存するLiVSの持ち曲が約1時間49分、ライブの時間が20分×24セットで計算すると正味約8時間。となると演る曲を選り好みするわけにもいかない。持ち曲はぜんぶ演ってくれた(たぶん)。普段ほとんど披露されない曲、特に“Dear My Honey”を二回(たしか)聴けたのはお得感があった。運営さんによるショー(メンバーさんはお休み)1セットと、各メンバーさんのソロから成る1セットを除けばメンバーさん全員によるスタンダードな形でのライブだった。メンバーさんの衣装も三部で上がLiVS公式半袖teeになっただけでさほど代り映えがしなかった。もう少し変化をつけてくるかと思っていた。
24時間(27時間)ずっと眠らずにスタンディングの会場でライブを観るなんてのが無茶なのは分かっていた。でも、経験できて本当によかった。この二日間を通して、私はオタクとして兵役に相当するくらいの経験をした。経験した側としていない側の間に越えられない壁がある。そういう類のことを乗り越えたと思っている。