余韻に浸らせてくれない。LiVSに限らず、いわゆるライヴ・アイドルと称される集団の常なのだろう。終わったと思ったらもう次が始まる。公演、対バン、フェスへの出演発表は半ばゲリラ的で、考える間も与えずにチケットが発売される。中長期的な予定は分からない。来月の全容でさえ確定していない。全体像が見えないから、これに行ってこれには行かないという取捨選択をするのが難しい。(もちろん後からでもチケットは買えるが、基本的に整理番号は先着順なのでどうせなら叩きたい。)LiVSは走るのをやめたら死んでしまうかのごとく走り続けている。変な話だが、こんなに走り続けていたら売れる暇がないのではないかと思うことがある。公演に向けた準備や練習、開催と回復だけで精一杯なのではないか。新しい取り組みや作戦の立案に割くための時間的な空白が不足しているのではないか。そもそもが少数精鋭だった運営も、何の発表や説明もなく姿を消したササガワさんの代わりが採用される様子はない。残されたスズキさんは見るからに多忙で大変そうである。氏が倒れたら日々の公演の開催さえままならないのではないか。こんな状態で集団の未来を舵取りしていく余裕はあるのだろうかと、余計なお世話ながら気になってしまう。それはともかく、月曜日にあのインテンシティの高い対バンを観たばかり。しばらく現場に行かなくてもいいかなと思えるくらいに素晴らしかった。それで二日後にまた対バンかよ。さすがにお腹いっぱいだ。もう少し月曜日の思い出の中に住ませてほしい。もちろん私にその自由はある。高頻度で公演があるからといってすべてに来る義務は我々にはない。今日のチケットを買ったのは自分だ。ここに来ると決めたのは他でもない自分だ。それなのに弱音を吐くのはおかしい。それは分かる。だがここで今日は行くのを止めておくというお利口で理性的な決断をしてしまうと、船を下りたような負い目をちょっとだけ感じてしまうのだ。もう私は引き返せない段階まで来ている。LiVSに関してこれから私が選べる道は(地方ツアーは別として)今の強度で公演に顔を出し続けるか、まったく行かなくなるかの二択だと思っている。たとえば月に二回までにしておくというようなまともな選択はもう出来ない身体になっている。ミニ・マルコchanにめちゃめちゃにされてしまった。氏のせいで私の銀行口座の残高は見る見る減っていき、気力、体力的にも綱渡り状態である。一方、氏とLiVSのおかげで、私はこれ以上ないくらいの幸せを手に入れているのもたしかだ。
これだけ頻繁に現場があると、毎回毎回同じように最高だったというわけにはいかない。もちろんこれは八割は私の問題だ。LiVSはいつだって全力で、魂を込めたパフォーマンスを見せてくれる。だが、それを受け止める私のキャパシティの問題がある。だから基本的には私の心身の調子がよければよいほど私は公演を楽しめる。でも何というのかな、それだけではない。それが残りの二割で、私がそれが何なのかをはっきりと分かっていない。いずれにしてもその日が最高の思い出になるのか、楽しみ切れないまま終わるのかは、事前にある程度の予想がつくとは言え、本当にそのときにならないと分からない。これはフットボールにも似ている。一見、フットボールとコンサートでは興行、娯楽としての性格がまったく異なるように見える。フットボールには台本がなく、コンサートはあらかじめセット・リストが決まっている。フットボールは観客を楽しませるよりも対戦相手に勝つことが優先される(というよりその二つのテーゼが不可分である)が、コンサートで演者は対戦相手に妨害されない。より純粋に観客の求めるあるいは自分たちのやりたいエンターテインメント、ショウを届けることが出来る。フットボールの試合は本当につまらないときもあるけど、コンサートは基本的に一定の楽しさが保証されている。(蛇足だがたまにTwitterで盛り上がるのがライブでおとなしく鑑賞するのがコンサートなぞと得意げに書いているオタクを見るが英語にそんな使い分けはない。そもそもliveの用法も和製英語である。間違いに間違いを重ねている。馬鹿げている。)しかし私はLiVSに常軌を逸した頻度で通うようになって、ライブ(このブログでは和製英語だと何度も注意書きを添えているが、私はそれを分かった上で便宜上、使っている)というものが思っていたよりも水物で、ナマモノなんだなと思うようになってきた。
あの凄まじいクオリティと強度の対バンからわずか二日後。現場への飢えが皆無。平日。明日もあさっても仕事がある。昼間はゴア・テックス搭載の靴が中までずぶ濡れになる土砂降り。外出のモチベーションも持ちづらい。それに、対バン相手を知らない。女アイドルならまだしも、男性のロック・ミュージシャン。あまり興味を持てない。そんな状態で行っても消化試合になるのではないか。普通に考えたらそうなる。だが蓋を開けてみたらなんのその。これがめちゃくちゃ良かったの。行ってよかった。対バン相手のトモフスキーさんとLiVSでは客層が全然違った。向こうはほぼ全員がマダム。LiVS運営のスズキさんが新規無料写メ券(条件:LiVSの公式アカウントのフォロー)を彼女たちに受け取ってもらおうとフロアを練り歩くも次々に拒絶される。誰ももらってくれません……的なことを助けを求めるように言ってくる困り顔のスズキさん(正直、そのときの彼女はちょっと可愛かった)。明らかに畑が違う。フロアで双方のファンが入り乱れるということはなく、棲み分けられていた。それでもお互いが無関心というわけではなく、同じ公演を一緒に作り上げている仲間のような、いいヴァイブスだった。大箱、大観衆の熱狂とは異なる、小箱、少人数ならではの安心感。対バンだとほとんどの場合、LiVSの自己紹介は名前だけの簡易versionだけど今日はfull verionsでやってくれた。つまり、マルコchanの替え歌を聴くことが出来た。たぶん8月18日(月)のLIQUIDROOMぶり。待ってました。嬉しい。マダムたちから笑い声が起きていた。新鮮な反応にマルコchanたちは嬉しそうだった。今日のライブはどういうわけかスイッチが入り熱くなることが出来た。汗だけで眼鏡が床に落ちるという珍事が起きた。(誰かの腕や肘が当たって眼鏡がずれたり曲がったりしたことは過去にもあった。)ヒヤッとした。すぐに拾って事なきを得たが踏まれたら12万円の眼鏡が終わりだった。このままだといつか壊れる。ライブ用にどうなってもいい安価なメガネを作らないといけないと思った。
トモフスキーさんの、年輪を感じさせる巧みな話術。アイドルって、本気系のアイドルと、“いわゆる”アイドルっているじゃん。これまで本気系だときのホ。とMAPAは知っていたけど今日そこにLiVSが加わった。と言ってから我々の盛り上がりを褒めてくれて、ファンも含めた総合力だと一番かもしれないと言って我々を持ち上げてくれた。トモフスキーさんの音楽は聴いていて心地が良かった。フロアでは人が動くことはなく、治安がよく平和だった。トモフスキーさんは1965年生まれ。若かりし頃はどうやらフロアにダイヴしたりともっと激しいスタイルだったようだが、年齢を重ねるにつれて落ち着いたスタイルに帰着したのかもしれない。ライブ中に差し歯が取れるというアクシデントで笑いが起きた。Dreams Come Trueに対するアンサー・ソングだという“Bad dreams also come true”(悪い夢だって実現するだぜ)が面白かった。男性客が多いフロアをトモフスキーさんは心底楽しんでいるようだった。たまには(自分の現場にも)来てくれよーと我々に呼び掛けていた。ただ、いくら好感を持ったところで異常な頻度でLiVS現場に駆り出され依存させられあらゆるリソースを搾取されている我々がトモフスキーさんの現場に行くのは難しいものがある。また対バンでご一緒させてくださいというのが現実的な回答である。我々はジャンキーなのである。