全員かじった禁断の実 今待ち受けてるのは審判の日
全員かじった禁断の実 もうじき来るぞ審判の日
全員かじった禁断の実 今待ち受けてるのは審判の日
全員かじった禁断の実 もうじき来るぞ審判の日
(Kダブシャイン、『ザ ジャッジメントデイ』)
正直に言う。楽しみだったのと同じくらい、私はこの日が来るのを恐れていた。巻き戻す時計の針。2025年5月7日(火)。下北沢シャングリラ。“Revenge Shangrila”ツアー、千穐楽。2024年8月13日(火)にLiVSが満員に出来なかったこの会場を、今度こそ埋めてやる。その思いが込められたツアー名。結果は誤魔化しようがない。実際にチケットが何枚売れて、何人が入場したのか、私は知らない。それでも“Revenge”が出来たとは到底言えないと断言できるくらい、フロアは空いていた。当時を知る目撃者(LiVS支持者の総称)によると前回よりも人が少なかったらしい。公演中にミニ・マルコchanが流した、あの悔し涙。ごめんなさい、と言ってフロアに向けて深々と頭を下げる彼女の姿。私の頭にこびりついて離れない。折に触れてフラッシュ・バックする。あのとき埋められなかった下北沢シャングリラの収容人数が600人。それに対し今日のLIQUIDROOMは900人。600人の会場を満員にした集団が、次のステップとして、適切な期間を置いた上で900人の会場に挑むというのなら分かる。600人を埋められなかった集団がわずか三ヶ月強で900人を目指すのである。もう無理ゲーじゃねえか。動員を増やすために手を打つにしても期間が短すぎるでしょ。また公演のどこかでメンバーさんが神妙な面持ちで整列して、今回もダメでしたって言うのを聞かされるのか…あの苦痛を再び味わうことになるのか…せめてマルコchan以外の口から言ってくれ…。今日のことを考えて胸が苦しくなることが何度もあった。見たくなかった現実。聞きたくなかった言葉。そういったものと直面させられるのが怖かった。それでも遂にこの日が訪れてしまった。
もし今回も結果が芳しくなかったら。これからのLiVSはどうなってしまうんだろうか。メンバーさんはモチベーションを失ってしまうのではないだろうか。普通の女の子に戻る決断をしてしまうのではないだろうか。(もう私たちは普通のオジサンには戻れないというのに…。)ひとつ言えるのは、シャングリラの悪夢から今日までの三ヶ月強、LiVSが動員を増やすための手を打ってきたことに疑いの余地はない。特に7月5日(土)から7月27日(日)にかけて行われた主催対バン・ツアー(Chemistry LiVE with LiVS TOUR)では仙台、千葉、埼玉、大阪、愛知、横浜を回り、総勢11組もの同業者たちを呼び集めた。目的は説明されなくても分かる。一人でも多くの人たちにLiVSを知ってもらい、LIQUIDROOM公演に来てもらうこと。この対バン・ツアーは昼に開催され、いずれの日も夜に通常のツアー公演があるという二本立てだった。LiVSはこの主催ツアー以外にも数多くの対バンに出演してきた。ひとつひとつの公演で魂を燃やし尽くすくらいの覚悟と気持ちを、私はLiVSのメンバーさんから感じた。LIQUIDROOMを埋めるという目標に対し、その打ち手が吉と出るか、凶と出るか。と思っていた矢先に発表される、ユニセックスさんの脱退。よりによって今かよ、というタイミング。
厳しい日程。先述したように下北沢シャングリラ公演から三ヶ月強という期間の短さ。600人の会場を埋められなかった集団が900人を埋められるようになるための期間としては相当にきついのではないか。6月28日(土)にLiVSがツー・マン(和製英語)公演を行ったFinallyもLIQUIDROOM公演が決まっていた。しかし彼女らのLIQUIDROOM公演は11月9日(日)。LiVSよりも三ヶ月近く期間がある。LiVSと違って日曜日。そして、そもそもの集客能力がLiVSより上。一方、8月18日(月)は一般的には夏季休暇明けの最初の平日。もちろん実際の休暇スケジュールは業種、会社、職種、個人によって異なる。だが昨日まで盆休みだった人は多かったはずである。先週は通勤電車がやけに空いていたし、土日も池袋や新大久保のストリートにいつもの賑わいはなかった。8月18日(月)に来たくても来るのが容易ではない人は多かったはずである。難易度の高い日程で大切なコンサートを開催するのはLiVSだけの悪癖ではない。Hello! Projectでさえ日本武道館での公演を平日に行うのが通例である。需要のピークを外した日だと会場の使用料が安いのだろう。私の場合、今の勤め先には一斉の盆休みというのが存在しない。7月から9月の間に三日間、各々が自由に夏休みを取るシステム。そのうちの一日を今日に充てた。幸いなことに仕事の状況的にも休みを取るのは困難ではなかった。(一度ヒヤッとしたのが次の週に海外出張が入りそうになったことだ。一週間ずれていたら大変なことになっていた。肝を冷やしたが、結局はその出張自体が中止になった。)
狂っている東京の夏。人間がまともに活動していい気温と湿度ではない。まるでラッパ我リヤの1stアルバムのように“SUPER HARD”。日々を文字通り生き抜いているだけで有森裕子さんのように自分で自分を褒めてあげたくなる。こんな季節に、ここまで詰め込めなくていいんじゃないか。こんな季節に、集団の存亡を懸けるような勝負どころを持ってこなくてもいいんじゃないか。もうちょっと強度を落として、休み休み、のらりくらりやり過ごす時期にしていてもいいんじゃないか。メンバーさんに一週間くらいの夏休みを与えてもいいんじゃないか(あ、でもあんまり自由を与えちゃうと彼氏サンとたくさん会っちゃうか…)。私はたまにそう思うことがあった。今日も外を歩くだけで垂れ落ちて目に入ってくる汗。600人の会場を埋められなかったのに今度は900人の会場を埋めないといけないという状況。そのために与えられた三ヶ月強という短すぎる期間。メンバーの脱退。そして過酷な気候。とにかくこの期間はLiVSにとってはすべてがスーパー・ハード・モードだったように思う。端的に言うと、分の悪い勝負に思えた。
LIQUIDROOMには何かのMCバトルで来たのは覚えている。それを含め過去に一、二回来たことがあるはず。と思って過去のメールやブログを検索してみたところ、どうやら三回来ているらしい。最初は2016年5月29日(日)の戦極MCBATTLE 14章xAsONE。そういえばミニ・マルコchanは戦極とKOKを現地に観に行ったことがあるんだって。6月5日(木)の特典会で言っていた。ただ音楽としてのヒップホップほとんど聴かないみたい。 #KTCHAN の“BaNe BaNe”は知っていて、話の流れでちょっとフックを口ずさんでくれたことがある。二回目は2017年4月15日のfox capture plan。三回目は2018年4月22日(日)のDOTAMA。私はDOTAMAがバトル中にLiVS元運営のササガワさんに似た対戦相手(札幌のギャグ男)に殴りかかられる動画をTwitterに投稿したことがあるのだが、それをマルコchanも見てくれていた。あれササガワさんに似てるよね! びっくりしたと言っていた。ということでどうやら私にとっては四回目、七年と四ヶ月ぶりの会場。
前物販。本日限定のteeシャツを無事に入手。アルコール依存症でコン・カフェに高頻度で入り浸っている某氏と合流。メシをご一緒するつもりだったが入場時間の17時半まで意外と時間がない。駅前のエビス・バインミー・ベーカリーでサクッと。牛筋焼肉のバインミーJPY740。追加パテJPY200。ベトナム・コーヒー・セットJPY290。セヴン・イレヴンでボンタン飴をつまみに酒を一缶。ここまで来たら、もう腹を括るしかない。LiVSの晴れ舞台を精一杯目に焼き付けること。この時間と空間と味わい尽くすこと。私に出来るのはそれだけ。
フロアは柵で三つに分けられていた。JPY100,000のチケットを購入した、完全にガンギマッたキチガイ(褒めてます)の紳士たち十数名専用のエリア。彼らが最前を独占。その後ろがJPY31,500とJPY10,000のチケットを購入した、まだ分別のある我々(私はJPY31,500)のためのエリア。そして後方にはJPY3,000とJPY1,000(新規客)のチケットで入場した一般人向けのエリア。単に入場の順番を分けるだけではなくこうやって物理的に区切る判断は正しかったと思う。少なくとも今日の会場規模では。私は昨年12月に渋谷WWWXでLiVSを観たときにフロアに柵を設けることに苦言を呈したが、今思うとあれは戯れ言だった。認識を改めなければならない。値段を考えなさいよ。JPY100,000を払った彼らには彼らだけの快適な空間が保証されて然るべきだ。いくらなんでもJPY3,000のチケットで入った人たちがJPY100,000を払った人たちと同じ場所にフラフラと侵入できちゃダメでしょ。私だってJPY31,500のチケットを買ったんだからJPY3,000やJPY1,000で入っている人たちと比べて明確な特権が欲しいよ。ここまで価格に明確な傾斜をつけている以上は得られる経験に差をつけるのは売り手の責任である。(柵を設けるべきかどうかは会場の規模にもよるとは思う。)私は二つ目のエリアの最前で観ることが出来た。
どうしても気になる、フロアの埋まり具合。キモいオジサン・オタクにありがちな、開演前に最前付近からやたらと後ろを振り返るムーヴを繰り返す。(分かっている。あれは後ろから見ると気色が悪い。)すると、開演時間が近づくにつれ一般エリアが見る見る埋まっていくではないか。見覚えのある顔(Finally支持者の紳士たちなど)、見覚えのない顔。「知らない顔が多すぎる」と近くの目撃者が苦笑していた下北沢シャングリラとは明らかに様子が異なる。一般エリアがパンパンになっていく様を見ていると、ちょっとうるっと来た。この数ヶ月、LiVSが数多くこなしてきた対バン。ひとつひとつの公演で彼女たちが見せてきた、手抜きゼロの、魂のこもったパフォーマンス。その地道な積み重ねが、結果に結びついているのではないだろうか。普段から通うわけではないけどうっすらと関心はあって、大事な公演ならふらっと来るようなライト層が生まれつつあるのではないだろうか。これは超重要。横浜F・マリノスも普段のホーム・ゲームの動員は平均25,000-27,000人程度(試合単位で見ると10,000-40,000人くらいの幅がある)だが大一番になると一気に増える。2019年のリーグ優勝を決めたFC東京戦には63,854が入場した。これは普段からスタジアムに行くわけではないけど横浜F・マリノスに興味はあって結果だけは追っているとかYouTubeのダイジェストは観ているというようなライトな層が存在し、いざというときに現地に駆けつけるからだ。もちろんプロフェッショナル・フットボールとインディー・アイドルを完全に並列で語ることは出来ないが、認知度を高め、ファンの裾野を広げることの重要性という点では共通している。一曲目の“ONE”で、フロアを見つめるメンバーさんの瞳がやや潤んでいるのが、私の距離からは分かった。あの涙(まだ流れていない段階のそれを涙と呼ぶのか分からないが)、5月に下北沢シャングリラでマルコchanが流した悔し涙とはまったく違う意味を持っていたはずだ。
流した悔し涙 決して無駄にはしない武士の嗜みだ
(RHYMESTER、『リスペクト』)
この公演では危険だからという理由でサークル(フロアで観客同士で輪になってグルグル回るやつ)と床に寝そべることが従来の禁止事項に追加された。私個人に関して言えばそれらの行為に興味がまったくない(やりたいと思ったことがない)ためどうでもよかった。そもそも禁止されていなかったのを知らなかったくらいだった。それよりもメンバーさんがフロアに下りてくることの方が危険だったんじゃないか。この規模の会場で、これだけ人がいるフロアにメンバーさんが乱入していったのは驚きだった。普通に考えると興奮しタガが外れている(お酒を飲んでいる人も多かっただろう)男性たちが密集する中に若くて容姿端麗な女性たちが飛び込んで行って何かが起きない方が奇跡である。他のメンバーさんはともかくミニ・マルコchanだけには指一本触れさせたくない。マルコchanが何かをされないだろうか。わちゃわちゃしているどさくさに紛れて触る奴はいないだろうか。私は気が気ではなかった。誰かがマルコchanが転ばないように補助するようなふりをして馴れ馴れしく後ろから身体を触っているのが見えたような気がした(私の脳が作り出した幻影だった可能性もある)。胸と胃が苦しくなった。コンニチハクリニックさん、ランルウさん、スズカス・テラさんが多少触られるのは最悪受け入れるとして、マルコchanだけにはそんなことがあってはならない。護衛をつけたかった。坂田さん(アイドル現場でセキュリティの仕事をしている知人)を雇いたかった。メンバーさんはフロアに二度、下りてきた。これはフロアの熱狂を加速した。コンサートのハイライトのひとつだったのは間違いない。一方で、何かが起きてしまうリスクもはらんでいたと思う。そして何かが起きたときに、それを100%観客のせいには出来ないと思う。着座のいわゆるホール公演でメンバーさんが通路を練り歩くのとは全然違うし、同じスタンディングのフロアでも男性がもみくちゃになるの前提で群衆に突っ込むのとも全然違う。
その極めて個人的な心配はちょっとあったけれど、誰が何と言おうと大成功のLIQUIDROOM公演だった。何枚チケットが売れ、フロアに何人がいたのかは知らない。今回の動員結果をLiVS内部でどうとらえているのかも知らない。でもこれが成功じゃなければ何が成功だというんだ。動員的にも、内容的にも、LiVSが出来ることのすべてを出し切ったと思う。下北沢シャングリラの苦しい記憶。そこから地道に続けてきた対バン。直前にメンバーを脱退させる決断。それらを乗り越えて手に入れた、最高の夜。正直言って私はこのわずか三ヶ月強でここまでの立て直しが出来るとは思っていなかった。またコンサートのどこかでメンバーさんが思うように集客が出来なかったことの悔しさを報告する葬式のような時間が来るのではないかと、何割か思っていた。それが本当に怖かった。でも、今日こうやって十分に人が埋まったように見えるフロアで、自分もその熱狂の一部になれて、メンバーさんが心から楽しみながら歌って踊る姿を見ることが出来て、胸のつかえが取れた。精神的に楽になった。LiVSを観てきてよかったし、これからも観ていきたいと強く思った。下北沢シャングリラから今日のLIQUIDROOMに至るまでの三ヶ月強でLiVSの未来は一気に明るくなったように見える。