何年ぶりに入ったか分からないマクド。六本木。ホット・コーヒー(M)。なんだこれは。飲めたものではない。私がふだん利用するドトールやヴェローチェといった一流店との違いは歴然。手元に置いたまま開かれる気配のない『ブロッコリー・レボリューション』(岡田利規)の文庫本。iPhone SE (2nd generation)で眺めるTwitter。夜は東十条にネパル麺(ミゾグチヤ)を食べに行くというF君の投稿。私は今、めいめいが出演するミュージカル“SIX”の入場までの時間調整でここにいる。いさせられている、という感覚の方が強い。“SIX”がなければ東十条でF君とネパル麺をご一緒したかった。“SIX”とネパル麺、今どっちに興味があるかを問われればネパル麺だと即答する。腹が減っているわけではない。ネパル麺を所望する気持ちが強いというよりも、“SIX”を観劇する意欲が弱い。ほぼゼロ。もっと面白いこと、興味のあることをやりたい。六本木から抜け出したい。もちろん私にはその自由がある。EX THEATER ROPPONGIに入らなかったとしても誰にも咎められることはない。しかし、チケット代JPY14,000に加えて手数料と送料を支払った手前、おいそれと干すわけにはいかない。JPY2,000-3,000のコンサートを干すのとは訳が違う。誰かにチケットを譲れればよかった。試みた。昨日Twitterで検索し、直近でチケットを求めている人を二人くらい見つけた。そのうちの一人にリプライを送った。ところが10時半頃にリプライを送って夜になってもうんともすんとも言いやしねえ。あり得ない。お前、チケットが欲しいんだよな? 仕事は言い訳にはならない。お前がそうやって公演の1-2日前になってチケットを求めているんだったら仕事をサボってでもTwitterに張り付いて通知欄に目を光らせる義務がある。そいつのことは19時で見切りをつけてブロックした。仮にその後になって返事を寄越してきたとしてもこんな非常識な奴との取引はイヤな思いをさせられる可能性が高い。まあ、動き出すのが遅すぎた私が悪い。“SIX”の公演時間が80分であることを、マクドで検索して知った。変な話だが80分で終わってくれるという朗報によって私の意欲が少し回復した。ミュージカルって3時間くらいあることが多い。前半90分、ハーフ・タイム20分、後半60分くらいの。80分だったら19時半には東十条に着ける。F君とネパル麺をご一緒できるじゃん。
かなりいい席だった。段差が始まる一番前の列。ほぼど真ん中。考えようによっては会場の中で一番見やすい席かもしれない。開演前、マスクを着け、死んだ目で、決められた二つくらいの台詞(カーテン・コール以外では撮影をするな、とかの注意事項)をひたすら連呼するスーツ姿の係員。まだ20代だろうか。まだ若いが、学生という感じでもない。その年代でこんなシルバー人材のような職務をやっていていいのか。厳しいって。弱いって。モテないって。いずれ人工知能に仕事を奪われるとか以前の問題。現時点で既に必要がない仕事。だってあんなの録音された音声を流しっぱなしにしていればいいじゃん。よっぽど好きなことで夢を追いかけているとか、不労所得で暮らしていけるけど社会との繋がりを感じるために申し訳程度に働いているとかでもないかぎり、ガチで危機感持った方がいい。コールド・シャワーとオナ禁、筋トレが必要。
久しぶりに観たミュージカル。さすがに華やかだった。LiVSやBLUEGOATSとは桁が異なるであろう予算規模。収容人数は920席らしい。それだけの人数が一人当たりJPY14,000を払っているわけだからね。もちろんその分、会場代とか、裏方の給料とか、諸々の費用も桁違いではあるだろうけど。うわー、すげーって、最初は思った。だけど、その高揚も長くは続かなかった。通常、ミュージカルというのは黙って静かに観ることが求められる。“SIX”は毛色が違って、盛り上がることが許容されている。中身はだいぶコンサートに近い。ただ、その盛り上がり方、会場のノリが、私にはどこか嘘っぽく感じられた。何というのかな、ガイドラインに沿った歓声というか。思わず出てしまう声とか、熱狂とか、そういうものではなかった。録音された「歓声」という題名のSEを、誰かがボタンを押して流しているような。ソープ・オペラで流れる笑い声みたいな。コンサートとして見た場合、何よりもまず単純に高すぎる。“SIX”にもミュージカルというジャンルにも思い入れがない私がフラットに見たとき、これに出せるのはせいぜいJPY6,000だ。“SIX”の世界、ミュージカルの世界にどっぷり浸かって心酔していないと、これにJPY14,000を喜んで払うのは無理だ。それに盛り上がるのか、聴き入るのか、どっちに振り切るわけでもなく、中途半端に感じた。ミュージカルとして見た場合、衣装がひとつしかないし、内容も物語というよりは掛け合いやコントに近いしで、さほど深みを感じることが出来なかった。もちろんそれは私の知識不足が主な原因ではあるが、他のミュージカルとの比較ではなく、私が愛好する他のライヴ・エンターテインメントとの比較において、明らかな物足りなさを感じた。
今の私が求めているライヴ・エンターテインメントと比べ、現場のインテンシティが低い。ぬるい。今の私がしっくり来る居場所は、LiVSのフロア。BLUEGOATSのフロア。横浜F・マリノスの観客席。そこには情熱がある。激しさがある。そこでは我々の感情表現がその興行を構成する要素となっている。やる側と観る側の関係が、ミュージカルとは大きく大きく異なる。このギャップが、私にはもう無視できなくなっている。それはそれ、これはこれで両方を楽しむというのが難しくなってきた。前にも書いたが(その“前”がいつなのかと思えばもう一年以上前だった。これだけの期間、ミュージカルを観ていなかったのか)、私は喜怒哀楽の発散、解放を求めている。そのためには現場にインテンシティの高さが必要だ。いや、私は別に周りと喧嘩をしたい訳じゃない。揉みくちゃになって怪我をしたり眼鏡を破壊されたり服を破られたりしたいわけじゃない。平和を希求している。とは言えピクニックをするためにチケットを買って会場に足を運んでいるわけではないのもたしかだ。完全に受け身の娯楽も悪くはないが、それなら映画で十分だ。わざわざ会場に足を運んで、家でYouTubeを観るのと大差のない体験はしたくない。
ごめんね。あえて乱暴で誤解を招く言い方をさせてもらうと、女向けの娯楽なんだ。ミュージカルってのは。それが悪いと言っているわけではない。ここで私は何の価値判断もしていない。単純に、分類としてそうだと言っている。そしてその分類で言うと、私は男向けの娯楽が好きなんだということ。当たり前と言えば当たり前なんだが、男は男性比率の高い現場に行った方が肌に合う可能性が高い。女も女性比率の高い現場に行った方が肌に合う可能性が高い。性別だけでなく年齢による区分けもあるだろう。すげー雑に言ってしまうと、オジサンはオジサンだらけの現場に行った方が楽しいんだ。もちろんこれは一般論。個別に見ると、これに当てはまらない場合もあるだろう。そして、LiVSを、BLUEGOATSを、フットボールを女が観に来ちゃいけないなんてことは絶対にない。実際に女の客もいる。ミュージカルを男が観に来てもいけないなんてことも絶対にない。実際に男の客もいる。それを踏まえた上で、男がたくさん来る興行・娯楽と、女がたくさん来る興行・娯楽というのはあって、それはその現場の強度やノリと密接に関係している。私にとって、女が客の大半を占める飲食店は間違いなくハズレである。あくまで私の目線では。しかし、そこに来ている女性たちにとっては居心地のいいステキな飲食店なんだ。世の飲食店は客層によって棲み分けが存在している。女の多い飲食店は、店側が明示的に女しか来るなと言っているわけではなく、出す料理や店の雰囲気、接客、立地などの諸要素によって結果的に多くの女性客を引き付けているのだ。そしてミュージカルの世界というのが、私にとってはまさにその客が女ばかりの飲食店に相当するのである。
会場を出て六本木駅に向かう道で聞こえてくる、周りの女性たちの話し声。感想を語り合う彼女らは、一様に満足げだった。それを聞いて、私はミュージカルの観客として潮時なんだろうだと感じた。となると、めいめいの支持者で居続けることにも限界がある。だってこれってさ、とあるフットボーラーが好きだけどフットボールはどうしてもそこまで好きになれないみたいなもんでしょ? 成り立たない。めいめいが出演する次のミュージカル『キンキー・ブーツ』はどうしたんだっけと思ってGmailを検索してみたら、申し込んでいなかったようだ。ファンクラブ先行申し込み期間が2024年10月3日(木)~10月9日(水)だった。東京公演は2025年4月27日(日)~5月18日(日)。そりゃそうだ。七ヶ月先の予定を抑えられないっつーの。明治安田J1リーグの日程も全然決まってないし。ただ、ちょうどよかったかもしれないね。めいめいの支持者であるという体裁を保つために惰性でミュージカルを観続けるべきではない。今一番楽しめることを楽しむべきだ。しっくり来ない場所からは一旦離れてみたらいい。