二日前からイー・プラスのアプリで発券出来るようになってて、見てみたらまさかの整理番号一番。それ以来ずっとソワソワ。ついに当日。時間が近づくにつれ緊張。絶対に出来ない遅刻。18時半開場、19時開演。念には念。あり得る大幅な電車遅延。早めに渋谷に着いておく。この機会にまたいんでぃらのカレーを食いたかった。前にBLUEGOATSを観に来たときにたまたま入ったら凄くおいしかった。そしたら臨時休業。ファック。うろつく。場所はセンター街。目に入る元祖寿司。そういえばこの店はF君の聖地。巡礼する。F君一押しのつぶマヨを二皿。たしかにこれを食べたくなるのは分かる。皿の値段をあまり気にせず油断して取っていたら、え、これがJPY600するんですか? というのを二皿食べてしまっていた。請求額がJPY2,500を超える。苦虫嚙み潰す。こういう類の回転寿司屋はファスト・フードにしちゃ変に割高だし、寿司にしちゃリアルじゃないしで、私にとっては満足度が低い。だってさ、ランチだけどたとえば池袋の海鮮山でちゃんとした寿司9貫くらいと味噌汁と漬物とちょっとした小鉢までついてJPY1,200で食えるわけで。18時13分くらいに会場のegggman付近。少し離れたところでもも裏を伸ばしたりしていると近づいてきた紳士に話しかけられる。#KTCHAN の公演に入る同志だった。少しお話すると、たまたまTOKYO FMに #KTCHAN が出ているのを聴いて今日のことを知ってチケットを買ってみたのだという。番号を伺うと30番台後半だった。開場時間間近になっても何の案内もない。会場に下りる階段でヘッズが自主的に列を作っていた。聞いてみると番号順ではなく何となくいるとのこと。頃合いを見計らって先ほどの紳士と別れ、下におりる。LiVSで鍛えた社交性を遺憾なく発揮し、先頭付近の方々に話しかける。だって単騎で乗り込んで誰とも会話を交わさずに黙々と先頭に来る謎の整理番号一番って不気味すぎるだろ。そういうのはよくない。人見知りだからって済まされる話ではない。それにこういうそこまで大規模ではない興行ではちょっとでも周りの同志たちと打ち解けておいた方が楽しめる。皆さんはツアーの大阪、名古屋は行かれたんですかと聞くと誰も行っていなさそう。一人だけ、リリース・パーティの大阪には行ったという紳士がいた。どこにでも #KTCHAN を追いかけていくコアなおまいつ層というのはまだ存在していないようで、ちょっと意外だった。公演の前後にちょっと周りと交流が出来たことで公演そのものも余計な心配なく楽しむことが出来た。次に現場で一緒になったら飲みに行こうという話にもなった。新しい世界に飛び込んだときは知らない人に自分から話しかけることが大事。それがその後に繋がってくる。生きる上で基本的なことではあるが、LiVSを契機に私はこの歳になって学び直している。
開演予定時間は19時だったが、 #KTCHAN がステージに登場したのは20時過ぎ。まず単純に15分くらい開始が遅れた。その後にゲストの9forさんとreichiさんのショー・ケースがそれぞれ20分あった。そして #KTCHAN の出番は約45分だった。このタイム・テーブルは我々には事前に知らされていなかった(どこかに書いてあったらごめんなさい)。私はヒップホップのコンサートに来たことがほとんどないので普通が分からない。ヒップホップの大事なフック・アップ文化なのかもしれない。だが、 #KTCHAN が好きで、彼女のワンマン(和製英語)・コンサートを観るために平日の渋谷に集まった人たちの中には、これを歓迎できる人とそうではない人がいるだろう。最初から20時に出てくると分かっていれば仕事で無理をせずに済んだという人もいるかもしれない。 #KTCHAN の出番が45分くらいしかないんだったら今回はパスするわ、遠征しないと行けないし、という人もいたかもしれない。あとさ、最悪のケースとして移動の関係上20時頃には出ないといけないっていうパターンも考えられるわけじゃん。そういう人がいた場合、19時から1時間は #KTCHAN を観られるつもりが、実際には一秒も観られないっていう。平日に来てもらって、その人たちのお金と時間をもらうということに対する主催側の感覚がちょっと鈍い気がする。ヒップホップではこれが普通と言われたら私は黙ってしまうが。もちろん、9forさんとreichiさんのショー・ケースは熱量が高く、音楽も魅力的で、観る価値はあった。またreichiさんは衣装の肌面積が非常に広く、背中はほぼ丸出しで、ヴィジュアル的にも楽しませてくれた。
整理番号一番の人間として、まだ誰もいないフロアに入っていく感覚は本当に特別なものがあった。前に一番だったのはいつかな。たしかめいめいのリリース・パーティのときだったかな(あのときは私の番号が二番だったけど一番が不在だった)。最前の真ん中。始まる前から凄まじかった。このような幸運、幸福を受け入れるには自分自身のキャパシティも必要。自分のキャパシティが小さければ受け止めきれない。耐えきれない。いやいや自分なんてモンは末席で十分ですよというマインドでいると、あっという間にチャンスは他の人の手に転がってしまう。「チャンスはいつもたった一回 二度目が来なきゃすべて失敗」(DJ YUTAKA feat. ZEEBRA, “Chance”)。そのときが来たときに堂々としていないといけない。精神的な準備が出来ている必要がある。人生全般に言えることなのだろう。こういういい位置にはいい位置なりのプレッシャーもある。前の人の動きや反応を見てそれに合わせるということが出来ない。そして演者さんに絡まれることもある。実際、私は9forさんの出番中に話しかけられた。お兄さん、今日はどこから来ましたかって。池袋ですって答えると、池袋ですか。だいぶ近いですね。そこは横浜という答えが聞きたかったです(※9forさんは #KTCHAN 同様に横浜出身)的なことを言われた。何でやねん。それは理不尽やろ。
9forさんは自身が普段相手にしている客層と年齢差が異なる(もちろん今日の方が歳が上)点に言及し、やや戸惑いが見られた。私も両隣にいる紳士も程度の差こそあれオジサンである。そうだよね、典型的なヒップホップの現場に来る層とはちょっと違うよね漏れたちって。オジサンでごめんね…という申し訳なさがある一方、お前よりも長くヒップホップを聴いてきたんだゾっていう自負もある。いま調べると9forさんは22歳らしい。reichiさんは25歳。このお二人が生まれる前から私はヒップホップを聴いて、ヒップホップに影響を受けている。そういう意味では気後れする理由はない。ただ、ここにいるヘッズがみんなそうかっていうと必ずしもそうではなさそうである。実際、今日知り合って多くの会話をさせていただいた紳士は元々ヒップホップを聴かれていたわけでもMCバトルがお好きだったでもなく、たまたまYouTubeで観た動画で可愛い女の子として #KTCHAN を発見し、アイドル的な感覚で彼女を支持なさっている様子だった。そういうファンを掴んでいるのは #KTCHAN の特徴であり強みでもある。
手を伸ばせば触れる距離で #KTCHAN が、私が大好きで繰り返し聴き続けている曲たちをパフォームしてくれている。たとえJPY50,000出されようがJPY100,000出されようが誰にも譲れない、とてつもなく幸せな時間だった。過去の曲も好きだけど、メジャー・デビュー後の新曲にはどれも食らい続けている。特に3月31日(月)にドロップされたばかりの『キャp@い』には衝撃を受けた。ラップの技巧、フロウの多彩さ、リリックのユーモア。遊び心。ご本人のお人柄も曲全体に感じられ、等身大。お仕着せではない、 #KTCHAN にしか表現できない独自のラップ世界がこの曲にはある。最初から最後までずっと必殺技を出し続けているような。おいしいところだけが詰まっている。耳が喜ぶ。この曲をいち早く生で、目の前で堪能できたのは本当に感無量だった。音源とはちょっと違う歌い方。特にフック。直接的に感情を乗せる、切羽詰まった感じだった。トラックが始まる前に「キャp@~~~~!!!」と叫んで、曲の後にはアカペラの早口ヴァージョンで歌い直していた。終演後の物販で、ご本人に『キャp@い』の感想を伝えることが出来た。キャp@いときにたくさん聴いてね、と彼女は言ってくれた。
客入りはちょっと寂しかった。開演の直前になるとまばらながらもフロアが全体的に埋まってきたけど、それでも50人くらいだったんじゃないかな? 数えたわけじゃないけどね。もうちょっといたかな。 #KTCHAN 自身もeggmanに来場した我々に何度も感謝を述べるとともに、完売に出来なかった悔しさを露わにしていた。より音楽に専念するためにこの春から大学を中退したという。大学を辞めたと言った直後に噛んでいて、この事実を公にすることへの緊張が伝わってきた。彼女トゥイッターのフォロワー数が約26,000人いる。界隈の認知度はかなり高い。ラップのスキル、楽曲のクオリティも伴っている(この私が言うのだから間違いない)。個性的なお人柄。愛嬌。ファンに対するサーヴィス精神。バトルで得た抜群の知名度をテコにして始めた音楽活動。YouTubeのヴィデオ・クリップが叩き出しているそこそこの再生回数。1月からメジャー・レーベルに所属。輝かしく、華々しい経歴。順風満帆に見える。しかし今日の動員を見るに、意外にも苦戦しているようだ。LiVSを見ているとクオリティが高いだけでは人がたくさん集まって会場がパンパンに埋まるわけではないのはよく分かったが、 #KTCHAN で解せないのはクオリティに加え知名度も非常に高いのにeggman程度の箱でも動員に苦しむという点である。ソロで両国国技館に立つという #KTCHAN がかねてから掲げている目標が、眩暈がしそうなくらい遠く見える。誰もが発信でき、定額のストリーミングで楽しめるエンタメ、無料で楽しめるエンタメ、その他多くのエンタメが無数に存在し、なおかつ日本に住む多くの若者は貧乏である。この状況下でそれなりのお金がかかる興行にて足を運んでもらうことの難易度は計り知れないのかもしれない。
どういう人に来てもらって、何を見せるのか。何を売るのか。その辺をもう一度はっきりさせる。ベンチマークとなるアーティストやグループなどをヒップホップ内外でいくつか設定する。どういうところから客を引っ張ってくる(つまりどこで戦うのか)かを決め、そのための施策を打つ。それくらいやっとるわボケと言われるかもしれないが、 #KTCHAN が活動規模を大きくしていくためには、今一度そういった作業が必要なのかもしれない。 #KTCHAN 自身のスキル、キャラクター、音楽のクオリティには疑いの余地がない。ただ、この時代に曲をリリースしているすべてのアーティストに言えることかもしれないけど、いくらクオリティの高い音楽を作ったところで、彼女の曲をしっかりと聴き込んでいる人って実はごく少数なんじゃないか。私は結構トップ級のリスナーなのではないか。ヒット曲を出せば売れるという発想には限界があるんだろう。