2019年4月27日土曜日

不思議の国のアリスたち (2019-04-18)

なぜ私がアイドルさんを鑑賞するかというと、彼女たちが私を夢の世界に連れて行ってくれるからだと思う。現実生活のストレス。労働。将来の展望。一言でいえば人生。それらを一時的であっても忘れさせてくれる。頭の中に溜まった負の感情を、楽しい、可愛い、カッコいいといった前向きな気持ちで上書きしてくれる。すさんだ感情を修復してくれるのがよいコンサートだ。(コンサートだけじゃなくイベント、舞台、接触、ラジオ番組、動画等々、すべてに当てはまる。)現実からの逃避ではあるけれども、同時にそれは現実に立ち向かう力にもなり得る。

公演中ずっと労働中の失敗のことや上司の顔、明日やらないといけないことが頭に浮かぶようでは楽しめたとは言えない。マインドフルネスに関する本(たとえば久賀谷亮、『世界のエリートがやっている最高の休息法』)に書いてあるように、脳の疲れは過去と未来について気を揉むことで生まれる。いかに現在だけに意識を置くことが出来るか。ストレス解消はそれにかかっている。アルコールを入れるのが手っ取り早い。お酒を飲むことで、コンサートに適した精神状態を仕上げることが出来る。無性に楽しくなってくる。飲酒してのご観覧。厳密に言えば禁止事項であるというのも含めてドーピングと呼ぶに相応しい。もっともアルコールを入れると過去、未来だけではなく現在の認識も怪しくなってしまう(量による)。睡眠にも悪影響を及ぼすので、アルコールの力を借りるのはたまににとどめたい。

演劇女子部『不思議の国のアリスたち』プレビュー公演を観覧するにあたって、私を取り巻く状況は以下の通りであった:
・29,000円で買ったばかりのスニーカー(HOKA ONE ONEのTOR ULTRA LOW WP)が絶望的に足に合わない。試着なしで、通販で買った。サイズは合っていた。HOKA ONE ONEは別の型を持っているのだが、履き心地がぜんぜん違った。馴染むことを期待して何度か履いたら左足を負傷した。歩くだけで足が痛い。履いて足を痛める靴には使い道がない。ZOZOTOWNのブランド古着買取サービスに送った。二束三文でも仕方がない。所持していても邪魔になるだけだ(後日、10,500円の値が付いた)。
・労働を早めに切り上げて会社を出たが、労働が追いかけてきた。会社のiPhoneでメールを見ていたら、私が作成した資料に関する質問をある人から受信した。公演前の腹ごしらえに立ち寄った新大久保のソルマリでラップトップを開く。受けた質問に答えるために自分の作った資料を確認してみると、無視できない間違いを犯していることに気付いた。期限は厳しく、明日まで待てない。関係しそうな二人の同僚に電話をかけて説明し、謝る。急ぎで仕上げなくてはならない。ラップトップの電池残量は数パーセントまで減っていた。開演時間と電池残量という二重の圧に追われ、焦って資料を修正し、メールで送った。ひとまず難は逃れたが気が休まらなかった。せっかくのカレーを味わう余裕はまったくなかった。
29,000円の出費が無駄になった上に足を傷めた。労働では目の前の問題からはひとまず逃れたように見えるがスッキリしない。労働のせいで夕食がまともに食べられなかった。普通に考えると、舞台の最中もネガティヴなヴァイブスを引きずってしまう可能性が高かった。

ところが、私が抱えていたフラストレーションは嘘のように消え去ってしまった。アルコールのおかげではない。ソルマリで飲んだのはラム酒一杯だけ。酔いが回るほどではなかった。スペース・ゼロのロビーで西田汐里さんと清野桃々姫さんの日替わり写真を買って、開場を待っている段階では精神的な乱れが残っていた。客席空間に入った瞬間から気持ちがスッと楽になった。これから楽しい時間が始まるという期待に全身が包まれた。何なんだろうか、この会場に入る度にそういう気持ちになる。意識がはっきりして、雑念が消えて、ワクワクする。私が演劇女子部を好きな理由の何割かはスペース・ゼロの素晴らしさが占めていると言っても過言ではない(常にスペース・ゼロで開催されるわけではないが)。

『不思議な国のアリスたち』は登場人物たちの夢の中で繰り広げられる物語という設定だった。この舞台そのものが、私にとっては現実生活のアレコレを忘れさせてくれる、夢の世界だった。とにかく最初から最後までずっと笑顔でいられる、素敵な時間だった。演技を突き詰めるというよりは、観客を巻き込みつつ笑わせて楽しませるということに重点を置いた舞台だった。演劇ではあるけれどもショーといった方がしっくりくる内容だった。

アリスを名乗る女の子が同時多発する。真のアリスをオーディションで決める。CHICA#TETSUと雨ノ森川海の9人がアリス候補。アリスたちは名前で区別できないため色が割り当てられるのだが、これが彼女らの実際のメンバーカラーと同じになっている。須藤茉麻さん扮する女王がオーディションのすべてを取り仕切る。平井美葉さん、里吉うたのさん、小林萌花さんが女王の手下。一応、山﨑夢羽さんが主演のような立ち位置ではあったが、見せ場は出演者全員にほぼ均等にあった。あと一人、謎の女性がうさぎ役で出演。(序盤に彼女が通路を通ったときにいい匂いがした。)彼女は手品のプロのようだった。そう、この舞台を構成する要素の一つが手品だった。人が消えたり、トランプの絵柄が変わったり。これまでの演劇女子部とは違う視覚的な楽しさがあった。視覚という点ではダンスもふんだんに取り入れられていた。序盤の平井さん、里吉さんのダンスはHello! Projectでは見ない技巧的なムーヴが取り入れられていて眼福だった。私の席が3列でステージと近かったので、尚更。

我々は黙って観ているのではなく積極的に歓声をあげてペンライトを光らせることを要求される。ペンライトの持参は必須に近い。絶対に持ってこいというメッセージをアップフロントからちゃんと発信してほしかった。チケットに書いてもいいくらいだった。と書いていて思ったけど、もしかしたらBEYOOOOONDSのブログには書いてあったのかもしれないね。私、読んでいないので…。

ユーモアと遊び心に溢れた軽妙な劇だった。
・飯窪春菜さんがナレーターというサプライズ。会場はややどよめく。原稿を読み上げるというよりは、観客に話しかけてくる感じ。これから15秒休憩ですと言って、立ち上がって身体を伸ばすことを推奨してくる。
・須藤さんのソロ歌唱を、歌わなくていいわと序盤でぶった切る一岡伶奈さん。普通そこで止めるか? せっかくのソロだったのに…と恨めしそうな須藤さん。
・お約束? 通路を練り歩き、観客を指して会話を始める須藤さん。一人目。あなたは誰がいいと思った? 戸惑う紳士。早く! 私を待たせないで。分からないです…という感じで困り果てる紳士。何色? と助け船を出す須藤さん。じゃあブルーで。二人目。あなたは誰がいいと思った? みいみ。みいみ? みいみなんていないわよ。ピンク。何でいいと思ったの? 可愛いから。たしかにアリスに選ばれるには可愛いさも重要ね。優勝すると思う? もちろん。決めるのは私よ! この一連の問答で会場は爆笑の渦に包まれた。(もし私が聞かれたらホッピンと答えていた。西田汐里さん。)
・9人のアリスたちにはそれぞれ明確なキャラがつけられており、コミカルだった。岡村美波さん(ピンク)と西田汐里さん(ホットピンク略してホッピン)の、ピンク同士の小競り合い。
・平井さん、声がいい。男役の、低くてこもっている感じ。
・里吉さんが物凄い美少女。独特のイントネーション(開演前の影アナで気付いた)。

私の希望としてはこの集団には今後もコンサートよりは演劇に重点を置いた活動をしてほしい。『不思議な国のアリスたち』ではコンサートと演劇の中間という新しい形を模索しているように見えた。それを今後も追求していってほしい。既存集団の焼き直しではなく、独自路線を突き進んでほしい。

私にとってこの演劇はBEYOOOOONDS入門だった。Hello! Projectコンサートや研修生発表会では気付けなかった一人一人の持ち味の片鱗に触れることが出来た。この集団への興味が一気に増した。もっと観たい、もっと知りたい。BEYOOOOONDS、マジ興味ある。

2019年4月21日日曜日

Juice=Juice 宮崎由加バースデーイベント2019 (2019-04-10)

平日の16時過ぎ、品川プリンスホテルのフードコートに集まって大きな声で北研(ハロプロ研修生北海道)やつばきといった単語を出しながらHello! Projectに関する何らかの持論をイキイキと述べる頭の禿げた中年男性とその仲間たち。彼らを横目に、俺はスパークリング・ワインを飲んでJoseph Hellerの“Something Happened”を読む。我々の共通点はこれから品川ステラボールで宮崎由加バースデーイベント2019を観覧するということと、独身異常男性だということだ(向こうの群れには女性も数人いた)。一回目の開演が17時15分、二回目が20時。俺が入るのは一回目。

品川ステラボールから近いという以外にも俺がこのフードコートに寄りたかった理由がある。俺が無職になる三日前、いや四日前か。2013年5月3日(金・祝)。もう6年近く前になるんだな。ゴールデン・ウィーク。俺はこのフードコートで、ジンとジンジャー・エールを混ぜたものを飲んでいた。すぐ側にある品川ステラボールで℃-uteのイベント(たしかシングルCDに封入されているシリアルで応募するやつだったと思う)を観た後だった。俺がジンを頼むと店員が何かを言った。彼女が何で割るかを聞いていると理解するまでに二、三回は聞き直さなければならなかった。店員がイラッとしているのが分かった。俺もイラッとした。自分に対して。聞き取ろうとしても、音は認識できるんだが意味が入ってこない。当時の俺は人と話しても相手の言っていることがすぐには理解できなくなっていた。話す能力も低下していた。言葉が出てこない。俺は四月に転職していた。新しい会社の労働と人間関係に適応できず、上司や上司もどきから詰められる日々。必死にもがいても状況は悪化するばかり。前に出来ていたことも出来なくなっていく。労働以前に基本的な頭の働きに支障をきたしていった。心療内科に行ったら適応障害だと言われた。三日後、ゴールデン・ウィーク明けの初日。俺は会社を辞めた。当日中に退職した。二週間後とかじゃない。そこから約一年と二ヶ月、俺は無職だった。

俺は数回しか品川という場所に来たことがない。あのときに観た℃-uteのイベントについては何も覚えていないが、このフードコートでぼんやりしつつちびちびとジンを飲んだ記憶はやけに頭にこびりついている。この街に来る度にあの頃を思い出す。人間の脳は場所と行為を結びつけて記憶する(菅原洋平、『睡眠を整える』)そうだが、この結びつきは一生、解けそうにない。

宮崎由加さんのバースデーイベントの開催情報が公開されるや否や、平日であることを気にせず、何のためらいもなくFC先行受付に申し込む。それくらいの気持ちを、俺はまだ宮崎由加さんに持っている。今日は午後半休を取得した。ただ、アップフロントからのメールで席がB列だと知ったときは、少し苦い気持ちになった。こんなにいい席をこのイベントでくれなくてもいいのに。もっと後ろの方でいい。いちばん後ろの席でもいいんで、どなたか一万円で交換しませんか? Twitterでそう申し出たいくらいの気持ちだった。何度も書いているが、俺はもう宮崎由加さんの支持者として第一線にはいない。ココで運を使いたくなかった。今日は一番後ろの端っこでいいから、他のイベントやコンサートで良席を回してほしかった。(そもそも席や整理番号がどういうロジックで応募者に分配されているのか知る由もない。だが、ずっと良い席が続くことはないし逆もまた然りである。長期的にはある公演の良席は別の公演のしょっぱい席でバランスが取られているような気はする。)

Juice=Juiceの宮崎由加さん、Hello! Projectの宮崎由加さんとしては最後のバースデー・イベントだった。6月17日(月)の日本武道館公演をもって彼女はJuice=Juice及びHello! Projectから退団するからだ。おそらく、生涯で最後ではない。彼女は今後も芸能活動は続けるからだ。そして、俺にとっても、宮崎さんのバースデー・イベントを観覧するのはこれが最後だ。未来を100%の精度で予測することは出来ないが、俺がM-Line(ファンクラブ)に加入してまで宮崎さんのことを追いかける可能性は極めて低い。俺が今でも宮崎由加さん推しとしての要素を残しながら生きているのは彼女がまだJuice=JuiceとHello! Projectの枠に残っているからという面があるのは否めない。

だからさっきの、俺はまだ宮崎さんにそれだけの気持ちが残っているというくだり。アレはやっぱり嘘かもしれない。だって以前ならJuice=Juiceの現場では(洗濯中でもないかぎり)ほぼ必ず着ていたピンクの宮崎Tシャツをもう着なくなったし。アイドル集団さんを鑑賞する上では、俺はこの子が好きなんだという姿勢を明確にした方が絶対に楽しい。特定のメンバーさんの色や名前を示したTシャツを着るのは一種の自己洗脳である。自分はこの子を応援するんだと決めることでますますその子のことを好きになっていく。アイドルさん鑑賞に限らず、何をやるにしても、好きという気持ちが強ければ強いほど夢中になれる。そう理解しつつも、違うと感じてしまう。

今は自分の中に、そこまでの熱がない。宮崎由加さんに対してだけではなく、Hello! Project全般に対しても。最近、薄々感じ始めていることがある。もしかしてHello! Projectよりもフットボールの方が面白いのではないか? ここ数年、Hello! Projectの方が面白いと俺は思っていた。決定的な違いとして、Hello! Projectはわれわれ観客を楽しませるためにやっているが、フットボールは相手チームに勝つためにやっているという点がある。フットボールの試合は勝負であってショーではない。Hello! Projectはいつでも一定以上の満足を与えてくれる一方で、フットボールは大抵の試合がつまらない。波がある。一つのチームを追っていれば、うれしくて誇らしくなる試合ばかりではない。むしろ、がっかりして怒りがこみ上げる試合の方が多いかもしれない。だが、その感情の振れ幅こそがフットボール・チームを応援する醍醐味の一つなのではないか。昨年から横浜F・マリノスを十数年ぶりにちゃんと観るようになって、俺は気が付いた。

今日の公演を観た後も、俺にはどこかモヤモヤが残った。いや、楽しかったんだ。自分の体調も悪くなかった。一曲目の『This is 運命』(メロン記念日)は自身のファンへのこれからも一途に私を応援してほしいというメッセージに感じられ、ドキッとさせられた。でもごめんね、俺はもう推し変してるんだ。二曲目はスマイレージの『夢見る15歳』のフィフティーン(15歳)をトウェンティー・ファイヴ(25歳)に替える粋な試み。つんくさんに許可を取ったという。何より今日いちばんの目玉は、オリジナル・メンバー五人のJuice=Juiceで二曲を披露してくれたことだ。正確にはNEXT YOUとして。“Next is you!”と『大人の事情』。それを観られただけでも、今日ココに来た価値はあったと思う。当時と同じ衣装を着ているのだが、よく入ったなというようなことを高木紗友希さんが言った。(体型を)維持していると、と司会の鈴木啓太さんが言うと、何とか…ギリギリ…とおどける金澤朋子さん。今日のために当時の映像を観て練習したが、みんな幼くて、特にうえむー(植村あかりさん)がまだ子供だったとメンバーさんたちは笑っていた。その後にユカオネアというクイズを挟んでから二曲、という構成だった。ユカオネアは四つの選択肢の最後に宮崎さんの恥ずかしいエピソードや暴露を持ってくる問いの作り方だったんだけど、中途半端だった。昔『めちゃイケ』でクイズ・ミリオネアをモチーフにしたクイズがあった。たぶんその辺から発想を借用しているんだろうけど、あのやり方を採るならもっと衝撃度の高い正解を用意しなきゃ成り立たない。最後に、入ってすぐに出した思い出深い曲だという“Boys be ambitious!”(GREEN FIELDS)、いつか歌いたいなと思っていたという『ありがとう~無限のエール~』(℃-ute)を歌って終わり。

最後のお見送りでは、おめでとうと俺は宮崎さんに声をかけた。彼女はコップンカーと言い、手を合わせてお辞儀をしてくれた(俺の四、五人後ろくらいまではコップンカーが続いたようだ)。これが俺が宮崎由加さんと交わした最後のやり取りである。まだ俺はJuice=Juiceのコンサートには何回か入るが、全員握手付きの公演はもう残っていない。

帰りの山手線は満員だった。スターバックスのカップを抱えたふくよかな白人中年女性が号泣していた。連れの男性がそっと手を回して慰めていた。乗降車の多い駅で頑なに動かなかったことで降りる人の邪魔になって、押されたり悪態をつかれたりしたようだ。白人さんよ、気の毒だがコレが東アジアだ。はっきり言って、品川ステラボールのB列から観た宮崎由加さんよりも1メートル以内で見させられたその泣き顔の方がはるかにインパクトが強かった。いやいや、こんなんで今日の記憶を上書きしないでくれよ。参った。