2015年5月5日火曜日

Special Juice (2015-05-03)

池袋で唯一リアルでハードコアなインド料理店「A. Raj」でマトンカレーのBセットを注文した。昼に池袋でインド料理をいただくならここ一択だ。夜はやや値段が張るのでいつでも気軽に来るという訳にはいかない。昼だとカレーとナンにラッシーが付いて1000円。この味をこの値段で味わえるとなると、他の店とは比較するまでもない。カレーが飛ぶリスクを考えて、4-5年前にコム・デ・ギャルソン・オムのセールで買ったボタンダウンの半袖シャツを脱ぎ始めたが、中に着ていたTシャツがJuice=Juiceのものであることを思い出し、途中まで外していたボタンをかけ直した。洗っても取れないシミが大事なシャツに付く危険を冒してでも、5人組のキュートなガールたちを絵にしたデザインを店員の女性に見られるのを防ぎたかったのである。無論、普段からこのような危険度の高いTシャツを着用している訳ではない。これからJuice=Juiceのコンサートを鑑賞するため中野に向かうのだ。

全国のいわゆるライブハウス(和製英語)を回るツアーを2014年の6月から続けてきた彼女たちだが、5月2日と3日に中野サンプラザ、5月23日に大阪のNHKホールで初めていわゆるホール(観客の一人一人に備え付けの席がある類の会場)で単独名義でのコンサートを実現させる運びとなった。私はファンクラブの先行申し込みで5月2日のチケットは落選し、5月3日の昼公演と夜公演が当たった。本来であれば初めてのホールでのコンサートに居合わせたかった。原宿の娯楽道に行けば5月2日のチケットを入手することは可能だったが、お金が無尽蔵にある訳ではないし、5月3日に2公演観られれば十分だろうと思いやめておいた。

ファンクラブが私に割り当てた席が昼公演は1Fの28列、夜公演は1Fの32列だった。32列というのは1Fの一番後ろの列だ。ハロプロのコンサートに来るのが初めてであればこの席でも純粋な気持ちでワクワク出来たかもしれない。それどころか、最初に2010年にモーニング娘。のコンサートを観に来たときは(別の会場だったが)2Fの最後列という一番ステージから遠い席だったが、チケットを手に入れた喜びが席への不満を遙かに上回っていた。しかしながら、あれから4年半の月日が経過し、数十回と場数を踏み最前列に近い席も何度か経験してきた今では、1Fの28列と32列というのはあまり乗り気になる席ではない。その上、中野サンプラザという会場自体がそれほど観やすい会場ではないので、実のところそこまで気は進まなかった。

昼公演は13時半開場、14時半開演。13時半ちょっと手前に会場に着いた。ぼちぼち入場が始まりそうだったが、あまり早く入ってもやることがないのでどうしようかなと思っていると、何やら音楽が聞こえてきた。ジャージ姿の若い女の子たちだった。いい時間潰しになると思い、3曲ほど見物した。演奏後にCD-Rとチラシをタダでくれた。Caramelというグループらしい。この名前ではエゴサーチしてもキャラメルの情報しか引っかかってこないだろうな。もったいない。Caramelの無銭現場が終わると14時くらいという、会場に入るのにちょうどいい時間になった。14時15分くらいから前座が始まるはず。この時間になると入場列はほとんどなくなっていて、スイスイ入れた。

1Fの28列は、思っていたよりはいい席だった。中野サンプラザに入る前にはいつも期待値を思いっ切り下げるようにしている。そうすることで、実際に入ってみると思ったよりいいじゃんという前向きな気持ちになれるのである。こぶしファクトリーの広瀬リーダーがあしの怪我のためopening actを欠場するとのアナウンスが流れた。あしって言うけど足と脚のどっちなんだろうか、英語だったらlegとfootで区別するけど日本語の場合は漢字で区別するから分からないよな、などと比較言語論的な思索を巡らす。場内にカントリーガールズのコマーシャルが流れる。島村嬉唄の台詞のところになると「フー!」というお決まりの冷やかしの声が会場に響きわたる。やっているのは一部の人間だけではない。島村さん人気あり過ぎだろ。

Opening actはこぶしファクトリーが「念には念」の1曲をやってすぐに捌けたのに対し、カントリーガールズは2曲を歌った上にトークの時間まであった。この扱いの差は何なんだ。メジャーデビューしたからか(こぶしファクトリーはまだインディーズ)? 嗣永桃子がいるからか? 実際のところ、嗣永プロのしゃべりで客席は確実に暖まった。今のこぶしファクトリーでは真似できない。Berryz工房として11年間の実績を積んできた彼女が新人グループの一員としてopening actを務める様には凄みがあったし、観る側にとっては何とも贅沢だった。こぶしファクトリーは広瀬リーダーの欠場により藤井さんがグループを代表してしゃべっていた。彼女はリーダーになりたがっていたはずなので、臨時ながらリーダー的な役回りが果たせて内心嬉しいのかもな、と不謹慎ながら思った。

コンサートが始まると、会場中がポジティブで祝賀的な空気に包まれた。メンバーたちもこの舞台に立てているのが嬉しくて嬉しくてしょうがないのが伝わってきて、まさしく晴れ舞台と呼ぶに相応しかった。私も感情が高ぶった。℃-uteの初めての武道館公演を思い出した。冒頭で高木メンバーが「今日はデーブイデー(の収録)が入っています!」と言っていて、わざとDVDのことをそう言って受けを狙っているのかと思ったら特にそういう訳ではなさそうだった。私は昨日の公演は観ていないので分からないが、おそらく昨日の反省を踏まえて改善されているのだろうし、昨日よりも落ち着いて歌って踊れているのだろうなと想像しながら観ていた。植村さんの歌声がいい毒気を帯びていて、thugなvibesがあった。ちょっと怒っているような、強気な雰囲気の声。私の右隣がガタイのいいあんちゃんで私の領域に少しはみ出してきたが、そいつが地蔵だったのが幸いしてほとんどぶつかることはなかった。

2014年11月26日に観に行った新潟公演で、私はJuice=Juiceの中では宮崎由加さんを推すことを決めた。宮崎さんのメンバーカラーはピンクである。よって持参した光る棒は当然ながらピンクを発光させたいところだったが、今日の昼公演ではそれが出来なかった。棒に入れてある単四電池がもう少しで切れるらしく、一部の色しか出なくなっていた。10色以上あるはずなのに5色くらいしか選べない。赤っぽい色は出せたので仕方なく金澤さんのオタクとして昼公演は乗り切った。とは言っても金澤さんそして宮本さんにも宮崎さんと遜色ないくらいに魅力を感じる。自分自身、誰を推していても不思議ではないくらいに素晴らしいグループなのである。ただ、宮崎さんがこのグループでは一推しと決めている以上はピンク色に光らせた棒を掲げて参戦しなければ示しがつかない。それが出来なかったのが後ろめたかった。昼公演の終演後、会場近くのDQNホーテに駆け込みカフェインなしのそば茶とともに単四電池6本を買った。

昼公演が終わると、たしかによかったけれどもこれをもう一回観るのはちょっときついな、という後ろ向きな気持ちが芽生えてきた。席もさらに悪くなる訳だし、あまり夜公演へのモチベーションがわいてこなかった。私はTwitterを見てCMJK氏が夜公演を観に来ることを知っていた。同氏はアンジュルムの「乙女の逆襲」やJuice=Juiceの「Ca va? Ca va?」の編曲をされた方である。私は氏の編曲が非常に好きなので今後も継続的にハロプロの音楽に重要人物として関わっていただきたい。そのためにも今日の現場でハロプロの音楽世界に好印象を持ってもらいたい。その意味で、18:30開演の夜公演がどういう出来になるのかは興味があった。

実際のところ夜は格別だった。昼公演もよかったが、映像作品として残すなら夜公演にするべきだ。1Fの最後列まで十分に伝わってきた。メンバーたちの表現力が昼公演の時点から既に上達しているようだった。歌が脳の痒いところを刺激してくるような爽快な感覚を、全員の歌声から何度も覚えた。特に宮本さんと高木さん。Soulがあった。脳にいいコンサートだった。宮本さんの身体のキレはまるでバルセロナにいた頃のロナウドのようだった。昼公演後のいまいち気乗りしない気分は、夜公演の終演後には「最高だった。昼夜公演は両方観た方がよい」に結論が上書きされた。宮本さんには歌にも表情にも踊りにも仕草にも荒削りさがなく、細部まで丁寧に仕上げられていて欠点がないプロのアイドルだった。高木さんは自分の声を完全に手懐けており自信に溢れた歌声で場を掌握していた。金澤さんの相変わらずの妖艶な歌声と表情には目と耳を奪われたし、みんな大好きというアイドル的な発言に嘘っぽさを感じさせなかった。植村さんは今では他の人には出せない特色のある歌声でグループ全体の歌にスパイスを効かせていた。宮崎さんはグループ結成当初の自信なさげな立ち振る舞いや悪目立ちがまったくなく、しっかりとパフォーマンス面で不可欠なピースとして光を放っていた。目を閉じて歌に酔いしれていると凄くきれいな歌声が聞こえてきて、これは誰だ?と思って目を開けたら宮崎さんで驚いた。

今日「Wonderful World」を初めて生で聴いた。これまでこの曲はそこまで好きではなかった。「この世界はスバラしいよね」という歌詞を聞く度にこの世界のどこが素晴らしいんだよと思っていた。脳天気な、お花畑的な歌だと思っていた。でも、夜公演にこの曲を聴いて、ピンと来た。彼女たちが歌っている「この世界」というのはこのコンサート空間のことなんだ。作詞者の意図は知らないが、自分の中でそう解釈することで勝手に腑に落ちた。まるでこの日のために用意された曲のように思えた。MCでメンバーたちは口々に中野サンプラザで単独コンサートを行うのが夢だったと言っていた。宮本佳林は感極まって涙ぐんでいた。私は何という素敵な空間にいるんだと思った。Juice=Juiceのメンバーたちの夢が叶ったその場に居合わせることができる幸せ。彼女たちが夢見てきた景色の一部になれることの幸せ。この世界は、スバラしい。