2015年12月12日土曜日

田村芽実バースデーイベント2015 (2015-12-03)

漢 a.k.a. GAMIの『ヒップホップ・ドリーム』に、彼の仲間が麻薬を密輸しようとして成田の税関で捕まった話が書いてある。今これを書いているのは外(池袋の喫茶店「フラミンゴ」)で手元に本がないから再読できないが、手に汗握る展開だったのを覚えている。一緒に帰国していたMC漢は税関を通過したのだが、仲間がなかなか出てこない状況は見ているだけで気が気ではなかっただろう。ましてや本人は言葉で言い表せないほどの緊張を味わっただろう。頭が真っ白になるだろう。私は麻薬を密輸したことはないが、想像することは出来る。

ハロプロにはファンクラブの会員しか参加が許されないイベントがある。これから行く「アンジュルム 田村芽実バースデーイベント2015」もそういうイベントの一つだ。通常のコンサートやイベントであればチケットさえあれば入れる。後は荷物検査があるくらいだ。ファンクラブ会員限定のイベントの場合、当選通知メール(チケットは発行されない)、ファンクラブ会員証、顔写真付きの身分証の三点を提示しなければ中に入れてもらえない。メールは印刷してきたし(画面の提示でも可)、会員証と身分証は常に財布に入れているので問題はない。と安心して入場列に並んでいたら、免許証の期限が切れていることを思い出した。更新はしたのだが新しい免許証は実家にある。保険証でもいいのではないかと思ってメールを見直したらこう書いてあった。
当イベントでは、「運転免許証」「パスポート」「住民基本台帳カード」「学生証(顔写真がないいものは不可)」「Hello! Projectエグゼクティブパス2015」の5点以外は、顔写真付き本人確認資料としてお取り扱いしません。
パスポートは持ち歩いている訳がないし残りの三つはそもそも所持していない。メールを見ると携行品のどれかが欠ける場合は12/2(水)までにファンクラブに連絡するようにと書いてあった。昨日だ。

逡巡した。免許証の期限が切れていると申し出るべきか。迷っているうちに自分の番になった。メールを印刷したA4の紙と、ファンクラブの会員証と、期限切れの免許証と、保険証。その四枚を重ねて、無言で係員の女性に渡した。保険証を入れたのは、免許証の期限が切れていることに相手が気付いた場合、事情を話して保険証で逃げられないかという一縷の望みに懸けたからだ。

係員がメールを見た。会員証を見た。で、免許証。思ったよりしっかり見ている。免許証に開いた穴も、過ぎ去った有効期限も、係員の視界には入っているはずだ。何か言ってくるのを覚悟した。説明の言葉を用意して息を吸い込んだが、無事に入場を許された。保険証には目もくれず、そのまま一式を返してくれた。何で大丈夫だったのか、と思いを巡らせた結果、おそらく彼女が指示されたチェック項目の中に「有効期限を確認する」というのが入っていなかったのではないかという考えに至った。名前がメールと会員証と合っているか、そして顔が本人で間違いないか。その2点を確認するように言われていたんだと推測する。それらの点に集中することで、それ以外の箇所が苫米地英人が言うところのスコトーマ(盲点)になっていたんだろう。助かった。入場を許されてから客席に向かう途中、ドキドキして手が震えた。そこで冒頭に書いた『ヒップホップ・ドリーム』内のエピソードを思い出した。麻薬を密輸する人の気持ちを追体験できた気がするからだ。

客席に入るすぐ手前で、数名の来場者たちが光る棒を配っていた。私は礼儀正しくありがとうございますと言ってそれを受け取った。一緒に渡された紙には、開演して田村芽実さんが入ってこられたら一斉に点灯し、そのまま氏が歌われた場合は一曲目の最後まで光らせてくれと書いてあった。

TOKYO FM HALLは2年前に岡井千聖さんのバースデーイベントで来たときに好印象を持っていた。こじんまりしていてステージが客席よりも高い位置にあるので、近くて見やすかったからだ。ファンクラブでやるちょっと緩めのイベントには最適の会場だと思う。もっと人気のあるメンバーさんだと山野ホールとかのもっと大きな会場でやる。私が応援するメンバーさんはなるべくTOKYO FM HALLでやってほしい。今日は運良くいい席だったのでますますこの会場が好きになった。C列の6番。3列目。A列は左端が4番から、B列は3番から、C列は2番からだった。

下手(左側)から登場した田村芽実さんがそのまま歌った一曲目が『私のすごい方法』だった。私は嬉しかった。なぜなら私がハロプロにはまるようになったきっかけが、この曲が収録された松浦亜弥さんの1st album 『ファーストKISS』だったからだ。つまり私は根っからの楽曲派なのである。入場時に有志の方々からもらった光る棒をはじめは言われた通りに点灯させていたが、チカチカするのが曲と会場の雰囲気に合わないし気が散るので途中で消した。『私のすごい方法』が終わると、進行役としてサミットクラブの静恵一氏が登壇した。「私たちの絡みを知ってる人?」と田村さんが客席に問いかけるとほとんど誰も反応しなかった。あまりの少なさに「これだけいて一人、二人て」と静さん。「私がまだ眉毛を手入れしていない頃からの関係なんですよ」と客に説明する田村さん。
「3年ぶりくらい?」
「そうですね、3年か3年半くらいです。その頃わたしは中二でした」
「まだ前のグループ名で」
「そう、スマイレージ」
「まともに喋れる子が一人もいなかったんです。ずっとゴリラの物真似してる子がおったり」

一曲目に選んだ『私のすごい方法』について「知ってる人?」という田村さんの問いかけに会場の大半が手を挙げる。「わあ、たくさん!」と喜ぶ田村さん。「最近は若い子がたくさん出てきている。アンジュルムには上國料萌衣ちゃんが入ってきた、そんな中、私は培ってきた経験を生かして私だけのすごい方法でやっていく」と決意を表した田村さんに対して、17歳にして随分としっかりしてるね…と感心する静さん。「アイドル寿命は短いんですよ! アイドルはどんどん若くなっている。今が大事なんです」と田村さん。

福田花音さんが卒業して悲しいか?と聞く静さんに、いや、と首を傾げる田村さん。意外な反応に驚く静さん。
「いや、あれからまだ二期としか会っていないんです。アンジュルム全員で集まる仕事というのをあれからまだやっていなくて」
「じゃあ福田さんがいなくなったのを実感するのはこれからだね」
「でも卒業した翌日からTwitterを始めたじゃないですか。あれには本当にびっくりして。でも私のことを何にも書いてくれないんです」

田村芽実さんの誕生日は10月30日である。バースデーイベントは本来、誕生日の前後にやるのが通例だが、今回に関しては一ヶ月以上が経過している。
「(バースデーイベントを)いつやるの?と握手会で多くの人たちが聞いてくれたんですけど、今日の一回目(この公演)は当日券があるらしいです。そうやって聞くくせに結局は来ないのかと。まあ、今いる人たちは優しい人たちですけど」と冗談めかして話す田村さん。

田村芽実memoriesと題して、幼少期の動画(selected by 本人)を何本か流してその頃を振り返るというセグメントがあった。
・生まれて間もない頃、おそらく病院にて(会場のあちこちから「可愛い…」というため息混じりの声が)
・家の階段をハイハイで上る。父親が撮影(カメラが向いた時点で顔がカメラに向いているのを指し、この頃から撮られる準備が出来ていると静さん。照れ笑いする田村さん)
・家族で苺狩り。カゴに地面の落ち葉を入れる。「雨だよ」と退避を促す母親の声を無視して悠然とした態度(動画に苺が映っていないので「苺狩りちゃいますやん」と突っ込む静さんに「じゃあ落ち葉狩りですね」と返す田村さん)
・家でテニスラケットをギターに見立てて歌っている(後ろにいる田村さんのお姉さんがラケットにとどまらず、バケツをかぶって星型のサングラスをかけていたので田村さんよりもお姉さんが専ら静さんによる突っ込みの的になった)
記憶が正しければこの4本の動画であった。

名前の由来は二つある。
1.お姉さんがトトロを好きでサツキになりたかったので妹をメイにしたがっていた
2.難産だった。母親が大変な思いをして命が実ったので命実と名付けたが、名前に命が入っているのは重いため芽実にした

生まれてはじめて喋った言葉は「かっ、かっ、かっ」だった。
「痰を吐くみたいな?」
「違うんです。お姉ちゃんが花恋っていうんですけど、お姉ちゃんが近づいてきたときに花恋と言おうとしてかっ、かってなったんです」
「それはお姉さん嬉しいだろうね」

生い立ちがこうやって動画で残ってるんですねという静さんに、「現代っ子ですから。すみませんね」と返す田村さん。

その後、彼女は『Kiss! Kiss! Kiss!』(しゅごキャラの主題歌で、前から好きだったとのこと)、『はじめてを経験中』(可愛くて大好きな曲とのこと)を歌った。

「次の曲は2回目では歌わない。2度と歌わないかも知れない。2回目ではここではハローの曲を歌う」と田村さんが紹介したのはテレサテンの『別れの予感』だった。「知ってる人?」。後ろの水を飲んでこちらに振り返って、挙がった手の数を見て「あ、微妙…。20代、30代の人が多いんですかね。40代以上じゃないと分からないみたいです」。こんな貴重な場にいられない人は損をしている、というようなことを言ってから「当日券あるのにね」とここでも1回目が売り切れなかったことへの怨み節を披露していて面白かった。

次に『王子様と雪の夜』、最後に『Never Forget』であった。後半になると徐々に暖まってきたが、今日は客のノリがおとなしかった。メンバーさんもファンの側も、どれだけ盛り上がるかで現場の価値を計りがちではあるが、来場者がまったりと楽しんでステージの演者を温かく見守っている現場も、それはそれで幸福感に包まれているし悪くない。

最後の喋りで田村さんは「開催が延びてよかったと私は思っています。アンジュルムだから遅れさせられたんじゃないかと思う人もいるかもしれないですけど、10月11月はアンジュルムのツアーで忙しかった。あの時期にバースデーもやっていたら大変なことになっていた。歌いたい曲を温める時間が出来てよかった」と締めくくった。

良い会場で席にも恵まれ、間近で田村芽実さんを見るというなかなか得がたい経験だった。バースデーイベントならではの話がたくさん聞けたし、田村さんの歌声にまったりと酔いしれることが出来た。