2016年4月17日日曜日

℃ONCERTO (2016-04-09)

TVドラマ『孤独のグルメ』で知った池袋の楊2号店に足を運び、初めて汁なし担々麺を注文したのが2012年の3月だった。店内はおそらく私と同様『孤独のグルメ』を観て来たであろう客で賑わっていた。大半の客が汁なし担々麺を頼んでいた。食べてみると、コシのない麺にパサパサした食感。独特のクセがある味。好きになれなかった。何とか食べきったが、後半は苦しかった。相席で前に座っていた紳士は半分ほどを残して席を立った。帰り際に他のテーブルを見ると、残している人が大半だった。

3年後、私にとって汁なし担々麺は海外に行くと恋しくなる食べ物の筆頭になっていた。ある時を境に急においしいと感じるようになったのだ。四川料理にどっぷりはまって、池袋のいくつかの料理店に通う日々が続いた。そこでふと、楊の汁なし担々麺のことを思い出した。舌が四川化した今の私であれば、あの料理のおいしさを理解できるのではないか、と。再び対峙してみた汁なし担々麺は、驚くほどおいしかった。それ以来、週に一度は食べないと気が済まなくなった。海外に行っている等の本当にやむを得ないとき以外はほぼ必ず食べている。2015年にはおそらく40-50回はいただいた。最近では、目の前に運ばれてきた汁なし担々麺をちらっと見るだけで麺のゆで具合やタレの調合具合などから今日は当たりだとか外れだとかを判断できるようになった。

それでも、たまによく分からなくなるときがある。私は汁なし担々麺のことが本当に好きだから毎週かならず食べに来ているのだろうか? それとも先週も先々週も来たから今週も習慣で食べに来ているだけなのだろうか? ふと冷静になるときがある。野菜がほとんど入っていない。栄養バランスは悪い。味は暴力的でくどい。過剰にからい。本当においしいか? なぜ私はこんなものを好き好んで頼んでいるのか? そもそもこんな高頻度で食べるほどに好き好んでいるのか? 本当に分からない。

米国のラップでたまに出てくるcheeba (チーバ)という言葉がマリファナを意味することを知った。私はマリファナを嗜んだことはないしこれからもお世話になるつもりはないが、チーバと同じくらい、千葉には縁が遠かった。数えるくらいしか来たことがないし、前に来たのがいつかは覚えていない。この度そんな土地に足を踏み入れたのは、千葉県文化会館で℃-uteのコンサートを観るためだ。軽い気持ちで申し込んだが千葉はそんなに近くない。家の最寄り駅から本千葉駅まで、電車の移動時間が乗り継ぎを入れて1時間半くらいある。外泊は要さないし、遠征というほどではないが、ちょっとした外出でもない。あくまで本千葉駅の周辺を少しだけ歩いただけの印象だが、面白そうな飲食店もなく、つまらない町だった。まあ、コンサート会場があるのを除けばさびれた田舎という感じですよ。ある飲食店は入り口に「定食のみの方NGよ! 2名より!」と書いてあって、クソだった。飲み物を頼めというのはまだ分かるんだけど、1名の客を門前払いする店があるのか。

15時半からの回と19時からの回の、両方に入った。観るのが1公演だけだと長時間の移動は割に合わないので2公演ともに申し込んで、共に当選した。席は11列目と14列目で、割とよかった。℃-uteの単独現場に来るのは昨年の11月以来だった。℃ONCERTOと名付けられたこのツアーは先週、座間で開幕した。私にとっては今日が初めてだったので、楽しみにしていた。ハロプロ研修生の前座が終わると「いっちゃん! いっちゃん! いっちゃん!(一岡伶奈さんのこと)」と異常な声量で延々と叫び続けるキチガイじみた紳士がいた。両方の回で同じように叫んでいた。

2年前、名古屋に住むTwitterのダチに℃-uteのチケットを贈呈したことがある。その方にとっては初めてのハロプロ現場だった。終演後、全員が可愛くて眼福だったという感想を述べられていた。双眼鏡越しに視界いっぱいに飛び込んでくる℃-uteの皆さんを目に焼き付けながら、その言葉を思い出した。彼女たちの姿は、まさに眼福という言葉が相応しかった。もっと直接的に言えば、エロさがある。扇情的ないやらしさとは違って、自ずと発する女性的な魅力。これを出せるのはハロプロでは℃-uteだけだ。とりわけ矢島舞美、鈴木愛理、中島早貴の三人に目を奪われた。特に最初の衣装と、あとは三番目の衣装でhoodieを脱いでから。『デジタリック→0[LOVE]』での鈴木愛理からは目を離せなかった。

私は2013年春のツアー『トレジャーボックス』の岡井千聖のTシャツを着て、同氏がデザインした緑のタオルを首にかけてこの現場に臨んでいた。外見は完全に岡井さんの支持者であった。しかし、行動は違った。岡井千聖よりも、先述の三人に注目する時間の方が長かった。今までは、いくら℃-ute全体が好きだは言っても、その中で岡井さんを一番に応援しているのははっきりしていた。それがどうも揺らいでいる。かといって、℃-uteの他メンバーを明確に推しているわけでもない。℃-uteの中に明確な推しがいないという状態になったことに、気付いた。

15時半の公演で、岡井千聖は右目だけが赤くなっていると中島早貴が来場者に説明した。岡井さん本人は、右目だけが充血して眩しいと言っていた。双眼鏡で見たらたしかに右目だけが真っ赤だった。何かの病気なのではないかと心配になった。何もなければいいのだが。19時の公演では岡井さんの目への言及はなかった。

萩原舞はやや元気がないように見えた。客席に顔を向けて話をすることに少し怯えているような印象を受けた。4月1日に文春のウェブに彼氏と歩いている写真を載せられてから動揺しているのだろうかと考えるのは勘ぐり過ぎだろうか? ただ、15時半の回に比べて19時の回では復調しているようにも見えた。アルバム『℃Maj9』に収録された『羨んじゃう』(このアルバムでシングル以外では私はいちばん好きだ)で「彼氏より もっと欲しいモノ 私にはたくさんあるもの」と歌っていた。私の脳内では『フリースタイルダンジョン』でのR-指定との試合のDOTAMAによる「嘘つき嘘つき!」が再生された。

15時半の回で印象的だったのは先週の座間公演での話。鈴木愛理曰く、好物の麻婆ナスをケータリング担当者に頼んで箱に入れて取っておいてもらった。終演後、食べようと思って床に置いたところ矢島舞美が来て一緒に写真を何枚も撮った。矢島は気付かずに麻婆ナスを踏み潰した。お尻のあたりが濡れていたがそのときの感触がなかったという。それを聞き「どんだけケツ固いんだよ(筋肉で感じなかったんでしょ)」と突っ込む岡井。弁当箱が陥没した。というところまでは普通の話なのだが、鈴木さんがその潰れた弁当を交換してもらわず、もったいないと言ってそのまま食べたというのが、誠実に育っているというか、いい子なんだな、と。

Kiss Me 愛してる』で萩原舞が「ほとんどない」と歌うところにかぶせて一部のファンが「萩原舞、舞、舞」と叫んでいるのを、15時の回の最後のアンコール明けに岡井さんが取り上げた。
岡井「ほとんどないのところで新しいコールしてる? 何か舞、舞、舞って…」
鈴木「萩原舞って言ってるんでしょ?」
岡井「リズムが狂って、私がどこで歌い出せばいいのか分からなくなる! でもそうやって新しい試みを入れて盛り上げてくれるのはありがたい」
19時の回では「(1回目の公演で指摘したところ)萩原舞のコールをさらに喜んでやっている人がいた。リズムを取れなくなる。そう言ったらさらにやるんでしょ? もう中学生みたい。でも千聖はプロとしてちゃんと外さずに歌うので、千聖のコールもどこかに作ってください」

15時半の回のアンコールはいつも通り「キュート! キュート!」だったが、19時の回では「愛理! 愛理!」だった。鈴木さんが千葉出身だからというのが主な理由のようだが、誕生日が近いというのも関係しているような雰囲気だった。最後に皆さんがステージから捌ける際に、「(他のメンバーが)残れって言うから」と鈴木さんだけが残った。「今までこんなことあった? なかったよね?」とご本人も驚いていたが珍しい出来事だ。客席に向けて「みんな、つらいこともあるよね?」と問いかけた鈴木さん。「だけどもだっけど(小島よしおのような感じで)、今日のことを思い出してまた明日から頑張ろう!」。会場の盛り上がりは最高潮になった。その後に「これ大丈夫?」と急に不安そうになったのには笑った。

5ヶ月ぶりに来た℃-uteの単独現場。来てよかった。でも正直に言うと、そんなにめちゃくちゃ楽しいというわけではなかった。あっと驚く演出はないし、セットリストにしても衣装にしても、まあいつもの感じで想定内。どうも最近のツアーはそこまで好きになれない。最近の曲もそこまで好きになれない。いい曲が多いとは思うけど…。いや、大きく言えば℃-uteを好きなのは間違いないんだけど、自分の中で細かい感情が変わってきている気がする。自分の中で最近の℃-uteは「いいね」どまりであって「やばい」まで突き抜けていない。その理由が何なのか、自分で理解しきれていない。

今日の2公演を含め、私はこのツアーは7公演も観ることが決まっている。後は中野サンプラザで4公演、日本武道館での1公演が残っている。℃-uteのことが本当に好きだから7回も観に行くのだろうか? それともファンクラブの先行受付で外れるのを見越して多めに応募したところすべて当選したから観に行くだけなのだろうか? 明確な推しがいない。新鮮なワクワクを感じることが出来ない。なぜ私はこのグループを好き好んで現場に参加しているのか? そもそもこんなにたくさんの公演に入るほどに好き好んでいるのか? 中野サンプラザと日本武道館で、それらの問いへの答えを探すことになるのだろう。