2017年7月23日日曜日

Seven Horizon (2017-07-17)

ここが西成区だというのを忘れるほどに安らかな気持ちで目が覚めた。隣の部屋のオジサンが断続的に咳き込んでいるのが聞こえたのを除けば、至って平和な一泊だった。今日のコンサートは京都なんだけどね、大阪で前泊したの。昨日の朝8時過ぎだったかな、夜行バスで大阪に着いたんだ。前に名古屋に行ったときに利用したコクーンに今回も乗ってみた。名古屋のときは割と眠れたんだけど今回はちゃんと寝られなくてね。しんどくなって宿で13時半から16時半くらいまで仮眠した。先に荷物を預かってもらおうかと思ったらもうチェック・イン出来ますって言われてね。一泊3,400円だったんだけど、この価格帯ならではの、ベッドと小さな椅子と机があるだけ、トイレも風呂もないという絵になる部屋だった。思わず写真を撮った。で、後からiPhoneのカメラ・ロールをめくってたらさNishinari-Ku, Osakaって書いてあったんだ。ほらiPhoneって写真に地名が出てくるじゃん。それで初めてこの宿が西成区にあることに気が付いた。来山北館というホテルだったんだけど、受付の人の対応が凄くよかったし、気持ちよく泊まることができた。ロビーにはバックパッカーがたむろしていた。この辺で安い宿をお探しの際にはお勧めするよ。

大阪に泊まったのは京都の宿がどこも高かったから。4月に福岡、5月に名古屋、6月に新潟に行ってさ、今回は京都、で来月も仙台に行くんだよ。交通費と宿泊費が馬鹿にならない。福岡のときはJALのマイルを使って飛行機代が無料だったけどね。いい宿になんて泊まってらんねえよ。昨日は昼に新梅田食道街の「笑卵(わらう)」でかすうどん680円とクリア・アサヒ280円を食った。うどんにあぶらかすが入ってるの。あぶらかすは上原義広さんのルポタージュで知ってからずっと気になってたんだけど、食えてよかった。うどんの出汁にあぶらが溶けて、よく合うね。新世界をうろうろして、「だるま」(新世界だけで四店舗あるらしい)という串カツ屋に入った。大阪ってさ、ほら飲み屋にでも入ると店の人や常連から「見ない顔やな。兄ちゃんどこから来たん? 何しに来たん? 何でやねん、いてまうぞ」的に絡まれそうじゃん。そういうのが俺は苦手で、気後れする部分があったんだけど、「だるま」は店員の多くが外国人だったしウチのシマに何しに来たんじゃ的な態度は誰も示してこなかった。もっと個人がやってる小さな店だったら多少の洗礼はあったかもしれないよな。「だるま」で新世界セット(どて焼き+串カツ12本)、焼酎、カシス・ウーロン、たこと紅生姜、カシス・ウーロン。3,500円くらい(宿代より高い)。(だるまといえば、うちの会社でいつもイヤなメールを送ることで知られる人がHumpty Dumptyじみた体型であるため一部では陰でだるまちゃんと言われている。普段からもっといい印象を与えていれば誰もだるまちゃんとは言わなかっただろう。イヤなメールは送らない方がいい。)食後にぶらぶらストリートを散策していると気付いたら西成区の深部に入っていた。足を引きずった白髪の老紳士がすれ違いざまに怒った様子で何かをわめきだしたときはちょっと恐かった。その人、指をさして誰かに向かって文句を言っているようだったんだけど、さしてる先を見たらさ、誰もいねーの。当人には誰かが見えてたんだろうか。路上に座り込んでいた老紳士が甲高い声で「おいお前オカマか? おいお前オカマか? おいお前オカマか?」って連呼してた。どうも独り言じゃなく俺に言ってるようだった。というのが、俺の格好がこの近辺をうろつくにはあまりにファッショナブルだったんだ。Needlesの紺色トラック・パンツにBarbarianの白黒ボーダー柄Tシャツ、Alain Mikliのチェック柄メガネ。俺はオカマじゃなくてオタクだ。あいりん労働公共職業安定所を取り囲む形で、閉じたシャッターの前にホームレスの皆さんが野宿している光景を通り過ぎ、スパ・ワールドという公衆浴場に入った。1,500円。入浴中に近くの若者同士が「お前、ぼんぼりみたいなちんこやな。亀頭でかっ」「でかい方がええんやで」という会話を交わしていた。

大浴場でシャワーを浴びて、チェック・アウト。新梅田食道街のPRONTOで冷コとホットドッグ。450円。SEA TO SUMMITのULTRA SIL DAYPACK(これは旅行に便利!)に必要最小限のモノを詰めて背負い、大阪駅のコイン・ロッカーにBRIEFINGのでっかいバックパックを預けた。大阪駅から電車で京都駅。そこから国際会館駅。京都での乗り換えのときプラットフォームがやたらと混んでいて、一本見送った。同じく京都FANJに向かっている人のTwitter投稿によるとどうやら祇園祭というのが開催されていて、それで混んでいるらしい。途中から乗客はまばらになった。国際会館駅から会場への道のりは分かりやすかった。3番出口を出て右に曲がって、そのまま直進するだけ。10時42分頃に会場前に着いた。誰かファンが置いたんだと思うけど、梁川奈々美さんのフィギュア・スタンドっていうのかな、あれのでっかいやつ。50-60センチくらいあるやつが飾ってあった。今日は昼公演が13時半開場・14時開演、夜公演が17時開場・17時半開演。グッズの販売が11時半から。思ったよりも人だかりができていた。ざっと四十人くらい。何となく後ろの方に立ったら、横にいた紳士がここは最後尾じゃない、ここで折り返していていちばん後ろはあの辺だ、と親切にも教えてくれた。ディーン・R・クーンツの『ベストセラー小説の書き方』(大出健 訳)を読みながらグッズ販売が始まるのを待った。屋外だったけど、幸いにもそんなに日が差していなかった。本が普通に読める程度の快適さだった。10時59分にONE TO ONEのお兄ちゃん(以下「ワンちゃん」)が「出来るだけ前に詰めてお並びください」と俺らに言った。近くで並んでいる人たちの会話が耳に入ってきた。
「今日は500番まで出てるらしいねんけど、ここは500人いれたらパンパンやで。フロアも平らやしな」
「オレ地元やのに(整理番号が)300超えてんねんけど」
「10時半過ぎにメンバーが入ってきた。小さいタクシー2台で。高木さんだけ派手なTシャツを着ていた。他のメンバーは地味な色やってんけど」
「植村さんは眠そうだった。いつものように。恐かった」
11時15分に後ろを振り返ると俺の後ろには1ダースくらいの人がいた。11時26分には2ダースくらいになっていた。11時28分にワンちゃんが「今日の公演は好評でチケットが完売している。たくさんの人が来る。すべてのお客さんを入れるために大きい荷物を持っている人は預けて欲しい」ということを俺らに言った。グッズの販売は予定通り11時半くらいに始まったようだが、やたらと進みが遅かった。読書がはかどった。12時2分にはワンちゃんがグッズ列の後ろの方に向けてあなたたちは開場までにグッズを購入できない可能性があるから了承してくれと言っていた。階段を降りて12時26分にようやくグッズの販売窓口が見えた。グッズ売り場を切り盛りしているのが一人! そりゃ進まねえわ。ワンオペを強いられている感じのいいワンちゃんにDVD MAGAZINE VOL.12と日替わりの宮崎さん、宮本さん、段原さん、梁川さんを注文し、無事に購入を済ませた。段原さんと梁川さんのJuice=Juiceメンバーとして初めての日替わり写真は是非とも入手したかった。たぶん俺と同じ考えを持った人は多かったと思う。この二人は書き込みのこなれ具合が対照的だった。梁川さんは文字の配置や装飾に工夫が見られ、抹茶の絵も添えていたけど、段原さんのは拍子抜けするくらい簡素だった。日付、会場名以外はいくつかハート・マークが描いてあるだけだった。今後どうやって洗練されていくのかが楽しみだ。

昼飯を食おうと近辺を物色したが、そば屋と、日曜祝日はランチ・メニューのない寿司屋と、3,000円は出さないといけないステーキ屋と、アホみたいに混んでいるガストと、アホみたいに混んでいるマクドくらいしか店がなかった。選択肢の数はあるにはあるんだけど、しょっぱい。ステーキ屋が少し魅力的だったが、13時の開場まで時間に余裕がなかったし、出費を抑えようと思ってスーパーマーケットで適当に何かを買って腹に入れることにした。アサヒもぎたてまるごと搾りオレンジライム、牛肉コロッケ(三つ入り)、ハム玉子サンドウィッチ。540円くらい。スーパーの前で立ち食い。「もぎたて」は過重労働に従事しているTwitterのブラザーが絶賛していたので買ってみたが、まずかった。俺が日頃からいいものを口にしすぎているのかもしれないけどさ、ダメだよこれは。まずさの正体は、アセスルファムKとスクラロースだ。人口甘味料の入った飲食物をありがたがる奴は味覚がイカれている。でも、あれだね。アルコホール度数9%ってのはいいね。一缶のんだだけでちょうどよく仕上がった。

昼公演でアップフロントが俺に与えた整理番号は、393番。入ってみると、もうこれ最後じゃんって感じだった。客が入りきっている感があった。でもこれからまだ100人が入るから前に詰めろと係員が俺たちに呼びかけていた。ワンちゃんたち、周りの人との間隔がなくなるまで詰めろとか言っててさ。間隔がなくなるってどういうこっちゃねん。満員電車のように身動きが取れなくなるまで密着しろってことかよ。無理を言いなさんな。新宿から池袋に行くのとちゃうねんで。そんな状態でコンサートを鑑賞できるわけねえだろっつーの。実際にはそこまでギューギューにはならなかった。他の観客と接触しない程度の距離は保たれていた。もし本当にワンちゃんたちの言う通りにしたらステージなんか見えないよ。

ほぼいちばん後ろだったけど、開演が待ち遠しかった。今日のコンサートは特別な意味を持っていたんだ。何せ、段原瑠々さんと梁川奈々美さんが加入した7人のJuice=Juiceとしての初めての単独公演なんだ。7人でのパフォーマンス自体は二日前の大阪のハロコンで披露されているんだけど、単独公演というのに意味がある。俺がこの日に居合わせることになったのは偶然だ。狙ったわけじゃない。というか、このツアーのファンクラブ先行受付に俺が申し込んだ時点ではJuice=Juiceが7人になることは発表されていなかったし、おそらくアップフロントの内部でも決まっていなかった。“Seven Horizon”というツアー名にも関わらず、初日の名古屋は5人でのコンサートだった。Hello! Projectのいわゆる新体制が7月15日のハロコンからということで。こういうことからも今回の移籍と新加入が何ヶ月も前からではなく比較的、急に決まったことが分かる。俺も6月26日(月)のハロ!ステ号外で発表される直前まではJuice=Juiceが増員するとは思っていなかったよ。ただ、これは完全に後出しジャンケンだが、もしJuice=Juiceに入れるのであれば段原瑠々さんがいいのではないかとは思っていた。このグループに入るには何よりも歌唱力が必要だと思ったからだ。どこにも書いていないから予言者面が出来ないのだが…。梁川奈々美さんの加入は俺にはまったくの予想外だった。

開演の直前には「瑠々ちゃん! 瑠々ちゃん! やなみん! やなみん!」というチャントがわき起こった。二人への期待、加入を歓迎するポジティヴなヴァイブスで京都FANJのフロアは満たされていた(このチャントに関しては段原さんと梁川さんはもちろん既存メンバーたちも嬉しかったと口を揃えていた。)ところがコンサートが始まってステージに現れたメンバーは5人だった。カタルシスを期待したが肩透かしを食らった。そのまま数曲をパフォームしたので、5人のJuice=Juiceによるコンサートがいつものように執り行われているようだった。でも『Goal~明日はあっちだよ~』で高木紗友希さんがソロ・パートの「ふいに振り向いたら」(俺らが「さーゆき!」×4回のやかましいチャントを被せて高木さんの歌が聞こえなくなるところ)の直後あたりで泣いて、しばらく歌えなくなっていた。それを見て、いつもの5人のコンサートじゃないんだなって俺は実感した。新メンバーに出てくるように促す宮崎由加さん。右から登場した段原瑠々さんと梁川奈々美さんが加わった7人のJuice=Juiceが単独コンサートで披露した記念すべき一曲目は『Feel! 感じるよ』だった。どの歌詞だったかは忘れたけど段原瑠々さんのソロ・パートがあった。これが段原さんがJuice=Juiceの単独コンサートで歌う初めてのソロ・パートなんだなと思いながら聴いた。梁川さんが自己紹介をするときにメンバー・カラーはミディアム・ブルーですと言ったときにチームメイトたちは驚いている様子だった。「ミディアムは初めて聞いた」と宮本佳林さんが言っていた。

昼公演ではJuice=Juiceから嬉しいお知らせが二つあった。一つ目は、今年もJ=J Dayが開催される。10月10日に東京、10月6日に大阪。これは金澤朋子さんが発表した。もう一つ発表がありますと宮崎由加さんが言うと、私たちは聞いていないと他の6人が色めき立った。俺たちから見ていちばん右に梁川奈々美さん、その左に宮崎由加さんがいた。他の5人が、こっち来なと梁川さんを呼んだ。右に宮崎さん、何メートルか離れて左に段原さん、宮本さん、植村さん、高木さん、金澤さん、梁川さん。6人が肩を寄せて固まって固唾を飲んでカタカタ震えてリーダーの言葉を待つ構図。それがコミカルで。ちょっとカントリー・ガールズっぽかった。いわゆる嗣永劇場の、あの感じというか。梁川さんが入ったことでJuice=Juiceにもこういう色が出てきたのかな。宮崎さんが「朋子が…」と言い始めて、金澤さんが卒業するような空気になった。「勝手に卒業させないでよ。しませんしません」と否定する金澤さん。笑いが起きた。宮崎さんから発表されたのは、日本武道館でのコンサート決定。11月20日。次の瞬間、新メンバー二人は泣いていた。フロアではそこら中の紳士たちが手を挙げてばんざーい!ばんざーい!と叫んでいた。知っていると思うけどJuice=Juiceのファンは年齢層が高く、戦中派が多い。何かを祝うときの最上級の表現が万歳なんだ。俺は中野サンプラザで初の武道館公演が発表されたときにも現場にいた。二回目の発表にもこうやって居合わせることが出来て幸運だった。

最近は地上波でJリーグの中継が放送されることがほとんどなくなった。たまーに放送されるのが、何かの決勝とか、優勝が決まる試合とか。あとはシーズンの一試合目。でも開幕戦ってさ、あんまり面白くないんだよね。どうしても消化不良になる。監督が代わったり新戦力が加わったりして新鮮さがあるんだけど、戦術は浸透しきっていないし、コンビネーションも出来上がっていないしで、探り探りになりがちなんだよね。チームとしてまだ出来上がっていないというか。リーグが進むにつれてその辺が成熟してくる。この一年くらいで俺が観させてもらったJuice=Juiceの公演がサッカーでいうとリーグ中盤や終盤の試合だった。武道館は決勝戦だった。Juice=Juiceは優勝した。それで、今日の昼公演は、新しい選手を迎えてのシーズンの開幕戦だった。段原瑠々さんも、梁川奈々美さんも、それぞれが個人としての力量と魅力を持っていることはよく伝わってきた。でも、まだJuice=Juiceという既存のグループに融合しきれていない。段原さんと梁川さんが参加したのはコンサート全体からすると半分以下だったと思う。まあ、そりゃそうだ。成熟したグループにポンと二人がいきなりフルで出場できるわけがない。どんな素晴らしい選手でもチームに馴染むのに時間はかかる。正直いって、コンサートの完成度としては5人だけでやっていた頃よりも少しだけ落ちたと思う。五人でのパフォーマンスの方がしっくり来ていたし、クラウドをロックしてたもん。『ロマンスの途中』。『明日やろうはバカやろう』。でも、その代わりに未来の可能性が広がった。二人の個性的な新人が入ることで、一旦は完成したJuice=Juiceがどう変わっていくのか。それを見守る楽しみができた。段原さんと梁川さんの力量は間違いないので、心配は要らないと思う。(植村さん曰く今日は段原さんに髪を巻いてもらったらしい。今日の私は何かが違うと思いませんか?とマネージャーに聞いたら「うーん、目?」と言われたという。ちなみにMC漢が巻くのはポリスとガンジャだけだ。)

・宮崎由加さん、宮本佳林さん、梁川奈々美さん、金澤朋子さんがメロン記念日の『夏の夜はデインジャー!』
・植村あかりさん、高木紗友希さん、段原瑠々さんが℃-uteの“Summer Wind
をカヴァーした。片方のチームがパフォームしている間、もう片方のチームは捌けていた。こうやってチーム分けして曲を披露するのは、5人のときはあんまりやっていなかった。5人が出ずっぱりというのが最近の公演では多かった。7人になったことによってこういう組み合わせの選択肢が広がった。Hello! Projectは歌う人と踊る人に分かれているわけじゃなく、全員で歌って全員で踊るから、人数が増えれば増えるほど一人一人の目立ちどころは減ってしまう。こうやってチームを分けたり、たまにはソロ・パフォーマンスもやったりして、スポットライトの当て方を変えていくのは大事だと思うよ。出ていないメンバーはその間ちょっと休めるしね。

段原瑠々さんはハロプロ研修生では圧倒的な歌唱力で有名だった。彼女はHello! Project研修生発表会の実力診断テストにおいて、参加した4回のうち2回でベスト・パフォーマンス賞を勝ち取っている強者である。ところが研修生としては抜きんでていた段原さんの歌声も、高木さんを前にすると霞んでいた。それだけ高木さんの歌唱が完璧だった。あの心を鷲掴みにしてくる感じ。非の打ち所がなかった。俺は全グループをちゃんと観ているわけではないし、他にも歌がうまい子が何人もいるのは知っているが、歌唱力に関しては高木さんが現在のHello! Projectで一番なのでは? 異論はあるだろうが別に議論をしたいわけじゃない。

配信限定でリリースされるというシングル曲“Fiesta Fiesta”を昼公演で初めて聴いたんだけど、ダサい曲だというのが第一印象。ありがちなメロディ。ラテンぽくという注文を受けたので作ってみました的な。こぶしファクトリーの『サンバ!こぶしジャネイロ』に通ずるワックさがある。もちろん、はじめの段原瑠々さんのフレーズには思わず歓声をあげてしまう爽快感があったけど、曲がいいかといったら、ちょっとね。上述のカヴァー二曲と、“Fiesta Fiesta”がセットリストでは目玉だったと思う。あと俺としては『大人の事情』が聴けたのは嬉しかったね。去年11月7日の日本武道館以来。

15時45分ごろ終演。高速握手会が始まってもほとんど列が進まない。周りからも遅いなという声が聞こえてくる。帰りが少し心配になる。夜公演は17時半から。帰りのバスが21時半(実際には21時50分だった)に大阪発。国際会館駅から大阪駅まで1時間ちょっと。ウィラーのバス・ターミナルが大阪駅から少し歩いたところにある。初めて行く場所なのでまっすぐにたどり着く自信がない。遅くとも21時には大阪駅には着いていないとバスに間に合うかが危なそうだ。握手の順番は、記憶では段原さん→梁川さん→高木さん→金澤さん→植村さん→宮崎さん→宮本さんだった。段原さんと梁川さんには「加入おめでとう」、他の五名には「武道館おめでとう」と申し上げた。金澤さんが「メガネおしゃれ!」とおっしゃってくださった。宮崎さんは「おおおーーー!!!」とそんなに驚くかというくらい驚いてから「凄いメガネ!」とおっしゃってくださった。凄いメガネをかけてきてよかった。握手を終えて会場を出ると16時7分だった。はじめはどうなることかと思ったが意外と早く終わった。夜公演の時間に置き換えると19時37分。大丈夫そうだ。

外に出ると、小雨がぱらついていた。だいぶ足腰が疲れた。公演の途中から立っているのが少しつらかった。コンビニでトリス・ハイボール<キリッと濃いめ>を買って、店の前で飲んで、ゴミ箱に捨てた。昼公演の前に飲んだフェイクな酒と同様、アルコホールは9%だったが、どういうわけかぜんぜん効かんかった。もうすぐで開場だったので会場前で座って待った。入場が始まらないなと思ったら開場の時間を勘違いしていた。なぜか16時半と思ったが正しくは17時だった。

「とうとう来たな、この時が!!」―フロアで夜公演の開演を待つ俺の心境を表すのに、これ以上に相応しい言葉はなかった。何でだと思う? いきなり聞かれても分かんねえよな。あのな、2番だったの。2番。整理番号が。凄くね? 先走って入場口に向かう早漏野郎どものせいで実際に中に入ったのは4人目になったんだけどさ、それでも申し分のない位置につくことができた。左のお立ち台の、目の前。左右を見て数えたら最前にいたのは俺を含めて11人か12人だったと思う。右端の二人くらいは女性限定エリア。393番で入った昼公演では、広い会場だと感じた。夜公演に4人目の入場者として入ると、狭く感じた。違う会場なんじゃないかと錯覚したほどだった。

ライブハウス(和製英語)の最前でJuice=Juiceを観させてもらう幸運に恵まれたのは去年の6月、今年の4月に続いて三回目だった。一回目も二回目も思ったけど、別世界だよこれは。経験しないと分からない。10万円でも20万円でも売らない。100万円なら考える。でも100万円を積まれても即決はしない。
・高木紗友希さんの左の二の腕にある注射(やばい注射ではない)の跡が分かった。
・宮本佳林さんが上下が分かれた青い衣装で登場されたときに左肩の部分がねじれていた。最後までそのままだった。可笑しかった。
・トークのセグメント中に地面に置いてあるペット・ボトルの水を取るとき、高木さんは胸元を気にしてしっかりと押さえていた。植村さんは気にせずにかがんで、丸見えになった。こういう何気ない動作に各人の性格が出ているなと思った。あんまり押さえる必要がなさそうな人が押さえて、押さえないといけない人が何もしていないのが面白かった(何を言ってるんだよ。しかも失礼だろ)。
・アンコールではグッズの白いTシャツを各メンバー毎に違うアレンジメントを施して着用している。段原さんはパッと見、リメイクせずに着用しているように見えたが、最前から見ると、ポケットの上にずらしてもう一つポケットが縫いつけてあるのが分かった。ジュンヤ的なカスタマイズだ、と元ギャルソン・オタクの俺は思った。
・金澤朋子さんが唯一おへそを出していた。ホットパンツに、前で結んでお腹を出したTシャツ。中には黒い腹巻き的なものをお胸の周りに巻いていた。金澤さんはこの衣装で脇も出していたし、最高だった。他には宮崎さんも広めにお腹を出していた。
・Tシャツのアレンジメントがいちばん凝っていたのが高木紗友希さん。Tシャツのデコルテ部分を切ってフリルにしてあった。

最後のサツアイで段原瑠々さんが「るるは研修生として三年半くらいやってきとったんじゃけど…」とナチュラルに広島弁を交え(やらせてもらってたんじゃけど、だったかもしれない)、同僚も観客も全員が悶えた。宮本佳林さんは「もー何なの、可愛い!!」的なことを言って地団駄を踏んでいた。(段原さんと梁川さんがトークで笑いを取ったり目立ったりしたときの宮本さんの表情が見物だった。愛おしそうでありながら悔しがってもいるような。ご本人の詳しい心情までは分からないけど、刺激を受けているのは間違いなさそうだった。)前方の観客が笑うと口元に人差し指を持ってきてしーっ言わないでという感じの反応。段原さんは少し言葉に詰まって、もう一度「三年半くらいやってきとったんじゃけど…」と言い直して談話を続けた。自らの広島弁で俺らだけじゃなく仲間までもを悶絶させながらそれに気付いていなさそうな素振り。もういちどそのフレーズを畳みかける天性のあざとさ。その後、研修生のときと今日とでは気持ちがぜんぜん違う、ステージで照明を浴びて大好きな歌をダンスをやれるのが嬉しいというようなことを彼女はおっしゃった。

俺は段原瑠々さんが出演する研修生発表会を何度か観たことがある。そのときはそこまで目をひかなかった。もちろん、歌が上手で実力診断のベスト・パフォーマンス賞を穫っていたのも知っていた。でも今日こうやってJuice=Juiceのコンサートで観るまではそんなに気になる存在ではなかったんだ。今日はやけに彼女が目についた。なんで研修生発表会では気が付けなかったのか? 俺の目は節穴なのか? Juice=Juiceに加入した途端、急に段原さんがいいと言い出すのか? 自分が信用ならなくて悲しくなった。でも、こういう見方もできるんじゃないか。同じ素材でも、調理法でまったく別の料理になるし、同じ料理でも盛りつけやお皿で印象も味も変わる。それに似ている。ご本人も研修生のときとは気持ちが違うとおっしゃっていたし、観る側も違う印象を持つのは不思議ではない。

・宮崎由加さん曰く、京都FANJは楽屋が畳。みんなすぐに寝っ転がる。梁川奈々美さんが横になると畳ひとつにも満たない小ささで、可愛かった。宮崎さんの日替わり写真には「ここの楽屋だいすきなんだー」と書いてあった。
・植村あかりさん曰く、コンサートで挨拶は年齢の若い順からしていくが、今日から年下の二人が入ったことで自分は最初じゃなくなった。二人のトークがしっかりしていて、プレッシャーになっている。前のままでよかったんじゃないかと思った。(五人のままがよかったという意味に取れたので観客はエーイング)「違う違う、そういう意味じゃない! 7人の方がいいと思ってますよ」。

公演が終わったのが19時6分だった。いやあ、終わってしまった。未練はなく、切なさもなかった。ただ打ちのめされて、立ち直れなかった。俺は完全に満たされていた。そのまま意識を失って、死んでもよかった。夜公演の高速握手ははじめが段原さん、次が梁川さん、残りの順番は覚えていないが昼と同じだったような気がする。段原さんには凄く楽しかった、梁川さんにはお疲れさまでした、他の方々には最高とお伝えした。最初のお二人だけ違うのに特に意味はない。咄嗟に出てきた。宮崎さんは「イエイ!」と返してくださった。握手を抜けて現実世界に戻ったのが19時32分だった。いや、戻れていなかった。夢が終わったのにまだ夢の中にいるような、鮮烈な夢から醒めてまだ寝ぼけているような、そんな感覚が続いた。ここが京都なのか大阪なのか知らないしどうでもいい。そういう気持ちになった。夢遊病者のように国際会館駅へとフラフラ向かった。京都に向かう電車の中で右下に「整理番号-2番」と印字されたチケットをぼーっと眺めた。夢への片道切符だった。戻ってくるのに時間がかかりそうだ。そういえば、昼公演で感じていた足腰の疲れは、夜公演ではまったく感じなかった。「帰りにうどん食べてくわ」の格言を守り「笑卵」でカレーかすうどん750円を掻き込んで(21時の閉店間際、俺が最後の入店者だった)21時半頃にバス・ターミナル。無事にリボーンという最高級バスに乗り込んだ。明朝、新宿に着く。そこから会社に直行するつもりだ。明日は10時から11時、11時から12時、13時から17時、17時半から18時と会議が詰まっている。