2020年2月25日火曜日

ウエスト・サイド・ストーリー (2020-02-15)

ブロードウェイ・ミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』にヒロイン役で出演するのがどれほど凄いことなのか、私は分かっていない。でも去年のバースデー・ライブ(コンサートのことをライブというのは和製英語)でご出演決定を我々に知らせる田村芽実さんの喜びようと、まさか受かるとは思っていなかったという口ぶりからして、ご本人にとって、そして客観的にも相当ビッグな仕事なのだろう。ファンクラブに入っている身として先行受付に申し込まない手はなかった。15,000円のミュージカルは高いから一公演だけ申し込み、6,500円のコンサート(つばきファクトリー)は24公演に申し込む(当選したのは18公演)という、俄かに理解しがたい経済観念。私は普段の消費活動でも同じことをしている。高い商品の購入には慎重で、単発で見るとそこまで高くはない買い物を繰り返す。結局、累計すると大きな金額になる。毎月のカード請求額が異常な金額になるカラクリ。

ここ一、二週間は目覚めが悪かった。朝になっても疲れが取り切れていない。中途覚醒はしていないし、Fitbitの睡眠スコアも安定して80点前後。日中にしんどくなるわけでも、眠くなるわけでもない。深刻さはない。でもどこかスッキリしない日が続いていた。こうなるのを見越していたわけではないが、今日は朝一で整体の予約を入れていた。先生の施術が的確だったのだろう、昼過ぎには元気がみなぎるのを実感した。パンダさんパワーMAXとはこのことである。

Weston A. Priceさんの“Nutrition and Physical Degeneration”という本がとても面白い。未開部族が白人文明の食事(小麦粉、甘いもの、缶詰等)を取り入れることで顔と歯列弓が狭まる。歯が収まらなくなる。虫歯が大幅に増える。口呼吸になる。身体が弱くなる。というのを筆者が実際に数々の部族や伝統的な食生活を続けている地域を訪れて実地調査で示していく。これらの変化はわずか一世代で起きる。古来からの食事を続ける親と、白人文明の食事が主の子供で顔の形と歯並びがまったく異なる。素晴らしい発育や歯の健康、丈夫な身体を支える伝統的な食事の例は、
・ライ麦パンとチーズ。肉を週に一度
・魚の肉、脂、卵。野菜を数種類。たまにクランベリー
・動物の血、肉
といった具合だ。(ちょっとうる覚え。気になる人は原典にあたってほしい。ネット上で無料で見ることも出来る。)白人の食事を導入して虫歯に悩まされるようになったある部族では、歯の痛みが自殺の唯一の原因になっているという(彼らの社会には歯医者が存在しない)。私はこの本をどこか遠く離れた地域に住む人たちの話としてではなく、自分の問題として読んでいる。私は子供の頃に歯の矯正をしたし、口で呼吸をすることが多かったからだ。そしてたしかに、糖質を制限し始めてから明らかに虫歯は減った。出版されたのは1939年。80年の経過を感じさせない。こういう本のことをクラシックと呼ぶのだろう。(『食生活と身体の退化―先住民の伝統食と近代食その身体への驚くべき影響』という題で2010年に日本語版がドロップされているようだ。)

健康や栄養に関する言説は混沌を極めている。考えられるほぼすべての説が入り乱れており、それぞれの論者が自分こそは正しいと主張している。しかし、小麦粉についていい話を聞いたことがない。この時期に多くの人々を苦しませる花粉症をもたらす原因の一つとも言われている(たとえば宮澤賢史、『医者が教える「あなたのサプリが効かない理由」』)。花粉症に罹っている人たちが真っ先にするべきことは糖質の過剰摂取をやめること、特に小麦を避けることである。(小麦がここまで敵視されている最大の理由は20世紀後半の品種改良。その影響を受けていないスペルト小麦はよいとされている。)今日の昼食はそれを踏まえた上で、池袋の楊3号店で汁なし担担麺を注文した(いや、めっちゃ小麦粉ですやん)。おいしい。3号店でいつも腕をふるっている料理人さんは汁なし担担麺を作るのがあまり上手ではなかったが、ある時期から技量が向上し、2号店と遜色なくなった。

13時半過ぎに市場前駅。IHI STAGE AROUND TOKYOの場所を把握。開場が17時、開演が17時半なのにこの時間に来たのには二つの理由がある。一つは万が一の事態(電車が止まる等)に備えたかった。もう一つが、何時間か労働をする必要があった。MIFA Football Parkというフットサル場に併設されたサテン。アイス・コーヒー。会社のラップトップを開く。カウンターの席。椅子が低すぎる。フットサルをやっている子供たちの母親たちとおぼしき集団が後ろの長机でワイワイやっている。うざめ。そういう場所なのでしょうがない。Tame Impalaさんの“The Slow Rush”を聴く。非常にドープなアルバム。労働を完了させてサテンを出る。しばらく会場付近をウロウロする。空間がだだっ広い。建物が密集していない。余裕がある。この近くに住んでいればジムに入らなくても好きなだけジョギングが出来る(ジョギングは筋肉とテストステロンを低下させるので私は滅多にやらないが)。一口に東京といっても広いんだな。

開場予定時間は17時だったが、16時45分にロビーまで入れるようになった。中の掲示で公演の長さを知る。
上映時間
1幕:1時間30分
休憩:20分
2幕:55分
約2時間45分
ロビーでプロテイン・バー(Rise Bar, The Simplest Protein Bar, Almond Honey)を食べる。私はiHerbでプロテイン・バーを色々と比較したが、原材料に関してはコレが圧倒的に優れている。アーモンド、はちみつ、ホエイ・プロテイン・アイソレート。何と三つだけ。お腹も空いていないし、夕食はコレだけでいいかなと。ロビーの座席表。自分のチケットと照合。田村芽実ファンクラブ事務局さんがとてもよい席を恵んでくれたことを知る。4列目の中央付近(最後部が32列)。すぐ後ろが通路。実際に座ってみるとそれはもう明らかに良席だった。これはやばいなと。これ以上前だと近すぎて却ってステージが観づらそうという絶妙な塩梅。整体によってパンダさんパワーはMAXだし、席はステージに近いしで、開演が楽しみで仕方なくなった。このワクワクする感覚は横浜F・マリノスの試合前にもあるのだが、Hello! Projectで味わうことは減ってきている。これからどんなスペクタクルが展開されるんだろう、という純粋な期待。客席が回るってどういうこと? いや、言葉の意味としては分かるんだけど。実際どういう感じなのか、想像がつかない。

開演してすぐに私は圧倒された。体験したことのない没入感。我々が観ている場所も演出の一つに組み込まれている感覚。冒頭からガンガン回る客席。(一つ一つの席が回るんじゃなくて、全体が時計回りと反時計回りに動く。)自分で顔を動かさなくても、視点が勝手に物語の中心に移動するんだよね。こんな会場があるんだな。IHI STAGE AROUND TOKYO。一度、体験してみる価値があるよ。観る前はチケット代が高いと思っていたが、値段に納得するのに時間はかからなかった。まずこの会場と席の時点で数千円で済むはずがないし、ミュージカルそのものも相当な労力をかけて作り上げられているのが伝わってきた。私はミュージカルのことはよく分からないが、おそらくこういうのが一流のミュージカルなんだろうなと思った。こういう経験を出来るのは大きい。要所で繰り広げられるダイナミックなダンスは動きが揃っていて、鳥や魚の集団移動を見ているようだった。衣装も手が込んでいた。移民役の男性たちが着ているデニム上下がカッコよかった。自分も上下でデニムを着たいと思った。

田村芽実さんはヒロインだったので自ずと出番は多く、あえて注目する必要はなかった。物語に身を任せていれば田村さんのことを追うことが出来た。今回のミュージカルで私がちょっとびっくりしたのが、キスの頻繁さ。そんなにキスする必要があるのかというくらいにフィアンセ役の村上虹郎さんとキスをなさっていた。村上さんの欲望でどさくさに紛れて台本に書いてある以上にキスをしているんじゃないかと訝しがりたくなるほどだった。桐村里紗さんの『日本人はなぜ臭いと言われるのか』によると日本人が一般的に自分の口臭に無頓着なのは欧米人のように日常的にキスやハグをしないからと考えられている。舞台役者さんたちはそうはいかない。あれだけキスの機会が多いと口臭の予防には相当に念を入れざるを得ないだろう。個人のエチケットを超えてもはや職業的な義務の領域。なお、同書では口腔ケアに有効な栄養素として
・ビタミンC(炎症→歯周病の元になる活性酸素を抑える)
・マグネシウム(体内のカルシウムのバランスを調整し歯石の沈着や歯槽骨の脆弱化を防ぐ)
・フィトケミカル(抗酸化、抗菌、消臭)
・食物酵素(口臭元のタンパク質分解)
が挙げられている。

私は物語にはそれほど引き込まれなかった。開演前に横の若い女性が読んでいた冊子(おそらく公式パンフレット)に田村さんのインタビューがあった。横目でちょっと覗いたら(覗くな)マリアの悲しみを歌で表現したい的な言葉が載っていた。私がHubert Selby Jr.さんやDonald Goinesさんを愛読して麻痺しているのかもしれないけど、そんなに悲しい話には思えなかったんだよな。主役の二人は恋愛を楽しんでいるわけで、悲劇って言ってもさ。知れてるじゃん。それに、たしかに人は死ぬんだけど、話としてはキレイで、ドロドロしていなかった。麻薬が出てこないしさ。もちろんストリートの現実を描くのは主眼ではなく、民族の壁を超えた純愛が物語のテーマなんだろう。だからこそ広く民衆に支持される有名なミュージカルになったんだろう。

田村芽実さんがご出演されていなければ私はブロードウェイ・ミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』を観ることはなかったし、IHI STAGE AROUND TOKYOに足を運ぶことも一生なかったかもしれない。田村さんが私をこのミュージカルに、この会場に導いてくれた。今日の観劇は私が今後ミュージカルを観る上での一つの尺度になるだろう。そんな貴重な経験をさせてくれた田村さん。私をココに連れてきてくれてありがとう。