2024年4月5日金曜日

BOYS ON THE RUN (2024-03-10)

最近なにか面白い本は読みましたか? 鍼の先生に聞かれ、咄嗟に答えが浮かばなかった。色々と読んでいるので即答できない。急にボールが来たので(QBK)状態になる。ビートたけしの本をいくつか読んだと答えたが、他にあったはず。先生が私の身体から鍼を抜き終わり、退室した後に、着替えながら思い出した。料金JPY6,000を支払いがてら、私は言った。面白い本、ありましたよ。人間の自己家畜化に関する本を読みました。ジコカチクカって、自分の自己に、動物の家畜に化けるですか? そうです。犬や猫と同じように人間も自分たちのことを家畜化しているんです。ここ数百年の急速な社会変化によって、人間の気質、身体に変化が表れているんです。性格は穏やかになりました。男性らしさ、女性らしさが薄れ、全体的に中性的になりました。世の中から暴力が減り、安全になり、人間は長寿を手に入れました。でもその代わりに人間の自由と動物性が損なわれました。そして社会で成員として認められるための条件が厳しくなりました。適応するのが難しくなりました。昔であれば普通に生きることが出来ていたであろう人でも、特別支援教育や精神医療による矯正の対象になりました。そこにおける人間はもはや資本主義の道具です。今の人間が置かれている環境は、野生よりも動物園にいる動物の環境に近いのです。
[…]典型的中世人が[…]現代にやって来たら[…]その長期的展望を欠いた考え方は思慮が足りないとみなされ、その残酷さや衝動性や荒々しい感情表出はたちまちトラブルの種となり、刑務所に入れられるか、精神疾患として治療を受けなければならなくなるか[…](熊代亨、『人間はどこまで家畜か』)
数百年前なら良い仕事に就き、尊敬され、結婚し、子を残していたであろう人が、現代においては精神疾患に該当し、なかなか良い仕事も見つからず、生きていくことに疲弊していることはしばしばあるように思われるのです(熊代亨、前掲書)
その話は儒教と道教の違いに繋がる、と先生は言った。人間のありのままの動物性や自由を大事にするのが道教で、みんなを同じように型にはめるのが儒教。面白そうな本だ、チェックしてみる、と先生。私が読み上げた書名を手元の紙に書いていた。私は(先生も)本の説明に気を取られ、次の予約をするのを忘れたまま外に出た。

老紳士というカテゴリーの男性たち(2024年現在)は一般的に、公衆の洋式便所で便座を下げたまま立ちションをする。そう、便座に小便がかかる。後から誰かがそこに座る? 彼らは気にしない。彼らの目には罪悪感、背徳感が一切ない。それが普通(normal、正常)だと思っている。最初は例外的な異常者の行動だと思っていたが、どうやらそうではないらしいことに私は気付いた。あの世代の男性たちにとってはごくカジュアルな行為なのだ。(小便で言うと、私が小学生くらいの頃、日本ではその辺のストリートで立ちションをするのは普通のことだった。)便座に小便をかける老紳士たちは私から見ると好きな場所で放尿、脱糞する獣のようだが、自己家畜化の度合いが我々の世代よりも弱いという意味で実際に動物に近いのだろう。しかしながら、私が彼らに向ける白い眼が、動物園で檻の中にいる動物、飼い主によくしつけられたペットの視点だと考えると、本当に自分が正しくて彼らが間違っているのか、迷いが出てくる。

2012年8月19日(土)、私は当時の親友と二人で、秩父の両神山を登った。登山の終盤、熊が全力疾走で上から転げ落ちるように私に向かってきた。人生で最も強く死を意識した瞬間である。が、それはさておき。老淑女が一人で切り盛りする近くの宿に前泊した。宿に着くと出迎えてくれた老淑女は、開口一番、私たちが女なのかと聞いてきた。いや男ですと答えると、男なのか…こんなに優しそうなのに…的なことを言って何やら感心していた。当時は意味が分からなかった。お歳を召されて(具体的には覚えていないが相当なご高齢だった)目がちゃんと見えていないのカナくらいに思っていた。『人間はどこまで家畜か』を読んだ今では意味が分かる。おそらく実際に彼女の目から見て我々は女のように見えたのだ。人間の自己家畜化が進み、見た目からして中性化しているのだ。他人と接点の少ない山奥にお住まいの彼女はなおさらこの変化を感じ取りやすかったのだろう。

『非国民な女たち』(飯田未希)という印象的な本がある。戦時中に奢侈やアメリカかぶれの罪を着せられ国家的なバッシングの対象となったパーマネント。圧力におとなしく従わず、パーマネントを求め続けた女性たち。私はコヴィッド騒ぎの真っ最中(2020年11月)にこの本を読んだのだが、自粛や不要不急といった言葉で特定の業種が槍玉にあげられて叩かれる構図がコヴィッド騒ぎとまったく同じで唖然とした。『非国民な女たち』で描かれている時代、日本で髪にパーマネントをかけていたのはもっぱら女だった。当時の基準からすれば、今日の13時から予約した美容室でヘア・カットのみならずパーマネントをかけた私は女のようだと、女でも思うことだろう。

ポーター・クラシックの高価なデニム・カヴァーオールを纏ったD氏と、下北沢駅前で合流。氏の導きで、洒落たサテン。カフェではなくサテン。こだわりのある個人店にもかかわらず接客に嫌みがない。D氏はブレンド、私レーコー。D氏ブレンドお代わり。この後BLUEGOATSさんを一緒に観ませんかと誘ってみるも、渋い反応。その後、D氏オススメのカムイで夕食。食券制。担々麺とエビ焼売が売りらしく、店名にも記されている。私は麻婆豆腐と米とミニ担々麺のミール、D氏はあんかけかた焼きそばと小さい何かのミール。食いながら眺めるBLUEGOATSさんのYoutube配信。メンバーのダイナマイト・マリンさんがフル・マラソンに挑戦している。朝9時に埼玉の春日部を出発し、下北沢がゴール。そのまま下北沢の会場で公演に出演する。間に合わなかったら氏を欠いたまま公演が始まる。ダイナマイト氏は集団の中でも運動は苦手な方。多少の準備期間があるとはいえ、いきなり42.195kmを走り切るのは難しそう。出来たらスゴい。そう思っていたが、順調なペースで距離を伸ばしていく様子が配信されている。素直にスゴい。私は週に3回くらい5km走っている。これまでの人生で10km以上を続けて走ったことはない。だから仮にマリンさんが完走出来なくとも、20km、30km走れたら十分によくやったと思える。でも、何のために? 何でマラソン? という疑問は残る。D氏に会場前まで案内していただき、別れる。

下北沢MOSAiC。受付で予約時のニック・ネームを告げる。ドリンク・チケットとJPY600を交換。受付の先に座っている紳士二人組に声をかけられる。マリンさんの生誕企画。ペンライトを渡される。バー・カウンターでジン・トニックを注文。(鍼をやった当日はお酒を最後まで飲まないのが望ましいが、一応5時間以上経過したら飲むことは可能と先生に言われている。)容器がプラスティックではなくグラスだった。地下のフロアにグラスを戻す場所はない気がする。その場で飲み干す。19時開演だが17時から開場している。随分と早いのは、フロアでマリンさんのマラソンのパブリック・ヴューイングが開催されているから。入って右がステージ、正面の壁に巨大スクリーン。そこにYouTube配信と同じものが投影されている。私が入った18時過ぎにはだいぶ人で埋まっていて、どこに行ったらいいのか戸惑う。やや気まずい。すいません、すいませんってペコペコしながらスペースに進んでいく感じ。スクリーンに向かって左の後ろから2列目くらいの場所につく。ステージに置かれた椅子にチャンチーさん、ほんま・かいなさん、ソン・ソナさんが座っているが、ヘッズはスクリーンや手元のスマ・フォに集中している。徐々に近づく開演時間。順調にキロ数を刻むマリンさん。下北沢界隈まで到達していることが分かり、生まれる拍手。開演準備のためスクリーンが仕舞われ、メンバーさんたちが捌け、我々は回れ右するような形でステージに向かされる。誰も前に行こうとはせず、押し合いへし合いの混乱もなく、行儀よく。投げ銭公演のときもそうだったが、BLUEGOATSさんのヘッズは整然としていて控えめな印象。

無事に開演までに会場にたどり着くマリンさん。ステージに現れた氏に抱きついて一緒に倒れ込むメンバーさんたち。暖かい拍手に包まれるフロア。マリンさんによる感動のスピーチ。裏方、メンバー、ファンへの感謝。一方で、この企画に対する批判の声。YouTubeでメンバーを攻撃するコメントを投稿するヘイターたち。そのような人々からみんなを自分が守る、自分が戦う、という決意を表明していた。だからみんなは私たちだけを見てほしい、と。正直に言うと、私は彼女の言葉に入り込み切れなかった。私はBLUEGOATSさんの現場に来るのがまだ2回目。存在を知ってから2ヶ月も経っていない。よく知っているわけではない。マリンさんが42.195kmを走りきった後に真っ先に毒づきたくなるほど目の敵にしているその相手が何なのか、過去に具体的に何があったのか、ピンと来ない。その場にいるヘッズがおそらく共有しているであろう何かを私が共有できていないであろうことは分かった。いずれにせよ、フル・マラソンを完走するという偉業を成し遂げた直後、情念のこもったスピーチ、その流れで始まった公演。メンバーさんもヘッズも気持ちが入っていた。異様な雰囲気があった。序盤はマリンさんの息が整っていなくて、歌が乱れていたが、それがまた味になっていた。ただ、コンサートは40分足らず。もちろん今日に関してはマリンさんがフル・マラソンを走った直後という特殊事情がある。あの状態で一曲でも参加できるのはスゴい。ただ、単独公演をやるのであれば、せめて60分はしっかりと魅せてほしい。(前の投げ銭公演も30分くらいだった。)出来れば80-90分の尺で魅せてほしい。私の感覚ではそれがフル・サイズのコンサートだ。

私は別にアイドル・オタクではないが、せっかく現場に来たのだから一度は特典会に参加してみよう。私はBLUEGOATSさんに関しては明確に誰かの支持者ではなかったのだが、あえて言うならチャンチーさんは気になる存在だった。YouTubeでも、現場でも、集団の中で一番目で追いたくなる存在。衣装が一人だけハーフ・パンツで脚を見せてくれているし。ちょっと裾がめくれてエッチだし。終演後、チェキ券の購入列に並ぶ。チェキ券を一枚くださいと言うと、どのチェキ券ですかと係員に聞かれる。チャンチーさんのをと言うと、そうじゃない的な反応。どうやら撮るだけのチェキ券とお話もできるチェキ券の2種類があるらしい。JPY2,500。チェキのカメラが用意されていて、てっきりそれで撮るのかと思いきや、列の先頭にいた紳士がご自身のスマ・フォで撮ってもらっている。訳が分からなくなった。後ろの紳士に尋ねたら優しく教えてくれた。曰く、このスマ・フォでと頼んだらそれで撮ってもらうことが可能。フィルム代がかからない分、3枚くらい撮ってくれる。紳士の言う通りにしたら3枚撮ってくれた。事前に何の説明もない。(どこかに書いてあったのだろうか? 仮に書いてあったにせよ現地で説明するのが普通の感覚だと思うが…。)自分で飛び込むなり周りに聞くなりして切り拓かないといけない。KissBeeさんでも感じることだが、地下アイドル界の特典会における説明の不足には本当に痺れる。いきなりポンと単騎で飛び込んでくる私のような存在は基本的に想定されていないのだろうか。

(以下、チャンチーさんとの会話の概要。記憶。正確な書き起こしではない。)

私:初めまして
チャンチーさん:えー! 初めて? ありがとう! (ポーズ)何にしようか…とりあえずピースして(1枚目)
私:スタートュ(YouTube動画のイントロにおける合い言葉)が好きなんで…
チャンチーさん:あ、そうなの?(2枚目、スタートュのポーズ)
チャンチーさん:ハート作って(3枚目)

チャンチーさん:ねえ、それ何なの?(私のiPhoneケース裏に入れてあるNHK撃退ステッカーを指して)
私:あ、これ…NHKの集金人が来たら、ココに電話したら追い払ってくれるの
チャンチーさん:…尖りすぎじゃない?
私:いいかな、って思って…
チャンチーさん:(お、おう…的な反応)

チャンチーさん:動画? 何で知ってくれたの?
私:バキ童コラボで知って、それでアオヤギ・チャンネルにはまって、動画ほぼ全部観て…
チャンチーさん:へえそうなんだ!
私:あー、で、オレ池袋に住んでて
チャンチーさん:えー!
私:あのチャンネルすごい池袋が出てくるでしょ
チャンチーさん:やばい、(場所が)バレちゃう
私:大体分かるよ。動画で、赤札堂で買い物してたでしょ
チャンチーさん:赤札堂(笑)
私:今は違うんだけど、赤札堂の先の辺りに住んでたこともあるし

チャンチーさん:名前なんていうの?
私:しいてき、です
チャンチーさん:どうやって書くの?
私:アルファベットで、c-t-e-k-iって
チャンチー:ああそれでしいてきって。覚える
私:あ、ありがとうございます
チャンチー:ありがとうね(私の右手を握ってくれる)