2024年6月30日日曜日

「C'mon Everybody !」 新沼希空卒業スッペシャル ~ Ready Go!Now! ~ (2024-06-10)

きそーら最高! パ・パン・パ・パン・パン!
きそーら最高! パ・パン・パ・パン・パン!
きそーら最高! パ・パン・パ・パン・パン!
きそーら最高! パ・パン・パ・パン・パン!

終演直後、沸き起こるチャント。果たしてそうだろうか? コンサート最終盤に噴射され床に落ちた銀テープをかき集める見苦しい中年男性を横目に、首を傾げて向かう出口。私にとっては、最高ではなく、最低でもなく、ほとんど心を動かされることのないコンサートだった。ある時期から私はHello! Projectの現場にいてもこれといった感情が沸いてこない。無の時間。この団体のコンサートを最後に観たのが2023年4月2日(日)。浅倉樹々さんのつばきファクトリー最終出勤。それ以降は、池袋のサンシャイン噴水広場で行われているリリース・パーティを無銭でちょこっと冷やかす程度のことを除けば、Hello! Projectのコンサートやイベントには一度も参加していない。参加したいとも思わない。心残りもない。今の私には別の楽しみがたくさんある。もはやHello! Projectを必要としていない。

1年と2ヶ月ぶりにつばきファクトリーのコンサートを観たら、自分はどう感じるのだろう。それには興味があった。インディー(KissBeeやBLUEGOATS)を観るようになった自分に、久し振りに観るつばきファクトリーはどう映るのか。やっぱりHello! Projectはモノが違う、こっちの方が楽しい、となる可能性もあるんじゃないか。Hello! Projectの世界に出戻りたくなるんじゃないか。もうインディーには戻れなくなるんじゃないか。それが少し恐くもあり、楽しみでもあった。『スカウト目線の現代サッカー事情』で田丸雄己さんが書いていたのだが、あらゆるカテゴリ(1部リーグ、2部リーグ、育成世代等々)の試合を観ることでその国のサッカーを深く理解できる。実際、私もたまに明治安田J2リーグの試合を観ると、横浜F・マリノスに出来ていてJ2のチームに出来ていないことが浮き彫りになって見えてくることがある。J2を観ることでJ1のJ1たる所以が分かる。同様のことはHello! Projectとインディー・アイドルの比較においても言える。メンバーさんの容姿や歌唱力の水準の高さ、長年積み上げてきた楽曲資産など、Hello! Projectが優れている点はたくさんある。イスラム教徒がハラル認証の飲食店を選ぶように、アイドルならHello! Projectを観ておけば大外しはしない。そういうブランドだ。

何でそもそも今日来たかっていうと、5月末をもってファン・クラブを退会するにあたりゴールド・カードに貯まっていたポイントを使い切る必要があった。結構貯まっていた。最後の数ヶ月に駆け込みで小片リサさんのコットン・クラブ公演、今日のつばきファクトリー、数日後のJuice=Juice(植村あかりさんの最終公演)のコンサート・チケットと交換し、いい具合にポイントをほぼ消費することが出来た。小片さんとJuiceのチケットはたまたま知人に譲ることになって、余ったのがつばきのチケット。積極的に買い手を探すのも面倒くさいので、自分で入ることにした。つまり、私は今日のチケットをお金を払って買ったわけではない。

月曜日の18時開演。Hello! Projectでは重要なコンサートを平日に開催するのがすっかり当たり前になっている。つくづくオタクはナメられているが、何の問題もなく人が集まる。今日に関してはチケットの売れ行きが芳しくはなかったようだが、恥ずかしくない程度には客席が埋まっていた。もちろんC'mon Everybodyと銘打ちながらもeverybodyが来ているとは言いがたかったが、ガラガラとか武道半とかの惨状ではなかった。久々に目の当たりにするHello! Projectそしてつばきファクトリー支持者の層の厚さ。圧倒される。日本武道館周辺を賑わす多種多様な異常者たち。異常者の玉手箱。平日のこの時間。数千人。9千円くらいするチケット。このスーツ率の低さ。どういう仕組み? 私はオフィスに出勤してそのままスーツ姿で行ったのだが、開演前に少しお話ししたF君は、スーツだと浮きますよ。関係者だと思われますよと笑っていた。ちなみにネクタイは赤。完全にまおぴんカラーです。セブン・イレブンで調達したプレミアム・エビス ジューシー・エール。甘栗。入場。

アリーナ。いい席。通路席。出禁だかファン・クラブ除名だかになっている某有名新沼支持者を観測。前座、名乗るまで誰だか分からなかった松原ユリヤさん。見違えるほどの成長(スキルがどうとかじゃなくて生物としての発育という意味で)。感じる月日の経過。リル・キャメ勢も大人への階段を着実に上がっている。八木栞さんが漂わせるいいオンナ感。処女でなくなった可能性がある。性的になった豫風瑠乃さんのからだつき。彼女たちの成長に合わせたかのようにダンスに取り入れられる、杭打ち騎乗位のような動き。少し見ない間にこんなに大人になって……という発想が既にジジイ。この1-2年は彼女たちにとっては少しの期間ではないのだろう。時間の尺度が異なる。

コンサートのほぼすべての時間を、私は無言で過ごした。私はいま喉の調子が良くない。大きな声を出すのも継続的に喋るのも少し難しい。そして、そもそも感情が高ぶらない。だが、新沼希空さんと谷本安美さんに特別ゲストの山岸理子さん、岸本ゆめのさん、小片リサさん、浅倉樹々さんを迎えてのオリジナル6による『気高く咲き誇れ!』、そこに小野田紗栞さん、小野瑞歩さん、秋山眞緒さん通称さにこ(なんだそれ? と思って数日前に検索したら太陽のようだからSunnyなのと3人という二つの意味を掛け合わせているらしい。イク!つばで命名されたとのこと。いやいや、太陽のようなというか、日が没しているだろう)を加えての『初恋サンライズ』で突如として感情を取り戻した。ちょっと泣きそうになった。小片リサさんと浅倉樹々さんが同じステージで曲をパフォームする奇跡のような時間に立ち会えるとは! 小片さんと浅倉さんが曲中に向き合って目を合わせる場面では武道館がどよめいた。オリジナル6と、さにこ(なんだそれ?)を加えた9人。この編成によるパフォーマンスを観られる機会は、おそらくもう二度とないだろう。本日をもって新沼希空さんは芸能界を引退するからだ。この2曲だけで、私にとっては仕事を早く上がってここまで観に来た価値があった。それ以外の時間はすべて私には無価値だった。山岸さん、岸本さん、小片さん、浅倉さんが抜け、現体制によるコンサートが再開したとき、私は夢から醒めたような気持ちになった。名称こそ引き継がれているが、私が追っていたのとは完全に別の集団になったんだなと改めて実感した。あの幻のような2曲。あのわずかな時間。浅倉さんと小片さんの共演。これで私の中でつばきファクトリーという集団が成仏し、正式に解散した。もちろん実際にはまだ集団が存続しているのは言うまでもない。しかし私にとってはあのオリジナル6、9、8の時代、あの面子がつばきファクトリーなのである。フットボール・クラブのように選手は入れ替わってもチームを愛し続けるというわけにはいかない。私にとってつばきファクトリーはそういうものではない。これだけメンバーが入れ替わると、つばきファクトリーと言われても、もはや別の集団がカヴァーしているのと変わらないのだ。もちろん、今のつばきファクトリーが好きな人々のことを否定するつもりは一切ない。あくまで私にとってはということに過ぎない。

2時間半、みっちりとコンサートをやり切るのはHello! Projectのスゴさ。当たり前のようにやっているけど、コレはインディーには望めない。インディー界は必死に営業をかけて客を集めようとする割に肝心のコンサートが拍子抜けするくらいの分量しかないことが多い。同じ2時間半を使うにしても、配分がコンサート30分で、特典会2時間みたいな。コンサートをしっかりと作り上げることに対しての愚直さ、実直さにかけてはHello! Projectは本当に素晴らしい。一方で、インディーの規模に慣れてしまうと、武道館のアリーナでもずいぶんと遠いなと思ってしまった。会場が大きくてステージとの距離が遠いのを補うほどの表現力や演出効果の迫力は感じなかったのが正直なところだ。

興味を失い、しばらく離れた今となっては、私はもうHello! Projectに前のような情熱を注ぐことは想像すら難しい。ファン・クラブを辞めるとき、事務所から届いた書類には脱会という言葉が使われていた。辞書的には間違ってはいないのだろうけど、普通、退会じゃない? 私の感覚では、脱会ってカルト宗教を脱出するときによく使う言葉だ。Hello! Projectはまさにカルト宗教であり、自足自給の村だったんだと今になって私は思う。村の中だけを見て、外を見ないことが幸せになるための秘訣。他の陣営や娯楽と比較、相対化したら終わり。目が醒めてしまう。閉じた世界。それが悪いとは言わない。きそーら最高! と叫んでいた紳士たちにしても、世の中のあらゆるアイドルと新沼さんを比較した上で、彼女こそが最高だという結論を出しているわけではない。たまたま好きになったから最高。自分が愛するのは彼女だと決めたから彼女が最高。それでいいのだ。おそらく幸せというのはそういうものだろう。

2024年6月22日土曜日

『私のもとへ還っておいで』上映会&コンサート (2024-05-24)

チケットが全然売れていない。まだ半分くらい。ちょっと前にInstagramの配信でめいめいがこぼしていた。彼女はInstagram配信の予告をしない。アーカイヴも残さない。偶然Instagramを開いたタイミングと重ならないと視聴する機会がない。たしかこの回では引っ越すにあたりモノを減らすため紙の本をすべて処分(NPO法人か何かに送付する)してKindleに移行するという話をしていたような気がする。(この話をしていたのは違う回だったかもしれない。)チケットの売れ行き(この時点ではファンクラブ先行受付の段階だったと思う)が芳しくないのはなぜだろうか? 開演時間が金曜日の14時と18時半。9時から18時くらいの一般的な就業時間であれば、半休なり全休なりフレックス・タイムで早く上がるなり、とにかく何かをしないと片方でも観に来るのは難しい。

Hello! Projectの現場なら曜日時間帯に関係なく人が集まる。それは観に来る人たちが狂っているからだ。狂っている人(異常者)がたくさんいないと平日昼間の興業なんて成り立たない。いまのめいめいに狂ったファンはそんなにいない。狂っていないから正常な判断をする。正常な判断をする人が多いから、平日の昼間には申し込みが少ないという正常な結果になる。接触で売っているかどうか。そこが分岐点だと思う。色恋的な意味で好きにさせるとか、レスを送るとか、そういった世界。そこにめいめいは住んでいない。魂を込めた作品を作って、表現を届ける。極めて誠実で真っ当な姿勢。素晴らしい。だがその活動スタンスに引き寄せられるファンたちが平日に何らかの無理をして現場に来るかというと……。もちろん来る人もいるけど、アイドル現場のようにはいかない。まともな人が多いから来るかどうかの判断もまともになる。酔っているか、素面かの違い。もうひとつ考えられる理由として、上映会&コンサートという、いまひとつピンと来ない演目。何をやるのか。どれくらいの時間やるのか。それも多少はあったと思うが、あくまで副次的だと思う。

実際どんな感じだったかというと、観に来ていたのは70-80人。フロアに配置されたパイプ椅子。A, B, C, D, E, F, G列までテープで席番号が貼ってある。その後ろにも1列ある。当日券用か、関係者席か。1列が10席。8列全部座って80人。前後左右に空間がある、余裕のある配置。コヴィッド騒ぎの最中にあった、ひとつ飛ばしの席配置という茶番。アレを思い出した。おそらく開催する側としてはもっとチケットを売って詰めた並びにしたかったのだろう。観る側としては見やすくて助かった。めいめいが昼公演の上映会で、客席側のキャスティングの選抜メンバーみが強い、私のことをスゴく好きでいてくれるコアな人たち、的な言い方で我々に触れてくれた。めいめいのことをとても好きな人たちが集まっているのは間違いないが、ここでいう好きとは分別を伴う好きであって、所謂ガチ恋的な感情を抱いている人はほぼ皆無であろう。めいめい自身が育ててきたファン層であり、それで活動が成り立っているのは素晴らしいことである。

ひとつの公演が二部に別れており、一部は『私のもとへ還っておいで』本編の上映会。これが70分程度。休憩を挟んでコンサートが50分程度。たっぷりと時間を取った豪華な内容だった。上映会は、ステージの横の方に座っているめいめいと一緒にみんなで映像を観ながら、めいめいの話を聞くという感じ。場面ごとにめいめいが教えてくれる裏話が面白かった。たとえばめいめい演じるショウ・パブの女が冒頭で客のことをおっさんと言うのだが、その言葉を使うことに葛藤があったという。なぜなら客席にはおっさんがたくさんいるから。でもそこでおっさんたちがたくさん笑ってくれて緊張が解けた。あと、ある場面では体感的にはもっと笑いがあったので編集で笑いを足したとか。最初の衣装は歌舞伎町にマネージャーの清水さんと二人で買いに行ったとか。劇中に女が殺害予告を受ける場面で、観に来ていた甥っ子がめいめいが本当に殺されると思って泣き出したとか。椎名林檎『本能』を入れたのはただナース服を着たかったから。ラムちゃんの曲を入れたのもあの衣装を着たかったから。最近コスプレに興味がある。綾波レイのコスプレ(本格的なやつ)をしてコミケに行ってみたい。(囲まれちゃうよ!という客席からの声。)囲まれたい。予算の制約が厳しく、マリリン・モンローのカツラもアマゾンで安いのを買ってメイクさんに加工してもらった。裏話以外にも、めいめいの創作に対する考え方を聞けたのがよかった。私が最も印象に残ったのが、『私のもとへ還っておいで』を通して伝えたいことは何ですかとインタビューで聞かれて困るという話。伝えたいことはない。一人芝居コンサートというフォーマットをどうやって成立させるかを考えて作った。(これは本当にそうだよな、と思う。映画にしても小説にしても劇にしても、すべての物語に何かしらの教訓やメッセージが秘められていると思っているタイプの人たちっているよね。あとは登場人物に共感できないからこの作品が好きじゃないとか。たとえば主人公の言動に不快感を覚えるなら、そのイヤな感覚を味わうことを含めて作品を楽しむということなのに。表現において大事なのは伝えたいことよりも表現したいこと。この二つをごっちゃにすべきではない。)

コンサートのセットリストは昼と夜で同じだった。
1.『舞台』
2.『優しい夢だけを見て』:今日来ているのはコアな人が多いからコアな曲を…。人前で歌うのは二回目、前回歌ったのは『めいめい白書』で今日と同じ会場とめいめいは言っていた(まったく記憶になかったが私はどうやらその公演を観ていたらしい)。ただ、私が知る限り名古屋のリリース・パーティでも歌っていたはず。森川さんのブログで読んだ記憶がある。なので少なくとも三回目である。事務所の社長が好きな曲とのこと。昼公演には来ていなかったが夜公演は観に来ていた様子。
3.『オシャレ』:Hello! Project時代にひなフェス2014でパシフィコ横浜でソロで歌った曲。自分で選んだ候補曲は『モーニングカレー』と『負けるなわっしょい』だったがつんくさんに却下された。当時はそれが不満でメンバーにも愚痴っていた。当時はファンからがなる歌い方が求められていたので先述の二曲なら喜んでもらえると思っていた。『オシャレ』じゃ普通じゃん!と思っていた。でも今となっては普通で等身大なのが一番可愛いと分かる。つんくさんには感謝している。
4.『夢やぶれて』:劇中に歌う候補のひとつだったが落選した曲。“I Have Nothing”の場面。
5.『無花果』:コロナの時期でリリ・イベがキャンセルになって皆さんの前で披露する機会を逸した曲。
6.“Over the Rainbow”
7.“MAY”:自分の名前がめいで、5月なので入れた。

私にとってのハイライトは『優しい夢だけを見て』と『オシャレ』の二曲だった。『オシャレ』は前半がジャジーなアレンジで、2014年の映像を改めて観てみると表現力の圧倒的成長を感じられた。来年、再来年あたりにはゼップ・ツアーをやりたいとめいめいは言っていた。このヴィジョンを示してくれたのは嬉しかった。というのが最近のめいめいは体調が万全ではない時期があったのもあり、イケイケドンドンという感じではなく、どこに向かっているのかがいまひとつ見えにくかったからだ。こうやって一年、二年先の具体的な計画を話してくれると、こっちもそれを糧にファンを続けることが出来る。ファンクラブが私に与えた席は昼公演がE列、夜公演はA列。もちろん昼のE列でも十分に楽しめたが、特に夜公演は最前でめいめいの姿を拝み、生演奏と共に彼女の歌に浸ることが出来、幸せな時間だった。

2024年6月8日土曜日

吉田琴音生誕祭2024 (2024-05-12)

AFCアジア・チャンピオンズ・リーグ決勝戦、1stレグの翌日。土曜日に試合、日曜日にこのコンサート。身が入るわけがない。集中できるわけがない。あらかじめ分かっていた。試合がどんな結果になろうとも、私は他のことを考えることが出来なくなっているに違いない。5月11日(土)の試合が終わってもまだ2ndレグがある。2試合目が終わるまでは気が気でないはずだ。吉田琴音さんのお誕生日? それがどうした。KissBee? それがどうした。藤井優衣チャン? それがどうした。アイドル? それがどうした。そういう精神状態になることは、この公演を申し込む前に分かっていた。横浜F・マリノスが蔚山現代を破って決勝進出を決めたのが4月24日(水)。今日のチケット販売が始まったのが4月29日(月)。コンサートに足を運んだとして、私のモチベーションが低いのは既に見えている。行かないのも手。というか賢明。しかし5月末が使用期限の特典券が2枚残っている。コレを逃すともう今月はKissBee現場に来ることはない。ということでチケットを購入。

アル・アインとの試合は、16時から横浜駅近くで整体を受け、そのまま先生と一緒に観に行った。試合前に瀬戸うどんにでも入るつもりだったが先生がお酒を飲みたがるので新横浜駅とスタジアムの間にある適当な居酒屋に入った。(居酒屋北海道という店。調理含めすべてを大学生アルバイトで回しているかのような居酒屋。安いようでいて結局まあまあ行く金額。二度と利用しない。)先生曰く中国の地元では毎日のように何かにかこつけた集まりがある。誰かの誕生日とかで。その度にお金を払わないといけない。自分がそういったパーティをやらなくても他人のには顔を出さないといけない。イヤでも一回目は出て、二回目から断るというような配慮をしないと人付き合いに影響が出る。給料では足りないくらいにお金が出て行く。自分も会を開いてお金を徴収しないとやっていけない。複数人で食事に行ったときはその中で稼ぎがいい人が全額を払わないといけない。それが当たり前。先生はそういった風習があまり好きではないのだという。

試合前、選手入場時に立ち上がってゴール裏有志が用意してくれた紙(スタジアム全体でトリコロールを表現。私のエリアは白だった)を両手で頭上に掲げながらアジアを勝ち穫ろうのチャントを歌う。物凄い雰囲気だった。ウルッと来てしまった。2022年W杯の日本対スペイン戦で試合終了前に泣いていた男性が中継に抜かれたときに本田圭佑さんが言ったように「まだ早い」のは百も承知。まだ早いどころか試合が始まってすらいない。だが横浜F・マリノスがこの大舞台にたどり着き、私はスタジアムでそれを応援できている。それが本当に幸せだった。2-1でマリノスの勝利。僕が引退した後も思い出す試合になるだろう、と試合後にヤン・マテウスさんは言った。2週間後の2ndレグでは色々あって1-5で負け。合計スコア6-3でアル・アインがアジア・チャンピオンになった。それでも私にとって5月11日(土)のあの経験が特別だったことに変わりはない。

私が生きていて健康なうちに横浜F・マリノスがAFCアジア・チャンピオンズ・リーグで決勝に行くことは、もしかするともうないかもしれない。それくらいの大きな試合。一晩寝て何事もなかったかのようにKissBeeのコンサートに没頭できるわけがない。上の空。無理もない。昨日の試合で使い果たした感情。会場も良くなかった。五反田のG4。見づらい。整理番号38番。チケット発売後1分で決済購入してこの番号。おそらく年間パス(というのがあるっぽい)で最初の20-30人は埋まっている。会場によってはこの番号でももっと見やすい位置に行けると思うけど、G4では私たちのような一般層は残飯のような位置しか得られない。何と言えばいいのか、最前付近以外はすべてカスみてえな作りの会場なんだ。当日券で入っても大差なかった。
The odds are stacked against us like a casino
Think about it, most of the army is black and latino
(Immortal Technique,“Harlem Streets”)
マジでコンサートがほとんど印象に残っていない。ショッピング・モールでやっている知らない集団のリリース・パーティを遠巻きに眺めているのに近い感覚。あー、なんかやってるんだねっていう。入り込めていない。藤井優衣チャンの美貌は相変わらずだった。崩れる瞬間がない。お人形さん。それでもずーっと頭から横浜F・マリノスのことが離れない。昨日の試合のこと、次の試合のこと。マリノスに夢中すぎて、意識にKissBeeが入り込む余地が残されていない。視界の中ではKissBeeのコンサートが開催されている。メンバーさんがステージにいる。好きな曲も流れている。見える。聞こえる。それでも私に今日のコンサートは見えていなかったし、聞こえていなかった。ただそこに居ただけだった。私はこのコンサートの一部ではなかった。終演後、期限切れが近い特典券2枚を使ってツー・ショットの写メを2枚。藤井優衣チャン。実物も写真でも氏が美しすぎて毎度ながら感心する。すぐ隣に立たせてもらって、一緒に写真を撮ってもらう。それに1枚千円を払うのも納得である。

2024年6月2日日曜日

TAKUYA KURODA featuring 9m88 (2024-05-08)

この淑女を一目見るためにJPY9,500の公演チケットを購入した。誰かって言われても何て読むのか分からない。安くないチケット代に加えさらにJPY2,000くらいを払う羽目になる。ブルーノート東京では飲み物か食べ物の注文が必須だからだ。でも何て読むのか分からない。私がSpotifyで2023年によく聴いたアーティストの3位くらいだったと思う。でも何て読むのか分からない。一回読み方を知ったことがある。もう忘れた。何て読むのか分からない。覚えづらいことこの上ない。9m88。どう読むのか分かるか? 正解は、きゅーえむはちはち。ではない。ジョーエムバーバー。分かるか。覚えられるか。もう覚えたけど。

2023年4月5日(金)にブルーノート東京のウェブサイトを眺めていて、何かめぼしい公演はないかなと思ったら9m88さんの名前が目に飛び込んできた。Spotifyでよく聴いているあの歌手! 曲の題名から漢字圏の方なのは分かっていたが、詳しい素性は分からない。おそらく活動拠点は日本ではない。生で観られる機会もそうないだろう。私にとっては最初で最後になるかもしれない。観に行くしかない。すぐにチケットを購入。

私が氏を知ったのがおそらく2023年2月22日(水)にドロップされた黒田卓也さんとの合同曲、『若我告訴你其實我愛的只是你-What If?』。たぶんSpotifyで先に黒田卓也さんをフォローしていた。黒田さんのニュー・リリースとして流れてきたこの曲で初めて9m88さんの歌声に触れた。それで9m88さんのアルバムを聴いたらめっちゃええなんってなった。そういう流れだったと思う。だから黒田卓也さん経由で知ったということになる。黒田卓也さんをフォローした経緯は定かではない。正直ちゃんと聴いたことがない。本当にちょっとしたきっかけで軽くフォローしたんだと思う。アマゾンで気になった本をとりあえずカートに入れるような感覚でさ。黒田卓也さんはトランペット奏者なんだけど、私はそこまでトランペットに興味がなくて、ジャズを聴くときはピアノありきなんだよね。

家を出て、表参道に向かう、せめてその間だけでも黒田さんの最新アルバムを聴こうと思ったんだけど、どうも気乗りしなくて。好きじゃないとかじゃなくて。気分的に。しっくり来ない。Arakezuriっていうインディー・ロック・バンド(BLUEGOATSさんの24時間ライブのチャンチーさんと三川さんのトーク・セッションで話題に挙がっていた)のプレイ・リストに切り替えた。青山のBALATON CAFEで時間調整。ホット・コーヒー。ブルーノート東京にあまり早く入っても開演前に飲み物のグラスを空にしてしまう。音を浴びつつちびちびやりたい。20時15分に入場。20時27分に届く紅菊水(梅酒)。ブルーノート東京とコットン・クラブはお酒をロックで頼むとチェイサーの水をつけてくれる。20時半開演。完璧なタイミング。

カウンター席という席種を初めて買ってみた。一番後ろの壁際。全体を見渡す位置。バスじゃもろ最高部な奴らが好みそうな席。悪くなかった。最大の利点は向かいに人がいないこと。ブルーノート東京の席は基本的に、誰かと一緒に観に来るのを前提につくられている。どの席を選んでも誰かと向かい合うか密接することになる。カウンター席だとその居心地の悪さがほとんどない。壁を背に座る。前に丸いテーブルがある。そのテーブルを二人でシェアする。(単騎で乗り込むかぎり)赤の他人と隣同士にはなるが、向き合うわけではないのでさほど気にならない。そして、見晴らしがいい。アリーナ席よりも一段上にある。ステージからは最も遠い席だが、視界が他のヘッズで遮られることはなかった。反面、前方席と比べるとどうしても臨場感、音の迫力は落ちる。周囲の雰囲気も落ち着いており、何となく声が出しづらい。コンサートを作り上げる当事者というよりは後方彼氏面的なスタンスに誘導される。軽い気持ちで観に来る分には最適な場所だとは思う。他の席と比べると値段が安いし。

バンドは5人編成。黒田卓也さん(トランペット)、Corey Kingさん(トロンボーン、ヴォーカル)、泉川貴広さん(ピアノ、キーボード)、Kyle Milesさん(ベース)、Zach Mullingsさん(ドラムス)。スペシャル・ゲストに9m88さん(ヴォーカル)。今の私では何がどう良かったかを具体的に語るのは難しい。というのが、先述したように私は黒田卓也さんの音楽を十分に(というかほとんど)聴いていない。それに加え、私はピアノがメインではないジャズのコンサートに来たことが一度もない。音源でも少ししか聴いたことがない。だが一つ言えるのは、来てよかったということ。今日のチケットを確保した後に会社のグループ・ディナーの誘いが入ったのだが、そんなものに行っている場合ではなかった。黒田さん曰く昨日のリハーサルを含めると15日連続でコンサートをやっているとのこと。毎日5時間ほどの移動を挟みながら。東京に来る前はアメリカの西海岸でツアーをやっていた。その興奮が醒めやらぬ感じが黒田さんの言葉から伝わってきた。ジョークのノリがアメリカっぽかった。今日も2万人の観衆が…いや、2万人は言い過ぎか(笑)とか、プレミア価格がついている過去作品のヴァイナル盤が物販で買えるから一人10枚買ってほしい、10年後に転売したら何かの足しに出来ますよとか。黒田氏は9m88さんと話すときなど、度々ステージ上で英語を話していたが、当然ながらこなれていた。いちいち日本語に訳さない。青山に吹く、心地よいアメリカの風。

何という曲かは分からないが、結構な長尺で(腕が限界になるくらい)私たちにさまざまなリズムで手拍子をさせる曲があって、それが楽しかった。単に曲に合わせて我々が手を叩くのではなく、我々の刻むリズムが曲に欠かせない構成要素になっていた。途中で男(と自分で思う人)と女(と自分で思う人)で叩くリズムを変えたりして。

私が9m88さんを知るきっかけになった『若我告訴你其實我愛的只是你-What If?』を生で堪能することが出来た。感激した。この曲を実際にステージで共演するのは今日が初めてだったらしい。(私が観たのは2nd setだったので正確には2回目。)9m88さんは本編に3曲、アンコール後に1曲と、たっぷり4曲に出演。彼女を目当てに来る価値が十分にあった。9m88さんを観ながらふと思ったのだが、日本で職業としてのいわゆるアイドルに従事している人々の中にも、やりようによっては9m88さんのような素晴らしいソロ・シンガーになれた人はいたんじゃないだろうか。だがそれは狭すぎる門というか、もはやそんな市場はないのだろう。お金の動くところにしか職はない。本日、黒田さんが披露した新曲の一つに、新幹線をテーマにしたものがあった。発車時刻まで時間があるからと余裕をぶっこいていたら車両が遠く、みんなで走ってギリギリで乗り込んだときのことを曲にしたという。JRに売り込むつもりです。お金のあるところからお金を取らないといけない。ジャズ界は厳しいですから、と冗談混じりに言っていた。

ブルーノート東京が和やかな雰囲気に包まれる中、ある観客が私の目に留まった。彼はまったく楽しそうではない。ステージを見るでもなく、どこか虚空を見つめている。拍手もしない。こわばって変わらない表情。見えない感情。コンサートにまったく入り込めていない。心ここにあらずを形にしたような存在。勝手な決めつけではあるが、私には彼がうつ状態にあるようにしか見えなかった。数年前の自分を思い出した。