2015年10月11日日曜日

Special Code (2015-10-10)

今日から三連休だが気分は晴れない。今週は平日の後味が悪かった。色んな事が重なって部署にかかる負荷が重く、所属員たちのストレス、疲労、不満が募っている。一人は休日出勤をしている。彼は残業と休日出勤が増えて、情緒不安定になっている。壁にぶち当たっている。彼のことを思うと無邪気に休みを満喫する気にもなれない。電話をかけて労いの言葉でもかけようかと思ったが、少し迷って、やめた。仕事で使っているbackpackには会社のiPhoneが入っている。嫌なメールが入っている可能性が高い。開くのはやめて、家を出た。

フリースタイルMCバトルで一世を風靡した元KICK THE CAN CREWのラッパーKREVAの地元、江戸川区。新小岩駅から15分ほど歩いたところにある江戸川区総合文化センター大ホールにJuice=Juiceさんのコンサートを観に行く。

11時から歯医者で検診を受けた。前回行ったのが1月っぽい。9ヶ月振りにも関わらず虫歯は一つも出来ていなかった。それまではいくら丁寧に磨いても虫歯がよく出来ていたのに、2012年に電動歯ブラシに切り替えてから一度も虫歯が出来ていない。(記憶にないだけで一度くらいは出来ているかもしれない。)池袋の楊で汁なし坦々麺と、カシスウーロンを頼んだ。憂鬱さを吹き飛ばす景気づけとしては酒の量が足りなかったが、何度食べても相変わらずパンチのある坦々麺の辛さに、カシスウーロンの甘さがよく合っていた。坦々麺はおまけで大盛りにしてくれた。行く途中の電車で気が付いたが今日は10月10日、つまりJuice=Juiceの日だ。こういう特別な意味のある日に現場に行けるのは喜ばしい。子供の頃に10月10日と言えばJOMO CUPの日だった。今ではサッカーの試合を観てもあの頃のように心が躍ることはない。今の私が心躍るのはハロプロとMCバトルだ。

13時開場、14時開演。13時過ぎに会場に着いた。公式homepageの地図が分かりやすかった。今日発売のDVD MAGAZINE VOL. 4(2600円)と、日替わり写真の宮崎さんと宮本さん(各500円)を買った。3,600円。13列の14番。通路を挟んで二列目だった。結構近かった。左の席に白髪の紳士が座っていた。席に着いて、MADE IN USAのMELOのbackpackからアルバムを取り出し、日替わり写真を折れ曲がらないよう慎重に収めた。左の席に目をやると老紳士はタブレットで2chを開いて「一人で行くJuice=Juiceライブツアー 『Juice=Juice LIVE MISSION 220』」というスレッドを見ていた。見てはいけないものを見たような気がした。開演した時点で私の右隣とその右も席が空いていた。今日の公演はチケットが売り切れて当日券も出ていない。数少ないホール公演なので夜公演も入りたかったが、娯楽道に出ているチケットは随分と高かったし、数日前に洗濯機が壊れて買い替えるという急な出費があったから購入は自重した。11月28日の℃-uteの追加公演に申し込むのも自重した。

「新宿スタイルはリアルな歌しか歌わねえ」(MSC, “新宿U.G.A Remix 03'”)

MC漢のスタイルは一貫している。彼はリアルにこだわる。それはラップの言葉通りに生きること。実生活でやっていることをラップすること。著書『ヒップホップ・ドリーム』で彼が挙げたフェイクの例としては、ビデオクリップで車を運転している場面があるのに実は免許を持っていない。銃社会ではない日本でCDのジャケットでモデルガンを構える。ビデオクリップで乗り回す高級車や着用するアクササリーが借り物。ただし無茶なことを言っても一週間以内に実行できればリアル。仲間がバトルで興奮して「今度お前を見かけたら刺すからな!」と口走ってしまった落とし前を付けるために実際に集団で相手を襲撃して刺した。『ヒップホップ・ドリーム』は一読をお勧めする。最近始まったTV番組『フリースタイルダンジョン』でも自身のラップ・スタイルについて「ファンタジーはない」「現実主義」と言っていた。尚、英語のfantasyは最後のsが濁らないのでカタカナにするならファンタスィーの方が近い(これは高校時代の英語教師も知らず、授業中に指摘したら教室がざわついた)のだが、便宜上ファンタジーと表記する。

私にとってハロプロの世界はまったく逆だ。新垣里沙はディズニーランドに通い「自分の仕事はこういうことなんだ」と気付いたとかつて言っていた(多分何かのラジオ番組だったかな)。ステージと客席という非日常の空間で、現実離れした輝きを放つ演者たちが、普段の生活では想像できないくらいの楽しさを味わわせてくれる。最近では個別握手会が高頻度で開催されている。ハロプロの所属員たちと直に言葉を交わすことや、自分のことを認知してもらうことに至上の喜びを覚える人も大勢いる。そういった喜びも理解はする。だが私にとってハロプロの人員はファンタジーの世界の住人であり、同じ人間として言葉を交わすのは恐れ多い。私にとっての現場とは誰かに会いに行くというよりは映画を観に行く感覚に近い。

今日のSpecial Juiceは、今までに観てきたJuice=Juiceのコンサートの中で最も強くファンタジーを感じられた。前日のブログで高木メンバーが予告していたように、ハロプロのコンサートで見ないような演出がふんだんに盛り込まれていた。導入部では「武道館に潜入せよ」というこのコンサートツアーのコンセプトであるmissionの出し手からのmessageが映し出された。Code 1の諸公演を駆け抜けたメンバーたちを労い、ご褒美に休暇を与えるという趣旨だった。それが今日のSpecial Code公演の設定らしい。仕事のご褒美に仕事とは、会社員から見ると冗談がきつい、それはともかく、のっけから豪華できらびやかな演出に驚いたし、すぐにコンサートの世界に入り込むことが出来た。音量さえまともに管理できない周南チキータのような会場とは隔世の感があった。

疾走感が強かった。一度走り始めたら最後まで立ち止まらない。一度作った流れを止めない。そういうコンサートだった。通常だと曲と曲の間に行う各メンバーの挨拶も今日は曲の間奏で簡潔に済ませていた。流れ(フロー)のよいコンサートだった。

『相合傘』は一人一人が傘を持って歌っていた。全員が自分の傘を持っていたら相合傘ではないよね、と思いながら見ていた。この曲の前には一度ステージが動いて彼女たちが下に降りて、また上がってくるという演出があった。別の曲では窓越しに彼女たちが踊っている影が見える場面もあった。中野サンプラザで観たときよりもずっと工夫が凝らされていて、面白かった。「お金かかってるな」という下衆な感想が頭に浮かんだが、具体的にどれくらいのお金がかかって、それが相場に比べて高いのかどうかが分からないトーシローがそんなことを考えても意味がない。我ながらしょうもないことを考えてしまった。

喋りのセグメントは、主にドラマ『武道館』の主演が決まったこと、台湾と香港でコンサートをやってきたことの報告だった。ドラマ内の架空アイドルのプロデューサーをつんく氏が勤めると知って、全員でキャーと喜んだ。この決定を受けて宮本佳林は『だから、生きる。』の感想を添えてつんく氏に連絡をした。普段やり取りをしていないので勇気が要った。「音楽は毎日触れていないと、生き物だからなついてくれないよ」という返事をもらった。海外に行ったときのエピソードとしては、宮崎由加曰く空港に着いた瞬間から歓声が凄く、大スターになったと勘違いするほどだった。入国審査時、“Hello? Hello?”と係員に声をかけられ、“Hello…”と言って通り抜けようとしたら(この“Hello…”と言うときのちょっと怯えた表情や声の可愛さとったらなかった)呼び止められ、耳の中に体温計を入れて体温を測られた。36.9℃だった。宮崎としては普段通りの体温。普段から平熱が高い。空港のサーモグラフィで明らかに色が浮いていたらしい。宮本は入国審査でカメラを見るときに間違った場所をずっと見ていて、そこじゃないと指摘された。アイドルだねと茶化す高木。

金澤朋子は喋りのセグメントはほとんど不在で、最後の「海外は楽しかったね」というメンバーのまとめに「楽しかったね」と駆け込みで合流するのみだった。どうも様子がおかしかった。以前から故障している右腕は上がっていたが腕の付け根に肌色のテープが巻いてあるのが場内モニターで分かったが、どうもそれだけではなさそうだった。踊りのステップや動きはすべて小さくなっていて、どこかを故障しているのは明らかだった。後にTwitterやJuice=Juiceのブログで知ったが、足を怪我していたらしい。ただ他のメンバーが金澤が動けない分を十二分に補っていた。特に宮本が相変わらず100%を超えるハツラツさを見せていた。『五月雨美女がさ乱れる』での腰の落とし方が一人だけ違う。慣れて来たことで流している感がまったくない。公演の度に、あたかもこれが最初であり、最後でもあるような新鮮さと気持ちのこもったperformanceを見せてくれる。

メンバーが舞台全体に広がったときに、一番下手がちょうど私がいた14番(左から14番目の席)と対面する位置だった。そこに宮崎由加さんが来ることが何度もあった。対面とは言っても13列分は離れている訳だが、それでも所謂ゼロずれを体感できたのは嬉しかった。Buono!の『恋愛サイダー』という意外な曲が披露された。最初の「ワン・ツー・スリー・フォー!」をちゃんと言えている客が多くて、訓練された奴らばかりだなと感心した(私もBuono!のツアー『R・E・A・L』で習得済みだったので言えた)。宮崎さんが「当たり前すぎるくらい友達の時間が長かったせいで」「時々甘えてみたり拗ねてみたりそんな作戦らしくない」といういい箇所の歌割を獲得していた。堂々たる歌いっぷりであった。ここぞとばかりにゆかにゃ!と私は叫んだ。

“Wonderful World”ではモニターに歌詞が映し出された。これは他の曲ではなかった。ということは、歌全体を一緒に歌って欲しいという意図だと思う。でも最後のラーララーは別にして、歌っている人はほとんどいなかった。私が思うに理由は二つある。第一に、来場者は歌うよりはメンバーの名前を叫びたい。第二に、大音量の音楽が流れる中、音程を取りながら歌うのは普通の人には難易度が高すぎる。

夜公演は入れなかったが、帰途の私は完全に満足していた。後味の悪い平日で頭を支配したnegativeな感情を、生きる喜びで上書きしてくれるコンチェルトであった。私にはリアルだけではなくファンタジーが必要なのだ。