2016年5月26日木曜日

チック・コリア&小曽根真 ピアノ・デュオ プレイズ・アコースティック(2016-05-19)

―ハロプロのコンサートばかりに足を運んでいる印象だったが

ちょっと待ってくれよ、それじゃまるで俺がアイドルオタクみたいじゃないか(苦笑)。それはとんだ誤解だね。たしかにここ1-2ヶ月はハロプロの現場が立て込んでいる。4月は8回、5月に至っては10回だ。でもそれは俺にとって普通じゃないからね。2015年に参加したハロプロの現場は29回だった。それ以前の年もそんなもので、平均して月に2回くらいだよ。直近の状況はクレイジーさ。2日連続で2公演ずつを観るなんて、今までに経験したことはなかった。でも今回ジャズ・ピアニスト二人によるコンサートのチケットが一枚あまったときに俺に声をかけてくれたということは、その友人がそういう音楽に理解がある人間として俺を認知しているということだからね。チケットは12,000円もするから、俺なら喜んで来るだろうという確信がないと誘えないよ。彼は大学生のときからの付き合いだから、君よりも俺のことを知っている。

―小曽根真と、チック・コリアのピアノ・デュオ

ステイジにはピアノが2台だけ置いてあって、演者は二人のピアニストだけ。ドラムも、ベースも、ギターも、ヴォーカルもなし。チック・コリアに関しては“Now He Sings,Now He Sobs”というアルバムを聴いて、気に入っていた。後は上原ひろみとのデュエット・アルバムも聴いたよ。小曽根真のことは知らなかった。でもチック・コリアと対等に共演するくらいの大物だし、実際に演奏を聴いてみて凄いのが分かったから、アルバムを聴いてみるよ。一枚聴くならどれだと友人に聞いてみたら“Wizzard of Ozone”とのことだった。

―六本木には普段も来るのか

いや、まず来ないね。俺が行くのはだいたい池袋で、たまに新宿、原宿、青山といったあたりに足を伸ばすくらいかな。駅を出た瞬間から雰囲気が違った。洗練されている感じというか、お金を持っている人が集まった町という感じがする。ストリート感がない。同じ東京でも池袋とはだいぶ違う。まあでも六本木は治安が悪いと聞くから、ちょっと路地裏に入ると違うんだろうね。19時の開演より前に友人と会うことが出来たので、彼の案内で「FISH」というカレー屋さんに入った。大辛チキンカリーライス1,100円を食った。フォーマットは日本のカレーライスなんだけど、カレーの味付けはだいぶインド風に寄せていた。カルダモンの香りが効いていた。FISHという店名なのに魚のカレーがなかった。魚という意味ではなく、それぞれのアルファベットが何かの単語の略だったんだけど、こじつけっぽかったし、何でFISHと名付けたのかはちょっと気になるね。

―サントリー・ホールも初めてか

そうだね。変わった造りだった。ステイジを取り囲むように客席があった。俺らの席はステイジの後ろ側の2階だった。キャパは2,000人らしくて、中野サンプラザと同じくらいなんだけど、こっちの方がステイジと客席が近かった。こういう構造のコンサートホールがもっとたくさんあると面白い。ハロプロのコンサートもこういうホールで観てみたい。チック・コリアもステイジに立って全体を見渡して、何て素晴らしいホールなんだと言っていた。

―出演者たちの登場の仕方が変わっていた

あれには意表を突かれた。客席の後ろ側から通路を通って歩いてきたんだよ。いわゆる降臨というやつだね。俺らから見るとステイジを挟んで向こう側だったから、よく見えた。観客とのハイタッチに応じながら上機嫌に笑顔を振りまいていた。

―どういう雰囲気だったのか

小曽根さんとコリアさんがお客さんを楽しませようとしているのがよく分かった。観客は楽しんでいたし、小曽根さんとコリアさんも楽しんでいた。リラックスした雰囲気だった。以前キース・ジャレットのコンサートを観に行ったときは客には咳払いも許されていなくて異常な緊張感があったんだけど、それとは対照的だった。書かれた曲を演奏していたのに途中から乗ってきて即興に切り替わる場面が何度かあったんだけど、その度に小曽根さんは楽譜をわざとらしく下に置いて、コリアさんはもっと大げさに投げ捨てるようにしていた。その度に笑いが起きた。一番おもしろかったのはコリアさんが弾いた音を観客にハミングさせるコール・アンド・レスポンスをやったときだった。客ははじめ手拍子を求められているのかと思ったけどコリアさんのジェスチャーから意図をすぐに理解しハミングに切り替えていた。

―20分の休憩があった

直前に飯を食って水を飲んだからか、休憩に入るまでは少し眠かった。休憩があったおかげで目が覚ますことが出来た。ジャケットを脱いで銀色のシャツで登場した小曽根さんは「よかったですね、まだ(観客が)残ってくれていて。楽屋で『あんなに好き放題に弾いてお客さん残ってくれるのかな』って心配していたんですよ」と言って和ませていた。小曽根さんの振る舞いや一つ一つの発言はサービス精神に溢れていたし紳士的だった。裏でスタッフに暴力をふるうとか、変態的な性的嗜好でも持つとかしないとご本人の精神的なバランスが取れないんじゃないかと思ったくらいだよ(笑)。

―ご友人はどういうことを言っていたのか

ただのリスナーに過ぎない俺と違って、彼はピアノが演奏できるし、絶対音感の持ち主だし、専門的な知識がある。彼はホールの音響を絶賛していた。コンサート全般にも感激していたし、ダブルアンコールの曲が『スペイン』だったのはだいぶ嬉しかったみたいだ。俺は一部を除き演奏された元の曲を知らないから書かれた部分と即興の境目が分からなかったんだけど、彼によると大まかには一緒に弾いているところは書かれているが個別に弾いている箇所は即興だとのことだった。21時20分頃に終演した。その後にくそフェイクな焼鳥屋で飲んだんだけど、いちばん印象に残っているのが絶対音感があると音楽をヘルツで説明できるという話。たとえば今日の演奏を聴いて、○○ヘルツの音と○○ヘルツの音が組み合わさっているから気持ちいいんだと言えるらしいんだ。俺だとせいぜい、この感じがチック・コリア節だなというのを感覚的にふわっと理解できる程度で、客観的に言葉で説明することは出来ない。音楽の知識と才能があったら数字で説明できてしまうのかと恐れ入った。