2016年6月3日金曜日

戦極MC BATTLE第14章×AsONE (2016-05-29)

「Ah 恵比寿駅 雨の日も恵比寿駅 Ah 昼休み 素敵な人いるかも」(後藤真希、『スクランブル』)

恵比寿駅という言葉を目にすると、後藤真希の『スクランブル』が私の脳内で再生される。より正確にはJuice=Juiceによるcover versionである。後藤真希のoriginal versionを私はまだ聴いたことがない。普段の生活で、恵比寿駅で下りることはない。つんくが書いた上記の詞をJuice=Juiceのコンサートや音源で聴いてAhのあとに「あ、あ」、「恵比寿駅」と「いるかも」の後にそれぞれ「エル・オー・ブイ・イー ラブリー佳林」「エル・オー・ブイ・イー ラブリー紗友希」と声を出す以上の関わりを、恵比寿駅と持ったことがない。

『スクランブル』の歌詞と私の状況はまったく合致していない。雨が降っているどころか快晴だし、昼休みではなく日曜日の14時半すぎだし、素敵な人はいない。いや、素敵な人はいたかもしれない。LIQUID ROOM(日本語に訳すと液体部屋)に向かっていると前にはなびと掌幻が歩いていた。二人ともTV番組『フリースタイルダンジョン』に出演したラッパーである。彼らは本日LIQUID ROOM(日本語に訳すと液体部屋)で行われる戦極MC BATTLE第14章×AsONEの出場者の一組だ。そう、今回は一組対一組であって、一人対一人ではない。AsONEというタッグ・チームのMCバトルとの共同開催。いつもの戦極とは一味違う。私が戦極を観に来るのはこれで10章、12章、13章に続き4回目だが、タッグ・チーム制のMCバトルを現場で観るのは初めてである。

10章と12章は競馬ファンの友人二人と来ていたのだが。13章は有馬記念という大きなレースと開催日が重なった。彼らは競馬を取り、MCバトルには来なかった。今日の14章も日本ダービーという大きなレースとまったく同じ日に行われたため、またしても一人で行くこととなった。13章のときは誰か忘れたが(DVDを観れば分かる)「大阪から出馬しました」と言ったMCがいてその相手が「出馬って馬? それに鹿を付けておまえは馬鹿」と切り返したり、「有馬記念よりも熱い試合をするぜ!」的なことを誰かが言って晋平太が「(客に向かって)おいこの中に競馬に興味あるやつどんだけいるんだよ?(相手に向き直して)ほとんどいねえじゃねえかよ」と返したりと、競馬への言及が何度かあった。今日も日本ダービーとかけてラッパ我リヤの『ライムダービー feat. ZEEBRA』から引用するMCがいたら嬉しいなと思っていたが、大会を通じてその曲の引用どころか競馬への言及が皆無だった。

チケットが発売されて早いうちに買ったため120番台という割といい番号だった。私がLIQUID ROOM(日本語に訳すと液体部屋)に入った頃には開場から15分くらいたっていて、600何十番かまで呼び出されていた。でもそれでよかった。このラップ悪口大会はいつものように長丁場だ。開場が14時半で、終わるのが21時頃だ。あんまりがっついて前方に行っても、最初から最後までクスリなしで盛り上がり続けるのは難しい。足腰がついていかない。はじめは程々に後ろの方から様子を伺い、大会が進んでいくにつれ観客が動いていったら、あわよくば少し前に入り込もうと思っていた。右のスピーカー近くの段差があるところが空いていたのでそこから観ることにした。段差があった上に前の人が女性で私より背が低かったので、ステイジ上がよく見えた。観客から見て左側(先攻側)の出場者たちの表情がよく見えた。右側の出場者たちは斜め後ろから見る格好だったので常には顔が見えなかった。

一対一のMCバトルでラッパーたちが見るのは相手と観客だが、タッグ・チームだった今回はチームメイトとのeye contactが多かった。相手の攻撃を受けている最中に、次は俺が行くとか、お前に任せたという感じで、自分たちのターンになったときに誰から始めるかを視線とgestureのやり取りで決めていた。勝ち進んでいくチームはそこの連携がうまく取れていた。あとはターン毎の8小節をどう分割するか。2人だったら4小節ごとに分けたり、2小節ごとに細かく区切ったり、あるいは試合展開によっては一人で8小節をほぼ独占してしまったりと、臨機応変に使い分けられるかどうかにもチーム完成度の差が出ていた。強いチームは細かく打ち合わせをしなくてもあうんの呼吸で意志疎通が取れているように見えた。

そういう繊細な連携が勝負の分かれ目になる上に一つのターンが8小節しかない以上、人数が多ければ多いほど不利だと思った。2人の場合、連携がA-Bの一つだけで済むが、3人だとA-B、A-C、B-Cと3倍になる。4人だとA-B、A-C、A-D、B-C、B-D、C-Dと6倍になる。それだけ意志の疎通が難しくなる。しかも8小節を3人や4人で均等に分割すると、割り振りを当意即妙に決めるのは難しく、結局ターン毎に一人か二人が主にラップする形になりやすい。そうすると、大勢で来ているのに結局ラップをしているのは誰々だけというディスのネタを相手に与えることになる。仮に小節を均等に分けた場合、一人あたりの尺が短すぎて大した内容をスピット出来ない。多人数チームの利点が何かあるとすれば、それは威圧感を出しやすいところだ。二回戦でDOTAMA×NAIKA MC【今日の2MC】と当たった玉露×KIT×FORK×TSUBOI【ICEBAHN】の4人組がまさにそうだった。ガンガンにガンを飛ばして人数の少ない相手チームに詰め寄っていく。結局「TSUBOIさん あんたのラップ、クソ以下」というDOTAMAによる締めの一言で撃沈したのだが、試合後には「戦極を始めてから初めて恐かった」と司会のMC正社員が言っていた。先述した【ICEBAHN】の他にはhidaddy×CIMA×Willy Wonka【TEAM一二三屋】を除けばすべてのチームが二人組だった。16小節の3-4本勝負にでもしない限り、3人以上は不利だろう。

私の心に残ったパンチラインを中心に、いくつかの試合を振り返る:

CHARLES×あっこゴリラ【ビューティーペア】対はなび×掌幻【チーム墨田】
あっこゴリラが「夏の星座にぶら下がって 上から花火を見下ろして」とまさかのaikoを引用してからの「うわきたねえ花火だ」とはなびをディスる大技を見せた。

ハハノシキュウ×MIRI【8849mm】対DOTAMA×NAIKA MC【今日の2MC】
笑いのある和気藹々とした試合ながらもDOTAMAが「場末の風俗嬢みたいな髪型でぺちゃくちゃしゃべってるだけじゃねえか」と言ったときにはMIRIの顔がこわばったように見えた。MIRIは制服ミニスカートで登場。可愛さと思い切りのよいラップでバトルのヘッズを味方に付けている雰囲気だったがフローと内容が一本調子だった。

はなび×掌幻【チーム墨田】対ふぁんく×MC松島【ジャッキー・チェン】
東京の下町出身の相手二人に対してふぁんくが放った「さすが下町っ子 でも俺の方が舌が回るちんこ」は、ギャグラップじゃねえかよという程度の反撃では潰せないほどにインパクトが大きかった。負けた後に「これから彼らの応援団長になります」と相手チームに敬意を表したはなびの男気。
【ジャッキー・チェン】はふぁんくの確固たるスキルとMC松島のトリックスター的な部分がうまく調和し、優れたチームワークを見せていた。

MAKA×SAM【栃木2000万パワーズ】対KIKUMARU×B.S.C【KANDYTOWN】
【栃木2000万パワーズ】のフローは凄まじかった。Lick-G×スナフキン【めもんちゅが】と並び、本大会で最もビートを乗りこなしていたチームである。フロー巧者に対して内容に欠ける、聞き取れないという返しは定石ではあるが【KANDYTOWN】の片方がお前の言っていることが「聞こえない」だから中身を「拾えない」と韻を踏んで返したのは上手だと思った。

呂布カルマ×K.Lee【ザ*どストライクス】対ACE×Luiz【B.T.W】
試合の前にあったACEによるlive performanceを受けて「ヒップホップが聴きたかったのにDragon Ashかと思った」と刺す呂布カルマ。

GOLBY×UZIthe9mm【韻Fighterz】対Lick-G×スナフキン【めもんちゅが】
昔ながらの韻にこだわる【韻Fighterz】と変幻自在なフローで攻める【めもんちゅが】という分かりやすいスタイル合戦だった。Lick-GとUZIthe9mmのやり合いが見所だった。Lick-GがUZIthe9mmの韻を読んでマイクでかぶせるという反則技で韻の陳腐さを挑発したのが面白かった。Lick-GはフローだけでなくUZIthe9mmへの「こいつやめどき オレ勝利の女神ハメ撮り」という見事な韻も見せた。UZIthe9mmは【ジャッキー・チェン】との試合でもMC松島に韻を読まれていた。(MC松島はマイクには乗せなかったが)もっさりしたフローから放たれる予想しやすい韻を馬鹿にするというのが彼への攻撃パターンになりつつあるようだ。

T-PABLOW×ニガリ【バズーカ】対サイプレス上野×MCサーモン【後ろ指刺され組】
この試合だったか100%確信はないんだけど、T-PABLOWの「極上の韻を」からの「男なら立てる目標とちんこ」は声を上げられずにはいられない名フレーズ。

DOTAMA×NAIKA MC【今日の2MC】対玉露×KIT×FORK×TSUBOI【ICEBAHN】
威圧感と集団感を前面に出してくる【ICEBAHN】に対して、おじさん四人組、俺らは個人主義と踏み、お前らは韻もろくに踏めないと言ってきたら四人組と個人主義でさっき踏んだじゃないかと返し、最後に「TSUBOIさん あんたのラップくそ以下」と締めたDOTAMA。

MC正社員をはじめとして主催側が凄いなと、いつも感心しているのだが、戦極は回を重ねる毎に進行が改善されていく。14章はほぼ予定通りの時間に終了した。バトルの後のlive performanceの最後まで観させてもらった。しかし、そもそもの公演時間が長すぎる。ずっと立ちっぱなしな上に人が密集して身動きもとりづらいから、疲れる、疲れる。そんな状態で餓鬼レンジャーがTENGAに関する歌を歌い始めたときは曲の途中で帰ろうかと思った。餓鬼レンジャーをディスっているわけじゃないですよ。疲れすぎてそういうユーモアを受け止める心の余裕がなくなっていたということです。