2016年11月7日月曜日

ネガポジポジ (2016-11-06)

開演前に繰り返し流れる、ネガネガを連呼するギャングスタ・ラップのような主題歌に気を取られて本が読めませんでした。隣の会場でハロプロとは関係ない別の舞台が開催されていました。そちらの入場列とおぼしき人たちの中に、小学生の体操着のような、ホットパンツと言って差し支えのない履き物をお召しになった白髪交じりの50がらみの紳士がいました。上はアウトドア・ブランド(たしかTHE NORTH FACE)のシェルでした。ちょっとやばいな、『ネガポジポジ』の列じゃなくてよかったと思いました。しかし安心も束の間、それは『ネガポジポジ』の列でした。前回(3日)に来たときと違う場合に列があったんです。そこに並んで、14時半の開場直後に池袋BIG TREE THEATERに入りました。客席に入るのは私が二人目でした。15時の開演まで時間に余裕があったので本を読もうとしたのですが、けっこう大きな音でネガネガ言うもんだからヒヤヒヤして、内容に集中できなかったんです。私はヒップホップを聴いているだけではなくアメリカの人種差別の歴史も多少かじっているので、どうしても気になってしまいます。以前、職場に中国語の堪能な同僚がいて(数年前にクビになって退職済みです)電話で「ネッガー…」とよく言っていたのですが中国語で「えっとー」みたいな意味らしいですね。飲食店でその「ネッガー」を言っていた中国人が、その言葉を自分に向けられた挑発と勘違いした黒人に殴りかかられる事件があったというのをインターネットで読んだことがあります。Juice=Juiceの新曲『明日やろうはバカやろう』に「これだけたくさんの人がいるぜニッポン きれいだけじゃなくてブラックでもあるけど」という歌詞があります。ブラック企業のブラックを指していると思うんですけど、歌詞の中にちょっと時代性と毒のある言葉を放り込むのが福田花音さんならではだなと感心しました。ブラック企業という言葉は、日本社会での使用に限定すれば人種差別を想起させるものではありませんから、見直す必要はないとは思います。ただ、ブラックという単語を悪いもの全般に使うような発想は考えものなんですよね(福田さんがそうだと言っている訳ではないです)。何かの映画で黒人が白人に対して「あなたたちはblackという言葉をいつも悪い意味で使う。Black history, black market…」と訴えかける場面があったのを覚えています。たしか『マルコムX』だったかな。“The Autobiography of Malcolm X”にもマルコムが辞書でblackを引いたところ否定的なことばかりが書いてあってショックを受けるくだりがあったような気がします。Nワードそのものはもちろんのこと、それを連想させる単語、ブラックという言葉も取り扱いには気を付けないといけません。

今日の公演はチームC。『ネガポジポジ』にはチームA、B、Cという3通りの出演者がいるのですが、チームCには唯一オノミズミズ(小野瑞歩さんのことです)がいないんです。
キャスト:浅倉樹々、小片リサ、一岡玲奈、小野琴己、西田汐里
アンサンブル:川村文乃、横山玲奈、山岸理子、加賀楓、堀江葵月、清野桃々姫、吉田真理恵
正直、三日前に初めてこのミュージカルを観させてもらったときは、劇そのものに対しては少し戸惑う中、オノミズミズ(小野瑞歩さんのことです)を目で追うことで乗り切った感がありました。だからオノミズミズ(小野瑞歩さんのことです)不在のチームCの公演にどう臨めばよいのかが、少し不安でした。その一方で、楽しみでもありました。まず、同じ内容のミュージカルを違う出演者たちが演じるのを観るのが初めてだったので、どういうものかとワクワクしました。あと個人でいうと、このチームには、小片リサさんがいるのです。オノミズミズ(小野瑞歩さんのことです)が加入されるまでは、もしつばきファクトリーで私が誰かを推すのであれば小片リサさんだろうなと思っていました。ハロコン現場やつばきファクトリーのDVDマガジンでの印象が元です。ステージでのパフォーマンスからは何と言いますか、芯を感じます。あとこれは完全に私の偏見なんですけど、小片リサさんって女の意地悪さというか、性格の悪さがちょっとにじみ出ている感じがするんです。いや、いい意味で、ですよ。いい意味で。例えば、つばきファクトリーに新メンバー3人が加入することが告げられたときに悔しそうな顔で涙を流している場面とか、つばきファクトリーのDVDマガジンVOL. 2でチームに分かれて激辛カレーライスの早食い対決をしたとき、「(ルーを避けて)ご飯ばっかり食べてるの、本当に誰?」と仲間に怒ってちょっとチーム内の空気を険悪にした場面とか、そういうところから感じました。

意地悪さ、性格の悪さというのが正しい表現なのか、分かりません。でもつばきファクトリーの他メンバーに比べて、しっかり自分を持っている気がするんです。今日、『ネガポジポジ』の主演として舞台で躍動する小片リサさんをじっくり追わせてもらって、彼女が持つ内面、人間性が、演技に生きていると思いました。もちろん、私が小片さんのことを贔屓目に見ているというのはあったと思いますが、それを差し引いても、彼女の演技には観客の注目を引き込む力がありました。そして特筆すべきは、彼女には観客と無言の対話をする力がありました。どういうことかというと、台詞をほんのちょっとだけ変えてみるとか、台本上では2回言うところを3回言ってみるとか(回数はたとえばの話です)、ふとしたタイミングで台本にはない台詞を相手に投げてみるとか、そういう類の工夫を、その場の判断でこなしているように見えました。私はこのチームの公演は1回しか観ていませんし、元の台本を読んだ訳ではないので具体例は挙げられません。あくまでそういう感じに見えた、というぼんやりした話です。的外れの可能性もあります。ただ、どうもそういう感じに見えたのです。そういう一つ一つの判断が的確で間がよく、何度も笑いを取っていました。笑いが起きるということは、その瞬間の観客のツボを突いているということです。ミュージカルでめっちゃポテンシャルを発揮してはると思いました。で、小野瑞歩さんのことをオノミズミズと言ったから今度はオガリサリサと来るのかと思うかもしれませんが、そういう訳にはいきません。語呂がよくない。MC松島さんのラップを毎日のように聴くことで研ぎ澄まされた私の言語感覚では、オガリサリサは、なしです。

2回目の『ネガポジポジ』は、初回に比べて段違いに物語が理解できました。この情報量は一度では到底つかみきれない。ちゃんと楽しむには事前予習が必要だと痛感しました。かといって予習の資料は存在しないので、何度か会場に足を運んで鑑賞する他ありません。1回観ただけでは少し私の中に困惑が残っていましたが、2回観た後では、観れば観るほど面白いミュージカルだなと思いました。みんな違ってみんないいとはいえ、同じ役同士の演者はどうしても比較しながら観てしまいます。一つの公演にはキャストとアンサンブルという二本立てがあって、公演全体にはA、B、Cというチームの三本立てがある。そうやって何重にも楽しめる仕掛けがある。一回観ただけでは観たことにならないと思いますし、何度も観る価値があると思います。あと2回観るのが本当に楽しみになってきました。とんでもなく凄いミュージカルなのかもしれません、『ネガポジポジ』。