2017年5月2日火曜日

NEXT ONE SPECIAL (2017-04-29)

動くアンオフィ写真だ。現場近くのストリートでよく謎の紳士が販売している8枚で1,000円の写真。アップフロントによる公式な商品ではなく、得体の知れない業者が販売する非公式(unofficial)な商品であることからアンオフィ写真と呼ばれている。サイズはL判。コンサート中のHello! Project構成員の誰か一人の全身が映っている。その写真に命が吹き込まれ、目の前で動いている。そういう感覚だった。また良席を引き当てたのかよ? いや、違う。三郷市文化会館の1Fは20列まであって、私の席は13列だった。こじんまりした会場だったから13列でも十分に近かったけど、特別にいい席だったわけではない。双眼鏡のおかげだ。2015年10月に購入したVixenのアトレックライトBR6x30WP。THUNDERPLUGSの耳栓と並んで手放せない現場の相棒。Tシャツとペンライトを忘れても双眼鏡と耳栓を忘れてはいけない。それくらいに重要。双眼鏡は悪い席を普通の席に、平凡な席を良席に変えてくれる。もちろん物理的な近さによる生々しさは実際に前方にいないと味わえないが、視覚的な満足度は完全に良席並だった。当然ながら私は宮崎由加さんを中心に追いかけた。彼女の魅力を再確認、再発見した。曲によって、曲の中でも歌詞によって、次々に移り変わる表情。ご自身が歌っていないときでも歌詞に合わせて口を動かす仕草。歌のないところでリズムを取るためにパッパッという感じで口でリズムを取る仕草。手足が長くすらっとしたスタイルで踊るときの何とも言えない優美さ。『地団駄ダンス』の「楽しくなりたいの」「笑い飛ばしたいの」の箇所でまっすぐな姿勢のまま身体を傾けるときのしなやかさ。Juice=Juiceは全員が素晴らしいのに、大半の時間は一人だけを観てしまうほどに私を釘付けにする宮崎さん。イルネスの権化。

これがJuice=Juice。これがHello! Projectのハイ・クオリティなコンサート。空間を作り上げる当事者の一人として、そう胸を張れる公演だった。NEXT ONE SPECIALと題されたツアーの、今日が初演であった。「初回ならではのぎこちなさ、粗さがあるかもしれないが、そのぶん新鮮さもあるだろう」。このコンサートに招待した友人に、私は開演前にそう言っていた。どうやら私はJuice=Juiceのことを見くびっていたようだ。新鮮さはあったけど、ぎこちなさも粗さもなかった。強いて言えば、『銀色のテレパシー』で宮崎さんが衣装に引っかかってつまずきそうになった場面があった。公演中に宮崎さんが語ったところによるとご本人も焦ったが、気合いの表れだったという。もう一つ挙げるなら、一曲目の『地団駄ダンス』が馴染んでいない。我々が乗り方をつかみきれていない。この曲で上がりたいという意志は充満していたが、やり方が分かっておらず、探り探りだ。4月1日の福岡Drum Be-1では問題なく盛り上がっているように感じたが、あの会場は収容人数が300-400人(ウェブ検索調べ)。三郷市文化会館は1,292席。まだこの大きさの箱でも問答無用で会場がロックするほどのオートマティズムは出来上がっていない。一曲目というのがさらに難しい。もう少し会場が暖まってからのタイミングで投入してもいいのではないかと感じた。でも、セットリストを組んだ側は難しさを承知の上であえて挑戦しているのだろう。10月のびわ湖ホールと川口総合文化センターでのコンサートでは一曲目が『明日やろうはバカやろう』だった。定番曲ではなくその時点のJuice=Juiceの最新曲をはじめに持ってくることで、コンサートのトーンを作るという意図を感じる。私は大学生の頃、佐藤雅彦さんというコピー・ライターの授業を受けたことがある。彼が言っていたのが、作品の冒頭で世界観を提示して受け手を引き込むのが大切だということだ。その世界観のことを彼は「トーン」と呼んでいた。一青窈さんがテレビのインタビューで「このコンサートのトーンは…」と言っていて、おそらく佐藤雅彦の授業を受けて影響されているなと思ったのを覚えている。『地団駄ダンス』は中盤以降に持ってきた方が無難に盛り上がったかもしれないが、現時点でのJuice=Juiceはこれなんだという世界観の提示という意味では、一曲目に選んだのは正しい。

宮崎由加さんが美しかったという以外では、セットリストが極上だった。『地団駄ダンス』、『Feel! 感じるよ』、『銀色のテレパシー』といった新曲、『Goal~明日はあっちだよ』、『KEEP ON 上昇志向!!』といった準新曲、『愛・愛・傘』、『ロマンスの途中』、『選ばれし私達』、“Girls be Ambitious”、“Magic of Love”、『生まれたてのBaby Love』、『愛のダイビング』といった定番曲がいい具合に配合されていて、これまでのJuice=Juiceの集大成だった。過去と現在が無理なく一つの線でつながっている。曲が進んでいくごとに、そう来るかと納得し思わず顔がほころんだ。もちろん、重要な曲がすべてセットリストに入ったわけではない。たとえば『続いていくSTORY』や“Wonderful World”という武道館で数千人単位に涙を流させた曲は披露されなかった。それでもこれだけ重厚なセットリストが組めるほどにJuice=Juiceが楽曲の質と数に恵まれてきたということだ。喜ばしい。私がいちばん胸を打たれたのは『愛のダイビング』。何て言えばいいんだろうこの曲の独特のグルーヴをJuice=Juiceの皆さんが完璧に表現しきっていて、爽快すぎて、格好良すぎた。この日は天気が最高で、気温が最高で、一年でこれ以上ないだろうというくらいに外が気持ちよかった。会場のすぐ向かいにある公園のベンチで、入場前に私は本を読んでいた。途中で居眠りをした。今日の『愛のダイビング』は、そのときに私が感じたのと同じ気持ちよさと浮遊感を与えてくれた。Juice=Juice名物の筆頭と言える高木紗友希さんのフェイクをいちばん分かりやすく堪能できる『生まれたてのBaby Love』と“Magic of Love”が共にセットリストに入っているのもポイントだった。今日の彼女のフェイクは相変わらず容赦がなくて、感動したという表現が相応しかった。私はもう声を出して笑ってしまった。

Juice=Juiceのホール・コンサートでは恒例となっているメンバーの客席への降臨が今回もあった。私の席は左寄りだった。宮崎さんと高木さんが近くのお立ち台にお越しになった。思っていたよりも観客が近くて踊るとぶつかっちゃうんじゃないかと心配だったと宮崎さんが言っていた。お立ち台の上で衣装を脱いで、そこからステージに戻ってダンスだけのセグメントが始まったのだが、衣装の生脱ぎがやけにセクシーだった。下に別の衣装を着ているとはいえ、あんなに近くで衣装を脱ぐのを見させてもらうことはないので、びっくりした。いいものを見させてもらった。衣装を脱ぐときに私の位置から見えるお立ち台にいたのは高木さんだった。高木さんであそこまでセクシーに見えたので、他のメンバーだったらもっとセクシーに見えただろう。降臨があったのは想定内だったが、その場で衣装を脱ぐのは驚きの要素だった。降臨→生脱ぎ→ダンスの流れで私は完全に心をつかまれた。衣装といえば、最後のしゃべりで植村あかりさんがこのツアーの見所の一つとして衣装を挙げていた。たしかにどれも眼福だった。おへそを出しているのは一つもなかったけどね。

埼玉は金澤朋子さんの地元である。おそらくアンコールは「朋子!朋子!」になるだろうと私は予想していて、実際にそうなったのだが、ご本人には予想外だったらしい。最後のしゃべりで、「私の地元とは言っても今日はツアーの初回だし、アンコールは(普段の)『ジュース! もう一杯!』だと思っていた。明日は朋子コールが起きるように頑張りますと言うつもりだった。朋子コールが起きてびっくりした。人は予想と違うことが起きると感動すると言われているが、今日は私が感動させられた」というようなことを言っていた。今日の観客は熱く、ダブル・アンコールまで起きた。すぐに封殺されたが。“Magic of Love”で「どこにいるの」という金澤さんのパートの後に「ここだよ朋子!」と叫べたのはよい思い出である。そのチャントを待ちかまえる金澤さんのおどけた表情。

終演後に私が確信したのは、Juice=Juiceのコンサート中に北朝鮮から発射されたミサイルが落ちて死ぬのであれば、私は本望であるということだ。もちろんJuice=JuiceやHello! Projectの関係者には無事でいてほしい。本当にミサイルが落ちてきたらJuice=JuiceもHello! Projectも存続が難しくなるだろう。そんな状況が訪れるのはご勘弁願いたい。だからあくまで一つのたとえ話だが、私にとってはミサイルから逃げることよりもJuice=Juiceのコンサートに向かうことの方が重要だし、ミサイルを恐れる気持ちよりもJuice=JuiceとHello! Projectの現場を楽しみにする気持ちの方が強いのである。今日のJuice=Juiceを観て、彼女たちを観るために自分が新潟、山口、名古屋、滋賀、福岡まで遠征するのは理にかなっていると客観的に納得した。