2019年7月24日水曜日

ワタシノアカシ (2019-06-30)

オタクさんには自分の好きなものを外の世界の人々から肯定されたい、趣味を認められたいという願望がある。違う畑の人が少しでも褒めると過剰に反応する。外部からの称賛に飢えている。Charles Taylorが“The Politics of Recognition”で述べたように、個人や集団のアイデンティティや自尊心は、他者からどう認識されるかによって部分的に形成される。オタクさんのように構造的に虐げられがちな少数派集団には承認の有無とその内容が特に重要になってくる。オタクさんがやたらと自分の好きな作品や人物を広めたがるのは、それらのよさを他人に理解してもらうことを通じて、自分を肯定したいからではないか。それがすべてではないにしても、大いに関係しているだろう。私もかつてはその気持ちが強かった。Hello! Projectのファンではない友人たちを、何度かコンサートに連れて行ったことがある。モーニング娘。、Buono!、℃-ute、Juice-Juice。メンバーさんの歌唱力、体力、可愛さ、コンサートの楽しさといったHello! Projectの凄さを、初見の人に理解してもらえるのが心地よかった。Hello! Projectを褒めてもらうことで、それを応援している自分も褒めてもらった気になっていたのだろう。

今でもそういう気持ちや願望がないわけではない(人間の根源的な欲求がそう簡単に消え去るわけがない)が、前よりも弱くなった気はする。私は何がリアルで何がフェイクか、何がドープで何がワックかを見抜く眼に自信がある。他者からの評価で自分の好きなものの魅力が変わることはない。これを知らない人は人生を損している! もっと多くの人に知られるべき! なんて主張する気はさらさらない。知らないんだったら無理に知らなくていいよ、というのが今のスタンスだ。その人の感性と関心範囲に合えば勝手に興味を持つのであって、無理強いするものではない。もちろん、理解者が増えるに越したことはない。その興行と産業に落ちるお金が増えることで、活動を継続できる可能性が高まるからだ。それに、同じ対象について意見を交わせる話し相手がいた方が、一人で観て終わるよりは楽しい。ただ、ファンは増えれば増えるほどいいというものでもない。私は、好きな音楽家、アイドルさん、フットボール・ティームには長続きはしてほしいし報われてほしいが、過剰に流行らなくていいと思っている。チケットが取りづらくなるし、大きな会場ばかりでやるようになったら近くで観ることが出来なくなるからだ。

今でも何かの現場に誰かを誘うことはあるが、単に布教したいというよりは(それも多少はある)、その相手と会う機会を作りたいというのが理由として大きい。歳を重ねるにつれ、誰かと無意味につるむとか、無意味に会うということがほとんどなくなってきた。結婚する奴、子供が出来る奴がちらほら出てきたのが最大の理由だ。あとはインターネット(Twitter)で日頃から他人の動向を把握しつながりを感じられているのも理由かもしれない。私には大学時代、よく四人でつるむ友人がいた。就職してからもはじめの頃は年に数回は集まっていたような気がする。一人は二、三年前に我々からの忘年会の誘いを拒絶しLINEグループを一方的に脱退し音信不通になった(幾度かココに書いているが、私が最後に彼を見たのが2014年11月にJuice=Juiceのコンサートを一緒に観た後に新潟駅の新幹線プラットフォームで別れたときである)。残りの三人は今でもかろうじて忘年会で集結する。一人はYahoo!コンシェルジェ(サービス終了済み)経由で結婚したので、独身者のように好きに行動することは出来なくなった。

残された二人(結婚、子育てといった人生のステージに進まず、いつまでも学生生活の延長で人生を送っている)で、田村芽実さんのコンサートを観に行った。彼は田村さんにやや興味がありそうな気配があったので誘ったら受けてくれた。14時頃、渋谷のヒカリエ前で彼と合流した。会場の渋谷WWW Xまで歩いて場所を確認する。15時半、PRONTOで歓談してから外に出ると強い雨が降っていた。外を歩きたくない雨量だったので行動が制限され、時間を持て余した。サテンをハシゴするのもアレなので西武百貨店と同じ建物にある書店内をひたすらぶらぶらした。ネットワーク・ビジネスの雑誌が目に留まる。パラパラめくる。営業リーダーの成功談。16時10分に書店を出て会場に向かう。今日は17時開場、18時開演。会場前に貼り出されていた案内によると16時40分から番号の塊ごとに入場するのだという。タピる? と友人が提案してくる。こういう機会でもないと飲むことはないからやや気持ちが傾いたが、やめておいた。糖質の塊なのでなるべく摂取したくない。それに、どうせ行くなら有名店に行きたい。その辺の適当なタピオカには手を出したくない。これだけ店が乱立すればフェイクもたくさんあるはずだ。それを味わってタピオカ・ブームを知った気になりたくない。タピるかわりに会場すぐ近くのデイリー・ヤマザキで宝焼酎のやわらかお茶割り 335ml缶を飲む。いっさい効かない。水だよこんなの。

CONCERT STAFF ONE TO ONEの入場誘導が不親切すぎてイラつかされた。番号の塊ごと(A001-A250、A251-、B001-B150、B151-という四段階)に呼んで階段を上らせるのはいいんだけど、この時点で番号順に並ぶのか、それとも上に着いてから細かく番号を呼び出すのか、説明がない。列の中には前者の認識の人と後者の認識の人が混在していて、でも誰も正解が分からず、混乱していた。大手の業者なのにノウハウの蓄積が感じられない。雨が降っていたのもあって、ストレス指数は高めだった。(ちなみにONE TO ONEには知人が昔アルバイトをしていたことがあるが、リーダーから暴力を振るわれることが日常茶飯事だったらしい。)イカンイカン、せっかく田村芽実さんのコンサートを楽しむために来たのに余計なことで気分を害しちゃダメだ。と思ったが、心配は要らなかった。フロアで待機中のコンサートへの期待感、そして何より開演してからの田村芽実さんとバンドが奏でる音楽に引き込まれて、ネガティヴな感情はキレイさっぱり消え去った。

eplus先行で(この公演はファンクラブ先行も兼ねたeplus先行受付だった)私が獲得した整理番号は、A184とA185。そんなに期待はしていなかったが、思ったよりはいい位置につくことが出来た。左寄りの、7列目くらいだったかな、たしか。

キーボード担当者件バンドマスターの淑女に近い位置だったので、三曲目の『1, 2, 3, Go!!』のイントロで歌唱(チュチュ、チュールルーチュー)と演奏のタイミングが微妙にずれたときに田村さんがちょっとバンド・マスター(キーボード担当者)を睨んだ(睨んだつもりはないだろうが、はっきりとバンド・マスターに顔を向けておいあんた間違ってるぞ的なヴァイブスを出していた)のがよく分かった。曲を止めてやり直すのではないかと私は思ったが、持ち直して事なきを得ていた。

オリジナル曲とカヴァー曲から成るセットリストだった。カヴァー曲はYouTubeで公開している曲を多くやっていたので、それらが披露される度、進研ゼミでやったやつだと私は思った。Hello! Project時代の曲はやらなかった。

『エイリアンズ』(キリンジ)という曲が印象に残った。田村さんの歌い方がすごくブルージーでジャジーで。雰囲気が出ていた。

トークの前に水を飲んでハーって息を吐きだすのをマイクに乗せる田村さん。

新曲発売の発表。そして初披露。私の大好きな人に作ってもらった、誰だと思いますかという田村さん。まろ、と観客。まろは…好きじゃないかなと田村さん。(正直なところ、福田花音さんではなくて私はホッとした。作詞家としての福田さんの才能に懐疑的なので。)沸く観客。フーフーじゃないよ、大好きだよと強調してから、吉澤嘉代子さんであることを明かす。主にTRUMPシリーズのミュージカルDVDを観ていただいた上で、田村さん用に曲を書き下ろしていただいたという。吉澤さんの歌の世界の住人になれるのが嬉しいということを田村さんは言っていた。(私は吉澤嘉代子さんのことを存じ上げなかったが、そこまで言われると気になるので、後日Spotifyにあったアルバム『女優姉妹』をダウンロードして聴いた。)

新曲は8月21日(水)発売。後で詳細を見たら、初回限定盤Bに今日のコンサートの模様が収録されるらしい。コレはマスト・チェック。

中島みゆきさんの『化粧』という歌。ドロドロした歌詞だったが、まったく無理なく、自分の曲であるかのように入り込んで歌っていた田村さん。二十歳とは思えない。三十歳を超えているくらいの円熟味がある。おそらく田村さんは三十歳や四十歳になっても今と大きくスタイルを変えず、同じようにステージに立って歌っていることだろう。彼女は若いけど、若さを販売していない。アイドルさんからミュージカル女優と歌手への完全なる転身に成功しつつある。

東京ブギウギ的な曲(いまセットリストを検索したら『買い物ブギ』という曲だった)、そして次の『お祭りマンボ』。ここがコンサート一番の盛り上がりどころだった。観客は全体を通して静かに聴くスタイルだった観客(私含む)も『お祭りマンボ』ではワッショイ、ワッショイと声を上げていた。思わず声を出してしまう、それくらいのグルーヴがあった。『お祭りマンボ』は田村さんの淀みのない早口フローが非常に心地よい。難しいビートを完全に乗りこなしている。彼女は練習すればラップもできそう。習得が早そう。Migosのような今風の、歌みたいなラップを難なくこなせそう。新境地を開拓できそう。

セットリストに『無形有形』が二回入っていた(二曲目とアンコール前の最後)。現時点での田村さんの代表曲なんだな、と。改めて実感した。一回目では台詞なしだったので、二回目に完全版を聴けてよかった。

コレが最後の曲です、という演者さんの通達に私がこんなに心からのエーイングをしたのは久し振りだ。というのが、Hello! Projectのコンサートではアンコールありきのセットリストになっているからだ。あらかじめアンコール後の曲が決まっているのはもちろん、衣装まで変えてくる。パターンが出来上がっていないから、純粋な気持ちでエーイングとアンコール(めいめい、めいめい)が出来た。再登場した田村さんは、嬉しそうだった。このツアーではお決まりアンコールはやらないとマネージャーさんと?決めていた。アンコールがなかったらシクシク帰るつもりだった、と明かす田村さん。しかし、仮にアンコールがなかったとしても満ち足りた気持ちで帰れるコンサートだった。田村さんのヘッズはおとなしいので誰かが率先しないとアンコールが始まらない雰囲気があった。最初にめいめいと叫び始めた人たちは偉い。

田村さん曰く、
・Twitterのretweetとかは気にしないで生きていくっていうスタンスなんだけど、舞台関係のretweetよりも自分のコンサートのretweet数が多いと歌手としての自分が喜ぶ。舞台関係のtweetは他の出演者の相乗効果で伸びるけど、自分のコンサートにはそれがないので。でも舞台のリツイートが多いと女優としての自分が喜ぶ。自分の中に二人がいる。
・先日ミュージカルのコンサートに出演した。観に来ていた両親から、あの子は口パクよねと近くの観客が言っていたと知らされた。私は生まれてこのかた口パクを一度もやったことがない。
・大勢は苦手。一人一人とは話すことが出来るけど、たくさんの人が私のことを見ていると緊張する。すごく早口になる。
・織姫と彦星は一年に一回しか会えない。しかも雨が降ったら会えないから、会える回数は一年に一回よりも少ない。それなのにあれだけ愛し合っている。私たち(田村さんとファン)は織姫と彦星よりもたくさん会っている。次はいつ会えるのかなと思うけど、シングルが出るということはその分リリース・イベントがあるし、名阪ツアーもある。

呼吸するのを忘れる感覚だった。(もちろん、実際には呼吸をしていたが。)私は田村さんの歌声とバンドの演奏にじっくりと聴き入り、曲が終わる度にふーっと息を吐き出していた。私はHello! Project現場での経験から、夢中になるとはすなわち声を出して身体を動かして場合によっては連続跳躍している状態だと思っていたが、こうやって声をほとんど出さずに全神経を音楽に集中させているのもまた夢中になっている状態なんだなと思う。

今日のコンサートはとても楽しかったが、近くの紳士のオイニーとの戦いでもあった。イルめな臭気を放つ汗。私は慣れているので平常心を保つことが出来たが、隣で観ていた友人は、コンサート会場で臭いオジサンは都市伝説かと思ったら本当にいるんだと後でびっくりしていた。彼によるとこれまで何度かHello! Projectの現場に連れてきたことがあるが、今日まで気になったことはなかったという。ただ、それでもなお終演後の我々は笑顔で感想を交わしていた。田村芽実さんの歌声が、近くの紳士の臭いに打ち勝ったのだ。ちなみに私はささやかな臭い対策(とB地区ポチ対策)としてTHE NORTH FACEのハンドレッドドライタンクNU61702を着用していた。最近はコレかショートスリーブドライクルーNU65113のいずれかを毎日、着用するようにしている。

今日の東京公演があまりに素晴らしかったので、私は大阪公演と名古屋公演のファンクラブ先行に申し込まなかったことを悔やんだ。終演後に新大久保ソルマリで友人にそれを伝えたら、今からでもチケットは買えるだろうということを言ってきた。その場で検索してみたら、何とeplusの先行受付中ではないか。しかも期限が明日まで。いちにち考えようと思ったが、今のうちに申し込んだ方がいいという悪魔の囁きを友人から受け、即決して申し込んだ。遠征費用がかかろうとも、間違いなくそのお金を出すだけの価値がある。(両公演ともに当選した。)

自分の有限なお金と時間を費やす対象。田村芽実さんの比重を高めなければならない。最近はHello! Projectの現場をそこまで心から楽しいとは思えないことがよくある。田村さんのコンサートではHello! Projectの公演では得られない感動を得られる。没頭できる。没入できる。

今日で2019年が半分、終わった。