2019年11月28日木曜日

立会い出産 第六子~バンドセットの会~ (2019-11-23)

1.サラリーマンやってるんですよ。こんな音楽やってて食えるわけないでしょ。ハハノシキュウさんは自嘲気味にそう言いました。その“こんな音楽”を好み、“食えるわけがない”活動をされている彼を観るために一定人数が下北沢に足を伸ばし、時間を割き、お金を(ささやかながら)落としている状況が可笑しくなりました。この独演会に会社の同僚が観に来ているんだと言った後の何気ない補足でしたが、やけに印象的で、私の頭からしばらく離れませんでした。公演中も、その後も。

2.一曲でもいいから作ってiTunesに公開しなさい。そうしたらあなたは歌手だ。どの本だったかは覚えていませんが(私は彼の本に一時期はまって大量に読みました)、歌手になりたいのですがどうしたらいいでしょうかという質問に苫米地英人さんがそう答えていました。(蛇足ですが、私の元上司が上智大学で苫米地さんと同じサークルに所属していたそうです。)言われてみればそうです。歌が何らかの方法で聴ける状態にあれば、それを歌っているのは聴き手にとってみれば歌手です。もちろん、コンパクト・ディスクを作って大手の小売店に流通させるのは個人でやるのは難しいでしょう。しかし手段を問わなければ、曲を作ってそれを誰かが聴こうとすれば聴ける状態にするというのはやろうと思えば出来ることです。通り過ぎるほぼ全員に無視されたとしても、武道館のステージに立ちたいだというありがちな目標を書いた紙を貼り出して駅前で歌う青年たちは、日本武道館を目指す歌手なのです。

3.自営業は年収が800万から1,000万円くらを超えると会社にした方が税金的に得だと、私が通っている整体の先生が言いました。ということは将来、会社になっていたら“そういうこと”だと思っていいですか? と私が聞くと先生は笑って、思っていいですと言いました。でも先生は収入を飛躍的に伸ばしていくことに興味はなく、のんびりとほどほどの生活が出来ればそれでよいと考えているようです。お金のことだけを考えれば、こうやって個人で一人一人の身体をほぐしていくのではなく、経営側に回るのがいい。お金持ちになりたければ、末端でセコセコ働いていないで、ビジネス・オーナーになれ。たしか『ユダヤ人大富豪の教え』(本田健さん)にもそう書いてありました(だいぶ昔に読んだので記憶が正確ではないかもしれません)。先生はその方向には興味はなく、あくまで自分の手でお客さんと向き合うことにこだわりたいそうです。曰く、私は痛いのが嫌い。他人が痛いのも嫌い。だからそれを取り除きたい。というのが仕事をする上での根っこにある考えだそうです。

4.あれは9月の名古屋でした。ギャンブル依存症の多重債務者、地元の有名企業に就職した若者、私という三人で柳橋中央市場の尾毛多セコ代で会食した後、しばらく歩いた場所にある公園で歓談しました。いわゆるストアルですが、私は炭酸水だったような記憶があります。若者は新卒で入社して約半年しか経っていなかったのですが、会社を辞めたいと言ってきました。何往復か話をしてから、私はこのようなことを言いました:このまま続けると心身の健康を害するとか、どう見ても今の職種や環境が自分に向いていないのであれば退職をすべきだが、そうではないように見える。君の場合はまず仕事が出来る人になるように努力をしなければならない。どんな仕事に就いたってイヤなことはある。仮に転職したところで今と同じような問題にまた見舞われるだろう。それを横で聞いていた多重債務者は、同じことを父親に言われたことがあるが自分はそうは思わない、というようなことを言ってから、こう続けました:食っていくなら別ですけど。食っていけないなら仕事じゃないじゃないか…と思いながらも別に議論はしたくなかったので深入りはしませんでした。今ようやく意味が分かった気がします。何かをすることと、それによって収入を得られるかどうか、ましてやその多寡は必ずしも一緒にすべきではないのです。

音楽に値札をつけたのは誰かのミスだった(DOTAMA、『音楽ワルキューレ』)

5.個人でやっている小さな飲食店と、日本全国にチェーン展開している飲食店があったとして、売上やお店の規模だけを理由に後者に価値があるということはありません。少なくとも、利用者にとってはそうです。むしろお気に入りの小さな店の方が居心地がよく自分の好きな料理を出してくれる場合も往々にしてあるでしょう。なぜなら想定する顧客層が不特定多数になればなるほど、お店や商品の個性は薄めざるを得ないからです。また、ある人にとっては親が作ってくれたカレー・ライスが世界で一番おいしい料理かもしれません。ハハノシキュウさんは、たしかに音楽だけでは食えていないのかもしれません。しかし、彼が音楽活動から得ている金額は、彼の音楽そのものの価値とは無関係なのです。今日、ハハノシキュウさんが独演会を開催し、我々は彼の音楽を聴くために集まった。今日のように数十名しか入れない下北沢lagunaであろうと、8,000人だか10,000人だかを収容する日本武道館だろうと、変わりがないはずです。創作(だけ)で食えないということは、創作に生活を依存していないということでもあります。生計を立てる手段が他で担保されているからこそ、尖った表現が出来るという面も大いにありそうです。(もっとも、今ではいくら大衆に迎合したところで音楽で巨万の富を得られる時代ではなく、セルアウトが死語になりつつありますが。)

仕事は保守的 安定した収入で潤わせる 音楽は危険を省みない冒険家 DISの対象であっても心身共に快調(キリコ、“Freedom Jazz Dance”)

6.インターネットにブログを開設して、一つでも記事を投稿しなさい。そうすればあなたは書き手だ。苫米地英人さんの論法を書く行為に転用すれば、そうなります。書店に並んだ本であれ、インターネットの片隅に名も知れぬ誰かが書いたブログであれ、誰かが文章を書いて公開し、それを誰かが読んでいるということに変わりはありません。専門的・体系的な知識を得るのにインターネットはあまりに玉石混合すぎて、適していません。専門家が書いた紙の本を読むのが今でも効率のよい方法です。ただ、面白い文章という点だけで見ると、書店に置いてあるその辺の小説よりも優れた文章がインターネットにはゴロゴロ転がっています。私はこのブログを更新するのにこれまで多大な時間を費やしてきました。食えるわけないでしょ、の以前に一円ももらっていません。労働で得た賃金で生活が出来ているので問題はありません。私にとって大切なのは、継続的に書きたいことを書いて、誰でも読める場所に投稿できていること。数人とはいえ読んでくれる人がいること。自分も読者の一人として楽しんでいること。読んでもらいたいという以前に、自分が書きたいから書いていること。

7.ゲスト出演されたAmaterasさんはちょっと怖かったです(本来ラッパーはこうですよね)。ハハノシキュウさんとの二人による新曲がとても格好良かったです。ハハノシキュウさんによるとその曲はレコーディング済みで、近いうちにYouTubeに投稿するとのことでした。他にも曲を一緒に作っているらしく、合作でアルバムでも出してくれたら私は嬉しいです。DOTAMAさんとのコラボ作『13月』とはまったく違った面白い作品が出来上がりそうです。

8.終演後、出入り口で物販が行われ、そこを通らないと出られない(何も買わずに出づらい)システムは、ヨーロッパのスーパーマーケットを髣髴とさせます(入口から出られない。レジを通過する必要がある)。

9.独演会やりすぎだろ的なことをハハノシキュウさんが言っていましたが、これからも年数回の頻度で継続していってほしいです。なるべく行きますので。

10.明治安田生命J1リーグの優勝争いが大詰めです。下北沢に向かう前にサテンでSoftbankさんのwi-fiを使って松本山雅FCさん対横浜F・マリノスの試合を観ていました。1-0でマリノスが勝ちました。鹿島アントラーズさんとFC東京さんが共に引き分けたため、マリノスが一位に躍り出ました。あと二試合。絶対にマリノスに優勝してほしいし、必ず優勝すると信じています。12月7日(土)に日産スタジアムで開催される最終節、FC東京さん戦は現地に観に行きます。その前にまず11月30日(土)に川崎フロンターレさんを何とか倒してほしいところです。