2022年12月25日日曜日

Meimi Tamura Musical Concert (2022-12-18)

久し振りに目覚めがよい。この日に体調の照準を合わせられたのは喜ばしい。調整してきたというよりは偶然だが。生きていて何が自分の体調を左右しているのかがよく分からない。原因不明で何となく調子が悪いということはよくある。自分の身体が既に耐用年数を過ぎていると考えると納得がいく。数日単位での因果だけでなく、もっと長い期間での影響もあるのかもしれない。『養生訓』をパラパラ拾い読みしていたら、この季節にこういうことをしていると次の季節にこういう不調が訪れるというようなことがよく書いてあった。田村芽実さんのファンクラブ限定ミュージカル・コンサート。12月9日(金)の夕方に当選を知ったときは本当に嬉しくて嬉しくて。その日の夜は初めて入った中華料理店で晩酌セットJPY990にお通しを出されて代金にJPY300くらい足されていたにもかかわらず警察を呼ばずに済ませた。それくらい喜びに包まれていた。外れる可能性も十分にあると思っていた。なにせ収容人数が50人という小さな会場で。その中でも限られた特等席だけを申し込んでいたからだ。三公演あって、第一希望が第二部のVIP席、第二希望が第三部のVIP席。今回はチケットぴあ経由だった。理解しきれないまま申し込んだのだが、複数公演の当選はできない仕様だった模様。ハイ・リスク・ハイ・リターンの選択だった。落選者が多数いたようだ。めいめいがインスタグラムのストーリーで言及していた。私は幸運にも当選した側ではあるものの、さすがにもうちょっと大きな会場でやってよと思わざるを得ない規模だった。

自由が丘オペラ座。コンサート会場というよりはちょっと大きめの部屋だった。小さな会場だと事前に知った上でもなお、驚きがあった。中に入ったら一目で全体が視界に入る狭さ。椅子が隙間なく敷き詰められていて、席を空けてもいなかったので、人が入りきるとさしずめすし詰めという感じで。私の整理番号は3番だった。予想していたように最前だった。左から三番目。最前は8席。たぶん2列目も8席で、その16席がVIP席だったようだ。左側にピアノがあったので、めいめいが歌うと思われる場所はやや右寄りだった。でも距離がめっちゃめちゃ近くて。本当に1メートルとか1.5メートルとか、そういうレヴェルの近さ。ここにめいめいが来ると思うと緊張してくる。何か周りのヘッズたちも緊張している感じがした。狭い空間で密集しているから何かお互いの緊張が伝わって、心地よくも重苦しい空気になっていた。開演までの数分間、完全なる沈黙が続いた。ピアニストの淑女(Ryoko Kuriyamaさん)が現れた際、本来は拍手で迎えるべきだったのだろうが、我々は微動だにしなかった。緊張が解けず、どうしたらいいかも分からず、おろおろしていた。そういう集合意識があったように思う。めいめいが登場した際でさえ拍手が起きなかった。

何回も良席で見たことがあるはずなのに、喫茶店や飲食店でテーブルを挟んでいるくらいの距離で見る田村芽実さんには新鮮な感動を覚えた。顔ちっちゃ! 脚細くて長! スタイル良! キレイ! これまで私が見てきたのが田村さんあるいはめいめいだとすると、今日、眼前にその姿を現したのは芽実という生身の女性だった。近すぎて芽実が口を大きく開けたときの口内、前歯の歯並び、舌の湿りが見えた。最初に一曲を披露してから芽実が言ったところによると、第一部では皆さんが近くて緊張した。第二部は緊張せずに出来ている感覚がある。芽実ご本人も緊張するくらいの近さだったので、我々が緊張するのも当然である。『繭期の子守唄』(『グランギニョル』より)を歌った際、知らない人のために、とTRUMPシリーズがどういう物語なのかを説明。登場人物の8割、9割が死ぬんですというざっくりさに私は思わずフッと笑いの手前のような反応をした。そのとき芽実も話しながら、釣られるようにフッと息を吹いていた。私の反応が芽実に連鎖した感触があった。普通に対面して話すくらいの近さだと、発話内容とか分かりやすい笑いとか拍手とかだけじゃなく、ちょっとした息遣いで伝わることもあるんだなと思った。これは私にとって新しい感覚だった。

『繭期の子守唄』について、レコーディング当時、まだ若かったので理解しきれずにただメロディを歌っていた部分がある。今では理解した上で歌うことが出来る的なことを芽実は言っていた。“Amazing Grace”は転調してからのキーが高すぎて、18歳のときにはとてもじゃないけど歌えなかった。歌える日が来るとも思っていなかった。最近歌ってみたら歌えるようになっていた。理由は二つ。一つは変声。女性の声は30歳手前くらいで楽器として完成する。二つ目はこれまでのミュージカル経験による技能の向上。芽実は歌手としてはもちろん、人間としても日々成長して魅力を増していると私は思う。前はもっと尖った一匹狼的なヴァイブスがあったけど、今は人格的に丸みを帯びてきているというか。もちろん、たまに観客として観させてもらっているに過ぎない私の勝手な印象だが。私は先日、家でスマイレージのコンサートBlu-rayを観ていたらだいぶ幼い芽実が出てきて、いつのコンサートかとジャケットのツアー名を見たら2013年。9年前かと感慨深くなった。ただ、そのときはスゴく推してますって感じではなかった。私を好きになってくれたのはアイドル時代からか、ミュージカルからか、という芽実による挙手アンケートがあった(いつも気になっているらしい。ファンクラブにいつから入っているのかとか)。第二部ではアイドル時代からが6割、ミュージカルからが4割(ちなみに第一部ではアイドル時代からの割合がもっと高かったらしい)。私はそのニ択でいえばアイドル時代からになるわけだけど、ここまで支持するようになったのはソロになってからだ。最初はHello! Projectを観るついでの副業程度だったのが徐々にこちらが本業になりつつある。日に日に引き込まれていく。

グッズ紹介のとき、芽実は再三に渡ってA3カレンダーをプッシュしていた。ポスト・カード型だけを買っていく人が多い(カレンダーは二種類発売されている)。自分で言うのもなんだけど可愛い。カレンダーと言ったら水着かなと思って、8月は水着を着てみた。一応元アイドルだから。お尻まで見えている写真をちゃんと選んだ。みんなが喜ぶかなと思って。最初は下の方が白く塗りつぶされた上に日付が書いてあるデザインが上がってきた。それだとお尻が見えない。悲しむ人がいるからお尻が見えるようにしてほしいとデザインを修正してもらった。的なことを言っていて、このくだりが今日のトークでいちばん会場が盛り上がった。終演後にはほぼ全員がA3カレンダーを買うために列を作っていた。VIP席のヘッズには特典としてカレンダー二種類があらかじめ席に置いてあった。特典といえば、種の袋詰めからシール貼りまですべて芽実が行ったという朝顔の種が全員に配布された。芽実からのクリスマス・プレゼント。

芽実のお母様が最前の一番右の席のさらに右側にいらっしゃるなというのは途中で気付いた。観に来ているんだなと思っていたが、まさか芽実とのデュエットを聴けるとは思わなかった。本田美奈子.さんの『幸せ届きますように』。レアなものを聴かせてもらった。こんなこと二度とないのではないか? お母様は終演後、階段を降りると(会場は二階だった)下からありがとうございました! ありがとうございました! という声が聞こえてきた。何だと思ったら芽実のお母様が来場者の一人一人に頭を下げてお礼を言っていた。私はコンサートで胸がいっぱいだったのと何も準備できていなかったので気の利いたことを言えず、というか何も言えず(ありがとうございましたくらいは捻り出したかもしれない)、ただ頭を下げた。

全員と目を合わせるのは普段ミュージカルで出演している会場では不可能。50人という少ないキャパの会場だから、一人一人の目を見て歌っている。こんなことがしたかったんだなと思いながら歌っている。ということを芽実は言っていた。これ以上はない。このままスッと死ねたらいいかもしれないな、と私は帰途で考えた。私がこの感情になるのはごく稀である。横浜F・マリノスの明治安田生命J1リーグ優勝にスタジアムで立ち会うのと同じくらいの幸福感を味わった。私の2022年を振り返るときに間違いなく最良の思い出の一つとなる体験だった。これを明確に超越する幸せはどう生きたってそう味わうことは出来ないのではないだろうか。私にとって2022年は激動の年だった。苦しい思いもたくさんしてきたが、生きてきてよかったと思った。来年も、部屋に芽実のカレンダーを貼って生きる。