2022年12月24日土曜日

Musical de Night (2022-12-03)

DEV LARGEさんにビーフを仕掛けられたときのK DUB SHINEさんのように「え? 何だよいきなり」と言いたくなるLINEが来た。「コンサート『Musical de Night』に出演が決定致しました!」から始まるメッセージが田村芽実さんの公式LINEアカウントから来たのが11月12日(土)朝9時。1時間後にチケットが発売されるらしい。事前情報はなかった。考える時間を与えてくれない。会場のサントリーホール ブルーローズ(小ホール)を画像検索したら雰囲気がよさげだった。行きたくなった。ファンクラブ先行受付はないとのこと。「すべて先着順とさせていただきます」という文面も気になったので、念のため10時になった瞬間にロー・チケにアクセス。途中で繋がらなくなる。二、三回。変わんない。ロー・チケはカス。ついでにローソンのアイス・コーヒーもまずい。ロー・チケに見切りをつけてeplusに切り替える。遮られることなく購入成功。10時4分。ロー・チケはカス。その場で席が表示される。2列14番! 先着順というのはどうやら単純に申し込んだ順に前から割り当てているっぽい。(昔インドで乗ったダラムシャーラーからニュー・デリーの夜行バスと同じ方式だ。あのときは真ん中から後ろはスカスカだったので勝手に席を移動した。)

六本木一丁目駅。池袋とは違うキレイな東京。所得高めな人しか寄せ付けない高級な雰囲気。サントリーホール付近で開場を待つ人々もちゃんとした外套を纏った落ち着きのある紳士淑女が多く、スポーツなど一切しないのにスポーティな装いを好む肥満体や禿げ頭たちがたむろするアイドル現場とは一線を画していた。ドレス・コードは示されていなかったものの、半袖teeの上にクルー・ネックのシャツで場違いではないだろうかと少し不安になった。襟付きシャツを着てきたほうがよかっただろうか? あまり持ってはいないが……。最前だったのでなおさら。入場してから知ったが椅子に貼ってある席番号には1列が存在せず、一番前が2列だった。それもど真ん中。もしかしてロー・チケですぐに買えていたらもっと左になっていたのだろうか? だとするとロー・チケで失った数分が結果としていい結果を生んだことになる。

収容人数400人程度の比較的こじんまりした会場で、豪華なオーケストラの生演奏とともに熱唱する田村芽実さんを目と耳に焼き付ける。至極の体験だった。田村さんと何度も目が合った気がする。たぶん。田村さんの出番は前半にソロで4曲(『アナと雪の女王』から“Into the Unknown”、『ジェイミー』から“It Means Beautiful”、『ポカホンタス』から“Colors of the Wind”、『魔法使いと私』から“Wicked”。好きな曲を自身で選んだという)。休憩を挟んだ後半ではデュエットを1曲(『輝く未来-塔の上のラプンツェル』。後述する渡辺大輔さんと)。あと最後に出演歌手全員の合唱(『星に願いを』)。田村さんはステイジに出てきた瞬間からこの場に立てる喜びが全身から溢れていた。輝いていた。物理的にも照明に当たって輝いていた。この輝きはフットボールでいうと、宮市亮さん。キャリアを通じて常に怪我に苦しまされていたから、プレイ出来ることの喜びが人一倍、観る方にも伝わってくる。こうやってミュージカル・コンサートをするのがニ、三年ぶりで……と話す田村さんは喜びを噛みしめているように見えた。収入に関係なく、仕事に対してそういう姿勢を持てる人が人生の勝者だと思う。これは必ずしも花形の職業に就いていることとイコールではない。たとえばフットボーラーだったら仕事が楽しいかというと実はそう単純でもない。

司会は芸能人に疎い私でさえ見覚えがある鈴木杏樹さんという淑女だった(“MUSIC FAIR”の司会をされていた方)。田村さんが歌唱後の鈴木さんとのトークで言ったところによると、アイドルとミュージカルでは歌うときの呼吸法がまったく違う。Hello! Projectを退団してから一年間、稽古を通じて呼吸法をアイドルからミュージカルに切り替えた。声楽が専門の紳士も二人出演していて、鈴木さんはそのお二人にも似た質問を投げかけていた。声楽とミュージカルの違いや生かせる部分は何ですかという感じの質問だったけど、あまり生かせる部分はないと片方の紳士が答えているのが興味深かった。そういえば田村さんが何かの配信で、演歌を歌ってみてほしいというコメントに対し、一口に歌といってもジャンルによって歌い方が違うので、そう簡単に別ジャンルの歌を歌えるわけではない的なことを言っていた。たとえば同じピアノでもクラシックとジャズではまったく異なるのと似ているのかもしれない。あとトークの中で勉強になったのが、音楽劇とミュージカルの違い。バン・マス的な紳士が説明したとことによると、厳密な定義はないものの一般的には音楽は音楽、芝居は芝居で分けられているのが音楽劇、音楽によって話が展開していくのがミュージカルとされている。

渡辺大輔さんという、田村さんと同じ事務所(BMI)に所属する紳士を初めて拝見した。田村さんがソロ4曲なのに対し渡辺さんは5曲だったのが事務所内の序列を感じた。(それでいうと他の歌手はソロが二曲もしくは一曲だったので田村さんの扱いはよかった。)たまにBMIからのメールで名前を見ていたので存在だけは知っていた。私と同い歳だった。この歳になると体型や見た目の個人差が非常に大きくなる。かなり禿げている奴や、だらしない体型の奴がゴロゴロ出てくる年頃。そんな中で渡辺さんは顔立ちが端正なのはもちろんのこと、生え際が後退しておらず、スタイルも保っており、かといって変に若作りをした風でもなく、カッコよく歳を重ねている感じがした。まあこりゃ女性たちがファンになるのも分かるなと納得。最近ご結婚なさったそうなので田村さんに手を出さないであろうからその点においては安心できる。

18時開演で、1時間50分くらいで休憩。この調子だと22時くらいまであるのかと思ったが第二部は短く、21時15分くらいに終演した。通しての公演時間は思ったより長かった。(何となく長くて2時間くらいと思っていた。)尺だけじゃなく内容も盛り沢山で。次々に歌手が登場してプロの技を存分に見せつけてくれたのはもちろんのこと、オーケストラだけが演奏する時間もあった。平原誠之さんというピアニストによる『レ・ミゼラブル』と『オペラ座の怪人』メドレーもあった。平原さんのプレイ・スタイルは魂を込めた憑依系。ガッチリした体躯も相まって迫力があった。『民衆の歌』を演奏してくれたのには気分が高揚した。横浜F・マリノスの歌でもあるからだ(ホームの試合で選手入場の直前にスタジアムに流れる)。平原さんは趣味が高じて来年4月23日にボクサーとしてデビューするとのこと。その試合で手を傷めるリスクがあるにもかかわらず、三日後の4月26日にピアニストとしての公演を控えている。出演者の殆どを存じ上げなかったが初見で聴き惚れてしまうほどに歌と演奏がうまかった。それを最前中央で浴びることが出来たのは音楽のリスナーとして幸せだった。一方で田村さんの追っかけとしては物足りなさが残った。もっと彼女の歌を聴きたかった。