同じ店で同じモノを食っても今日はやけにおいしいなと思う日がある。提供された料理の出来が本当にいつもより良かった場合もあるだろうし、こちらの体調や気分がよくておいしく感じられた場合もあるだろう。誰かと一緒だったらその人と過ごした時間の楽しさによっておいしさが増幅したのかもしれない。今日はそんな日だった。メシではなく公演の話である。いつもの定期公演。「大体 毎回 いつも同じメンバーと再会」(RIZE, “Why I'm Me”)状態のフロア。いつものメンバーさん。いつもの衣装。まあそうガラッと入れ替わることはないセットリスト。何かが大きく違ったわけではない。それでも終演直後のフロアで皆さんが浮かべていた、満足という概念そのもののような表情。目を合わせる人、合わせる人が目を細めて言う「楽しかった」。もちろんLiVSの公演はいつでも最高なのだが、ここまで全員一致でやり切った感が蔓延するのは稀である。平均的な雰囲気としてはもうちょっと事務的というか、淡々としているというか。さて次は特典会だという感じで。でも今日は違った。公演で完結するくらいの、特典会がなくてもいいくらいの楽しさだった。少なくとも私はそう感じた。おそらく多くの同志たちも同様だったのだと推測する。
何がいつもと違ったのか。完全な答えを私は持ち合わせてはいない。こと自分に限って言うと、動画(写真も)をほとんど撮らないようにした。普段もそんなにたくさん撮っているわけではないし、撮らずに楽しむ時間とのバランスを取るように心がけてはいるつもりだ。今日に関してはミニ・マルコchanの自己紹介と『RとC』でメンバーさんがフロアに下りてきたとき以外はiPhone 14をほぼ尻ポケットに入れたままにしていた。さすがにこれだけは撮らせてほしい。特にミニ・マルコchanの自己紹介を撮影し世界に公開することは私のライフ・ワークである。『RとC』もメンバーさんがすぐ近くまで下りてくるわけだからさ、仕方ないじゃん。でもそれ以外はほとんど撮らなかった。目の前の公演を目の前のミニ・マルコchanを、目の前のLiVSを、この目と耳で受け止めて、この身体で、この空間、この時間を味わい切ろう。そう決めて臨んだ。 #KTCHAN が本で書いていたことがずっと頭の隅っこに引っ掛かっている。
みんな何で写真撮るの?
ご飯とか、遊びに行ったときとか、LIVEもそう。だいたい、その出来事の一番ピークのタイミングで、みんなカメラを持って、画面越しにしかその世界味わってないように見えてるんだけど、私の感覚が現代っ子ぽくないのかな。[…]
だってさ、その写真って、その後何かに使うの?
[…]カメラで収めておかないと忘れてしまうような思い出なら、最初から撮らなくてもよくない? って発想はトガりすぎ?[…]
私は、写真に残さない。目の前で起こったことを「生」で楽しみたいから。「これは忘れたくない」って心が動いたものはむしろ、目に焼き付けて、心で感じるようにしてる。
( #KTCHAN、『飛んできたナイフは、プレゼントで返したい。』)
これを読んだとき、分かるけどさ、そうは言っても撮ったら後から何度も楽しめるし…。人間の記憶なんて信用出来ないし…。なぞと思っていた。今日、意識して目の前の公演に集中してみた結果としては #KTCHAN に分があると言わざるを得ない。とにかく、いつにも増してLiVSは最高だった。この時間、この空間は唯一無二。目を細めて笑うマルコchanの表情。好き。生きていてよかったと思える。今日のマルコchanはやけに可愛く、いつもよりも多く目が合って、幸せだった。そのマルコchanはもちろんカメラには残っていない。
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先日のトーク・ショウ、『LiVS Road to LIQUIDROOM 決起集会』。チケットは現地でJPY2,500(+ドリンク一杯オーダー必須)、ツイ・キャスでJPY1,500。あらかじめLiVSのことをかなり好きな人ではないと、わざわざこの金額を払ってトークを聴こうとは思わない。当然それくらいはLiVSの運営側も承知の上だろう。LiVSを知ってはいるけどLIQUIDROOMまでは足が伸びない。あるいはLiVSの存在も今は知らないけど何かのきっかけがあればLIQUIDROOMに来てくれるかもしれない。そういった人々にはハナから届ける意思がなかったということ。もし既存客だけでLIQUIDROOMを埋める目途がついているのであればそれでいいかもしれないけど、実際はそんなことはまったくないだろう。だって下北沢シャングリラだって埋まらなかったんだから。一人でも多くの人に届けたいのであればYouTubeで無料配信するべきだった。じゃあYouTubeで流せば新規ファンが増えてLIQUIDROOMのチケットが売れるんですかというとそんな簡単な話ではないのも分かる。ただ少しでも新たな目に触れる可能性のある場所に露出するための手は打ち続けないといけないのでは。結局のところ少数の常連客にたくさんのお金を出してもらうという利益重視の売り方から抜け出せていない。いや、今の規模を維持するのが目標なのであればそれはそれで正解である。実際問題として規模を拡大することはいいことばかりではない。たとえば客層が悪くなることは大いに考えられる。ピン・チケ軍団が生まれ、最前管理をし始める。今は少数のコミュニティだからこそ信頼を前提に成立している自由がある。ファンが増えれば増えるほどそれは希薄になるだろう。メンバーさんが有名になったらインターネット上の心無い誹謗や中傷は劇的に増える。オタク間の争いも同様に増える。フロアでも特典会でも細かいルールが増え、アイドルとオタクの間に入るスタッフが増え、物理的な距離も遠くなる。それは目に見えている。
もちろんメンバーさんもそれくらいは分かった上で一度は大きな花火を打ち上げてみたいのかもしれない。人生は一回。アイドルをやれる期間は短い。それは理解できる。であれば応援したい。しかし上記のトーク・ショウの公開の仕方ひとつとってみてもファン層の裾野を広げる意思そのものが運営からほとんど感じられない。気持ちの問題ではなく施策レヴェルにおいて。5月7日(水)に収容人数600人の会場(下北沢シャングリラ)を埋めることが出来ませんでした。むしろ昨年8月に同じ会場でやったときよりも動員は減っています。それで8月18日(月)に収容人数900人の会場(LIQUIDROOM)を埋めたい。であれば、その三ヶ月のあいだに何らかの大きな手を打つ必要があるのは明白。もちろん私はあくまで楽しませてもらっているファンの一人に過ぎない。参謀気取りで助言する気など毛頭ない。でも好きで追っているからこそ思うこともある。集団としての目標をぶち上げるのであればそれに見合ったサポートや施策の企画・実行をしてもらいたい。現状ではそこの辻褄が合っているようには感じられない。あまりこういうことを書いていると次の現場で運営さんに裏まで呼び出されて胸ぐらを掴まれかねない。すみません、ただのオタクの戯言です。許してください。私は下北沢シャングリラでマルコchanが頭を下げた光景、涙を流しながら言ったごめんなさいの言葉がトラウマのように頭に残っている。あの光景は二度と見たくない。あの言葉は二度と聞きたくない。このままだとどうなるのか、想像しただけで胸が苦しくなる。