2017年1月29日日曜日

ニューワンマン2 (2017-01-21)

DOTAMAさんの単独コンサート『ニューワンマン2』を観に行かせてもらいました。実を言うと、この公演の存在に気が付いたのは6日前の1月15日でした。完全に見逃していました。それも無理はありません。ここ数ヶ月はハロー!プロジェクト関連のコンサートと、ブログの執筆で休日の大半は埋まっていました。それ以外のことに目を向ける余裕がなかったんです。DOTAMAさんはTwitterでフォローしているのですが、言っても私が500近くフォローしているアカウントのうちの一つなので、おそらく前々から宣伝はしていたんでしょうが、私の目には入ってきませんでした。これがハロー!プロジェクトだったら、公式アカウントだけじゃなくてフォローしている無数のファンのアカウントが24時間体制で言及しているからTwitterを開けば否が応にも気付くんですよ。DOTAMAさんに関して同じような熱量で言及するアカウントも存在はするんでしょうが、私はフォローしていないんです。DOTAMAさんは『フリースタイルダンジョン』のレギュラー出演者なのでおそらく番組でも告知はされていたんでしょうけど、私がこの番組を観るときは試合以外の箇所は早送りで飛ばすので、宣伝はまともに見ていないんです。

『フリースタイルダンジョン』で一気に知名度と人気を高めたDOTAMAさんなので、公演の6日前にチケットは手には入らないんじゃないかと思っていました。渋谷のWWWという会場だったんですけど、ネットで検索したところによると収容人数は400人くらいらしくて、まあそれくらいなら今のDOTAMAさんであればすぐに売り切れても不思議じゃないですからね。ところがイープラスのサイトを覗いたらまだ買えるっぽかったんですね。さっそく前回の『ニューワンマン』を一緒に観に行った二人に声をかけました。片方は行かない、もう片方は行けないということで、断り方に違いはありましたが、まあ二人とも来ないというのは想定済みでした。チケットは3,500円で、ここにお馴染みの何とか手数料が加算されて3,700-3,800円だった気がします。前回のチケット代は2,000円でしたが、費用と客数を考えるとDOTAMA側にほとんど利益は出なかっただろうと想像します。値上げ(?)した3,500円でも、普段の私の感覚からすると十分に安いです。ハロー!プロジェクトは通常のコンサートやミュージカルで7,000円、メンバー総出演のハロコンで9,000円くらいしますから。3,500円というのはハロー!プロジェクトでいうと研修生発表会と同じ値段です。もちろん値段だけでどっちが高いとか安いとか、単純に比較は出来ませんけどね。友人たちが不参加なので自分の分だけを買いました。前売り券は、1月18日(水)に完売したのでギリギリでした。

大久保「ナングロ」でサマエボウジ、マトン・シェクワ、生ビール、アイラアー(ネパールの透明な強いお酒。検索したところによるとアルコホールは48度らしい)をいただいてから渋谷に向かいました。18時開場、19時開演だったんですが、18時半頃に渋谷WWWに着きました。いい番号ではありませんでした(B147という番号でした。憶測ですが、先にAが200番くらいまであって、その次にBも200番まであるとか、そんな感じだと思います)し、ハロー!プロジェクトのコンサートと違って別に前方でがっつきたいわけではなかったので開場時間よりも遅れて到着しました。その時間になると誰も並んでおらず、そのままスルッと中に入れました。B-BOYっぽい兄ちゃんにチケットをもぎられて、姉ちゃんに500円を渡して受け取ったドリンク・チケットでジン・トニックを手に入れ、グッズのメガネTシャツ3,000円を買って、カバンを300円のコイン・ロッカーに預けました。フロアはけっこう埋まっていましたが、運良く段差になる前の左端という悪くない位置につくことが出来ました。(この会場は三つくらい段差があって、それぞれに一番前の人が手をかけられる手すりが付いていました)。ジン・トニックを飲んで、DJ(誰だか存じ上げません)が奏でる音楽に身体を揺らして、開演を待ちました。19時間際になると駆け込みで人が入ってきて詰めた関係で、真ん中寄りのさらに見やすい位置に移ることが出来ました。DJは開演の直前にKuma the Sureshotさんと入れ替わりました。

観客は満員で、7割方は若い女性でした。20代前半から半ばくらいの。前回の『ニューワンマン』でも女性ファンはいましたけど、今回は女性が圧倒的多数でした。『本音』という“DOTAMA BEST”に収録された新曲をパフォームするために登場した般若さんも曲の後に「ほとんど女性じゃないか」と観客を見回して感心していました。「この中の何人とやったの?」「どれとアレしたの?」と追及する般若さんに、「やった…とは? どういうことですか?」というように首を傾げてとぼけるDOTAMAさん。その度に般若さんが笑いをこらえられないのが面白かったです。私の近くにいた若い女性二人組の片方が、DOTAMAさんがジャケットを脱いで我々に背中を向けた際に「お尻!」と興奮しお友達から「黙れ」とたしなめられていましたが、ああそうか彼女たちはDOTAMAさんをそういう目でも見ているんだなと思い、何だか新鮮でした。それ以外にもDOTAMAさんを「可愛い」と言っているのが周りから何度か聞こえました。DOTAMAさんを男性として魅力的に感じている女性が多そうでした。そうは言ってもあなたの精子をくれ的なことをうちわやボードに書いてステージに向けるようなあからさまな性欲の発露はまったく見受けられませんでした。それは極端にしても、レスを要求するような人も見ませんでした。皆さんちゃんと音楽を聴いてコンサート空間を楽しまれていました。ですので少数派だった男性の私でも居心地の悪さはなかったです。DOTAMAさんはステージで女性たちに媚びを売るような言動は少しも見せていませんでした。それどころか女性が多いということへの言及すらご自身からはしていませんでした。女性ばかりじゃないかと般若さんに言われたときも「いや、いかついB-BOYもいますよ」「いかついB-BOYはいないだろ」「ひょろっとしたB-BOYも…」という会話をしていました。

普通の男だったら、これだけ多くの若い女性が自分を見に来たらもうちょっと舞い上がるでしょうね。観客の女性率に喜びを表して「女の子のみんな、調子どう?」と呼びかけて声を出させるくらいはやっても不思議じゃないんですよ。でもDOTAMAさんはそんな浮ついた素振りは微塵も見せなかった。来ていたすべての観客を、コンサートに来てくださったお客様として平等に扱っているように見えました。こんなに多くの方が来てくださるとは思いませんでしたとは言っていましたが、観客の属性については何も言っていませんでした。そういうところからしても、本当に生真面目に音楽をやっているんだなと。ステージで自分の最大限のパフォーマンスを見せて、愚直に音楽を楽しませる。このコンサートで披露された曲でもある『真面目な男』(“DIRECTORY”収録)そのものです。「真面目にやる 真面目にやる 真面目にやるからマジでリアル」という姿勢が、このコンサートからひしひしと伝わってきました。DOTAMAさんの真面目さがコンサート空間に独特の安心感をもたらしていたと思います。

あまりにトークが少なくて、時間がだいぶ前倒しになっていたようです。般若さんが出てくるのは20時15分くらいの予定だったのが実際には20時より前になったそうです。般若さんは『本音』の後に、出てくる前にスタッフから時間が巻いているからしゃべってくれと言われたとDOTAMAさんに言いました。DOTAMAさんは近くに置いてあった時計を見て、あれおかしいなという顔をしていました。ということで時間を消化するために二人でしゃべったのが、このコンサートで唯一まとまった時間のトーク・セグメントと言える箇所でした。それえ以外も含めて、コンサートを通して面白かった話をいくつか挙げておきます:
・「一緒にダンジョンやめない?」と切り出す般若さん。明確に肯定も否定もしないDOTAMAさん。月に一度は必ず誰かと罵り合いをしなければならないことの精神的負担は大きいとDOTAMAさん。
・『本音』への客演オファーを受けたときにどう思ったかというDOTAMAさんの問いに「変態が何か言ってきたな」と般若さん。「般若さんも、へん…」「俺は普通にやってるつもりなんだけどね」
・服装を「ドッタンに寄せてきた」とスラックス、タック・インしたシャツにネクタイ、ベストというスタイルの般若さん。DOTAMAさんは白スーツ。
・DOTAMAさん曰く先ほど裏でハハノシキュウさんとも話していたが、『フリースタイルダンジョン』は素人が出てきてめちゃくちゃなことを言う方が絶対に強い。同調する般若さん曰く、誰かの彼女が出てきて「お前イクときに声がでかい」と言われたらもう頭を下げて降参するしかない。
・自分を何で知ったか観客に挙手させるDOTAMAさん。バトルで知った人? ほとんどの人が挙手。音源で知った人? ごく少数が挙手。バトルで知ったけど音源もイケてると思う人? ほとんどの人が挙手。「そりゃそうだよね(自分の単独コンサートなんだから)」とDOTAMAさん。
・今日はリハーサルのため14時頃に会場入りし、入り口にあったファンからの献花に泣きそうになったDOTAMAさん。
・バトルMCの音源がイケていないという言説に異を唱えるDOTAMAさん。曰く、バトルは悪口の言い合いなのでやる方も観る方もアドレナリンが出る。罵り合う興奮と音楽的な興奮は異なる。バトルと音源が違うのは当然。一緒にするべきではない。
・DOTAMAさん曰く、伝統を守るのもいいが、新しいこと、面白いことをやるのがヒップホップ。自身がヒップホップに初めて出会ったときの衝撃が、新しさ、面白さだった。

セットリストは前回の『ニューワンマン』公演に似ている部分もありましたし、更新されている部分もありました。似ていた部分としては、前半はメドレー的な形式が多かった。『音楽ワルキューレ』から『音楽ワルキューレ2』につなげる流れは『ニューワンマン』でもあったと記憶しています。前回も思ったのですが『音楽ワルキューレ』はフルで聴かせてもらいたかったですね…。盟友ハハノシキュウさんとは、名盤『13月』から『2012年にクリスマスが終わる』を歌いました。大好きなハハノシキュウさんの出演は嬉しかったですが、前回のコンサートで楽しくて仕方がなかった二人のフリースタイルでの掛け合いも見たかったです。余った時間をトークで潰すくらいなら(そのトークも面白かったですが)もうちょっとハハノシキュウさんとの絡みを見せてほしかったです。更新されていた部分としては、まずCMソング・メドレー。DOTAMAさんが2016年にテレビ・コマーシャルでこなした数多くのラップが連続的に披露されました。他には、前回の公演ではまだ存在しなかった新曲ですね。Kuma the Sureshotさんとの“DIRECTORY”からは4曲ほど歌っていましたし、“DOTAMA BEST”の新曲は三つともセットリストに入っていました。『ニューワンマン』と『ニューワンマン2』の間のDOTAMAさんの音楽家としての積み重ねが、そのままセットリストに表れていると感じました。単にテレビに出ているだけではなく、着実に曲を作って発表している。その活動が可能にしたセットリストでした。DOTAMAさんがバトルの人気者で満足するのではなく、アーティストとしての本筋を見失っていないというのが伝わってきました。夏には東名阪ツアーが決定したそうです。

セットリストに入れてくれて私がいちばん嬉しかったのは『通勤ソングに栄光を』です。DOTAMAさんの曲で一番好きです。DOTAMAさんはコンサートでこの曲について元サラリーマンという自身の来歴に触れつつ、サラリーマンはイヤな仕事に向かうために通勤中に好きな音楽を聴いて気持ちを盛り上げている。そんな歌になればいいなと思って作ったと言っていました。私自身について言えば、無職だった頃に求職のためスーツを着て企業に向かう電車の中でこの曲を聴いて、涙が出そうになったことがあります。それくらい、私にとっては沁みる曲です。他に印象的だったのは『じいさんばあさんのうた』。おじいさん、おばあさんになった気持ちで聴いてほしいというDOTAMAさんの要請で我々はみんなして腰をくの字にしてゆっくりと手を左右に振りました。なかなかシュールで、楽しかったです。

今日のステージ・パフォーマンスを観させてもらって、DOTAMAさんの音楽家としての強度を頼もしく思いました。バトルで強いけど音源がサッパリという人は、現に存在すると私は思います。『B.M.K.D.(バトルMCは曲がださい)』は残念ながら一般論としては真実です。そういうラッパーは、音楽家としての活動の量と質がバトルMCとしての活動の量と質に負けているんだと思います。『ニューワンマン2』でのDOTAMAさんの発言とパフォーマンスに触れさせてもらって思いましたが、彼はバトルと楽曲を別物とはっきり切り離しているからこそ、バトルMCである前にラッパーであり、ラッパーである前に音楽家であるというのを忘れずに精進(精進とは彼がよく使う言葉です)しているんだと思いました。バトルのイベントでR-指定さんが持ち歌を披露するのを観たことがあるんですが、一曲だけでめっちゃ息が切れて苦しそうだったんですよね。バトルで8小節を2-3本やるのと、1曲を丸ごと歌うのとでは要する肺活量がまったく違うでしょうし、出ずっぱりの単独コンサートとなるとなおさらです。DOTAMAさんがバトルでR-指定さんに負け続けたとしても、それはバトルMCという階層の話であって、ラッパー、音楽家という階層での評価とは直接の関係がありません。DOTAMAさんには「君は確かにMCバトルの申し子 でもミュージシャンとしてはトーシロー」とR-指定さんに中指を立て続けてほしいです。