2019年2月6日水曜日

めいめい白書 (2019-01-19)

整体の先生が知らないうちにシングル・ファザーになっていた。これまでは例外なくお店にご夫人がいらっしゃった。今日はいない。外出しているのかと思ったが、会話を進めるうちに、シングル・ファザーなんでね、という言葉がごく自然に先生の口から出た。ずっと前から一人で子供を育てているかのような口ぶりだったが、つい5週間前にはそうではなかった。私は驚いたが、言葉を飲み込んだ。何があったのかは知らないし、私が知る必要もない。ご本人から言い出さないかぎり、聞くべきではない。彼にはもう一つ、人生の転機となり得る出来事があった。それには私が一枚噛んでいる。私はココとは別にタイ古式マッサージにも通っているのだが、そこの先生ご自身が身体の歪みに悩んでいる。私の脚を見て左右がぴったり同じ長さだと言う先生に、整体に通っているのでと答えると、どこの整体か教えてくれと頼んできた。店を教えて、代わりに予約してあげた。実際に整体院を訪れ先生の知識と技術に感激した彼女は、自らがタイで運営する学校で整体を教えてくれないかと言うオファーを彼に出した。ここ数日、ずっと考えているんですよ。同業者からもこんな話、聞いたことがないです。親にも相談したんですけど。お前、騙されてないかって。でもホームページを見たらちゃんとやっている人のようだし…。タイ古式マッサージのライセンスを発行できる資格を持っているそうで。相当スゴイ人ですよね。ええ、スゴイと思いますよ。僕は今まで色々なマッサージを受けてきましたけど、彼女はスペシャルだと思います。

池袋の楊で腸詰とキュウリの炒め物を頼んでみた。過去に注文したことがなかったので、どんなものかは分からなかった。たまにはルーティンを崩し、新しい料理を開拓したくなる。思わぬ発見があるかもしれないからだ。結果は、いまいちだった。二度と注文することはないだろう。人生では新しいことを試せば成功することも失敗することもある。この店はおいしいとかそうでもないとか我々は言うけど、どの料理も同じようにおいしい(おいしくない)ということはない。もっと言うと、料理人によっても得意不得意がある。同じ汁なし担担麺でもそのときに厨房にいるのが誰かによって大きな違いが出る。

今日は寒いというより涼しい。冬と言うよりは、春のような秋のような空気。白金高輪という駅で降りたのはたぶん、人生初。今日の会場は、セレネスタジオSELENE b2。聞いたこともなかった。18時15分開場、19時開演。そんなにゆっくりしている時間はないが、軽くメシを食っておきたい。17時43分、アジアン・ケバブという店に入った。やる気のなさそうな(別に問題ない)店員がスマ・フォをいじっている。私に気付くと気だるそうに顔を上げた。ケバブ・サンド。ピリ辛ソースで。500円。お酒ありますか? 首を振る店員。(つまみケバブを売っているのにお酒を出さないのは解せない。)キャベツでかさを増したワックなケバブ。大量のキャベツに、小麦粉で作られた薄い生地。材料の構成がほぼお好み焼き。まずくはないが、本場のとは大違いだ。私はトルコとドイツでケバブ・ラップを食べたことがある。向こうでは色んな種類の野菜を入れてくれるし、具がもっと多くてギッシリしているし、ラップはちゃんと巻いている(日本ではオープン・サンドウィッチのようになりがち)。比較にならない。トルコ人がやっている店でも(このアジアン・ケバブで働いているのが何人かは知らない)ドイツではリアル(その辺にケバブ・スタンドがたくさんある。日本の牛丼屋くらいの感覚じゃないだろうか)、日本に来ると途端にフェイクになってしまうのはなぜなのか。

18時3分、Google Mapの導きを得て会場の手前にたどり着く。チケットゆずってくださいと書かれた紙を掲示して立っている紳士。ココまで来て譲る奴がいるか? 仮に余らせるなり行けなくなるなりした場合はその日が来る前にTwitterやオークションで取引を済ませているだろうし。その手間を、チケットを事前に買うのに使えなかったんだろうか。チケットは即日完売ではなく、一定期間、販売されていた。追加席まで出た。直前になって急に行きたくなったのか? 付近のコンビニ前でハイボールサントリー角ハイボール缶〈濃いめ〉350mlを開け、一本満足プロテイン・バーを食う(ケバブ・サンド一つじゃ足りなかった)。

会場入ってすぐに飾ってある花。名義は、田村芽実ファン有志、田村芽実しゅきしゅきマン一同、ヒロミ、松本伊代、ビクターエンターテインメント等。あともう一つくらいあった。

18時9分、番号の呼び出しが始まる。受付に言えば500円で荷物を預けられるようだ。クロークをお願いしたいんですが。カバンですか? はい。あちらにロッカーがありますのでお預けください。そうですか。困惑する私。ロッカーがあるのはさっき把握していたが、その部屋が整理番号何番(300番だったか?)以降だかの待合室になっていて、人で密集していたからだ。彼らをかきわけて壁際のロッカーにたどり着かないといけない。しょうがない。すみません、失礼しますを連呼しながら進む。暑苦しい。空きを見つけて、カバンと上着を入れる。チケットと千円札をポケットに仕舞う。番号の呼び出しを待っている間に聞こえてくる周囲の会話はHello! Project関連が多い。さおりんがどうとか。

私の番号はA156。18時18分の時点でA130まで呼び出される。156番というのは、Hello! Projectの感覚だとあまりいい番号ではない。よく使われる、500人未満を収める地方ライブハウス(和製英語)だと最前に行けるのは12人前後(つまり一列がそれくらい)なので、156番だと十数列目だろうなという雑な計算が成り立つ。もちろん、サイドに流れればもう少し前には行ける可能性があるが。今日は思っていたよりもいい位置に行けた。右寄りの、5-6列目くらいだったかな。今日の会場の収容人数は、いま調べたら700人のようだ。開演前に人をかき分けて最前付近まで移動された白髪の紳士がいた。Hello! Projectの現場では白眼視される行為で、それはやらないという暗黙の了解がある。だが、おそらく一般的にはおかしくないのだ。横浜F・マリノスのアンジェ・ポステコグルー監督は日頃から選手たちにスペースを活用せよと指導しているそうだが、ライブハウス(和製英語)においてもスペースを見つけて前に進んでいくのは普通のことなのだろう。周りのおまいつらしき人々から聞こえてきたところによると、その紳士は田村芽実さんのお父様だったらしい。ということは、そのお隣にいた女性はお母様だったのだろう。開演の少し前に後ろを見ると、ギューギューにならない程度に一番後ろまで人で埋まっていた。娘さんの晴れ舞台を上の関係者エリアからではなく一般エリアの前方で観覧することを選んだご両親(あくまでおまいつ情報だが)。

和田彩花さんのようなヘア・スタイル(おでこをだして分けている。私は女性のお化粧や髪型に関する知識が乏しいため何と言えばいいのか分からない)で現れた田村芽実さん。シリアスな感じで立て続けに二曲をショート版で披露する。歌い終えてから初めて笑顔を見せる。たくさんの顔があってびっくり、と客入りの多さに触れる。つらいけど頑張ってと我々を労う。実際に私からすると観ているだけでつらいというほどの密集度合いではなかった。ほどよい混み具合。私の周りは女性が多かった。女性限定エリアもなかったしね。

田村芽実さんが公演中に語ったところによると、この公演のコンセプトは田村芽実ヒストリー。後にも先にもないコンサート。前回に続いてカヴァーをやろうかという話もあったけど、持ち曲が少ない今だからこそできることをしたかった。歌を歌い始めるきっかけになった曲、Hello! Project在籍時の曲、『グランギニョル』と『マリーゴールド』の曲等、これまでの田村さんの活動を振り返るセットリストだった。ソロ歌手になってからリリースされた全曲も。そして三月に発売することをこの公演で発表したミニ・アルバム(ミニじゃなくてフル・アルバムを出してくれ)からも。田村芽実さんの過去、現在、未来が網羅され、彼女の魅力を知るにはうってつけのセットリストだった。田村さんをよく知らない人を連れて来たかった。スマイレージ時代の曲はやっぱり高揚する。田村さんの声でまた聴けるっていうのは格別な体験だった。『自転車チリリ』のイントロが始まるや否や、私の近くにいたナオン数名が一斉に泣き出した。情緒不安定なのかと思ったが、田村さんがアンジュルムの卒業コンサートで最後にソロで歌った曲らしい(私は覚えていなかった)。当時の情景がフラッシュバックしたのだろう。過去の曲で私がいちばん思い出したのは『マリーゴールド』だった。比較的最近だし、田村さん扮するガーベラのキャラクターがとても印象的だった。ミニ・アルバムからは、末満健一さんと和田俊輔さんが制作に参加したという(これらの名前が田村さんのお口から発せられるとヘッズはどよめいた)二曲。初披露。本編中に『無形有形』。正直、韻の安さが耳についた(フリースタイル・バトルで使ったら、そんな簡単な韻ばっか踏んでんじゃねえよと相手ラッパーに揶揄されそう)が、面白い曲ではあると思う。田村さんは緊張したそうで、最初は皆さんの顔が怒ってるように見えたと吐露していた。あともう一曲。アンコール明け。題名は忘れたが、私は小さい頃から歌ってきた、私は歌手になるために生まれてきた、オレにはコレしかねえ的なリリック。

田村芽実ヒストリーというコンセプトから成るセットリストの性質上、自ずとアイドル、ミュージカルにおけるいくつかの役等、彼女が持つ複数の顔を見せてくれるコンサートだった。しかし、今このステージに立つ田村芽実さんはモノホンの歌手でありそれ以外の何でもない。最後には私はそう確信した。彼女は元Hello! Projectメンバーとしてではなく、ミュージカル女優としてではなく、紛れもなくソロの歌手としてステージに立ち、空気を支配していた。

生バンドに生歌。音への没入度が段違い。音だけでも満足できそうだった。実際、途中の何曲かで私は目を瞑って聴き惚れていた。見ようと思えば近距離で田村さんのお姿を目に焼き付けられるのに。心が浄化され、いやらしい気持ちが微塵もなくなって、ただ田村芽実さんの美しいお歌に酔いしれた。脳の疲労を癒す、自律神経によいコンサートだった。ピアノ担当者かつバンドマスターは田村さんのお題を受けて弾いていた即興アレンジがジャズっぽかった。Hello! Projectでは一部のメンバーさんが歌に特化したバースデー・イベントをやっているが、この水準を目指してほしい。経費の問題があるだろうけど、Hello! Projectも昔のBuono!のようにバンドを組み込んだステージを取り入れてほしい。Juice=Juiceでいうと高木紗友希さんや段原瑠々さんには生演奏に乗せたソロ歌唱にチャレンジしてほしい。グループ横断で三~四人くらいの歌姫ユニットを作ってR&B系のアルバムを出してほしい。完全に私の趣味だが。

20時14分、本編終わり。20時36分、全部終わり。20時47分、会場の外に出る。コンサートは最高だったんだけど、私にとって痛恨だったのは買ったばかりで今日はじめて履く靴(THE NORTH FACEの、中綿の入った暖かいやつ)のサイズ選びに失敗したことを公演中の足先の窮屈さで悟ったことだ。一つ上のサイズも試着しておくべきだった。

6月30日(日)に渋谷WWW Xで次のソロ・コンサートが開催されることが発表された。22時から先行受付開始。URLは退出時に全員に配られたチラシに書いてあった。FC会員および今日の来場者限定と言いつつ、URLを打ち込めば誰でも応募できる。転売屋が舌なめずりするのが目に浮かぶ。私はこの方式が好きじゃない。FC先行受付に出来なかった理由は何なのだろうか? 田村さんに詳しくない友人を誘ったら乗ってくれた。22時58分に二人分の申し込みを完了させた。