2021年5月2日日曜日

キャメリア ファイッ!vol.12 キャメリア記念日 (2021-04-23)

太陽が毎日昇ることを祝う人間には、明日という未来は確定していない。人間は、地動説を信じることで、明日という未来を確定させた。知識、情報が増えることで、未来は確定していく。(妹尾武治、『未来は決まっており、自分の意思など存在しない』)

つばきファクトリーさんの結成6周年。(結成日は2015年4月29日。厳密にはこのイヴェントの時点でまだ6年は経っていない。)小学校に入って卒業するまでの期間だ、と岸本ゆめのさんはステージでいつもの真っ直ぐな笑みを浮かべ感慨に浸っていた。もうランドセルじゃなくなっちゃうよ、とメンバーさんの誰が言っていた。小学校と違ってアイドルさんの活動には決まった期間があるわけではない。長く続けたとしても二十五歳くらいが限界だという暗黙の了解がある一方、いつ終わっても不思議ではない。直近だと小片リサさんや高木紗友希さんを見よ。その日は突然やってくる。アイドルさんが何かと結成やデビューの日付を大切にし、記念日として毎年祝うのは理に適っている。その日が次に訪れる保証がないからである。(もちろん運営にとっては商業的な理由も多分にあるだろう。)もし余程のことがない限り十年後も二十年後も同じ活動をしている(=未来が確定している)のであれば、経過年数は事実として、単なる数字として通り過ぎるのみである。一般の労働者が入社日を毎年祝わないのは、生きている限りは労働を続けないといけないと分かっているからだ。

普通、アイドル10年やってらんないでしょ?』(Berryz工房)

アイドルさんの選手生命における6年間は、一般の賃金労働者にとっての20年、30年に相当する。終身刑としての労働生活を送る賃金労働者とは時間の重みが違う。じゃあ何で30歳、40歳になって(少なくとも10代のプレイヤーたちと同じ枠組みの中で)アイドルさんを続けるのが難しいのか。それは我々が熱狂するアイドルというフィクションの核を為すのは少女性であり、少女性はどうしても年齢と関係するからだ。年齢に関係なく本人の意思があればアイドルを続けられるべきだという論は、この視点を欠いている。(それにどうせそういうことを言う人は殆どの場合、応援するメンバーさんが40歳、50歳になっても同じようにお金と時間を費やす覚悟などない。)

アイドルさんがいちばん人間離れした輝きを放てる年齢は、思春期や青年期と呼ばれる、人間が最も多感な時期と重なっている。あれだけの美貌と愛嬌を備え人間的にも擦れたところのないハロー・プロジェクト・メンバーさんたちはミシェル・ウエルベックさんの言う『闘争領域の拡大』の恩恵を受ける側。恋愛とセックスを巡る競争で圧倒的な勝ち組になる資格を有している。普通の(普通というのが本当に存在するかはここでは置いておく)学生生活を送っていれば、上位のスクール・カーストに属し、サッカー部員のような男(高校で多少うまい程度ではどうせプロにすらなれないが…)と交際していたはずだ。しかし彼女たちは公然と彼氏を作りファックし放題の充実した学園生活ではなく、恋人が発覚しようものなら裏切り者として魔女狩りに遭う茨の道を選んだ。同年代の同性異性とワイワイする日々を捨て、下位スクール・カーストのなれの果てである中高年男性を主な顧客層とする産業のプレイヤーであることに若さを捧げている。

生涯未婚率という言葉がある。50歳で一度も結婚経験がない人が社会に占める割合のことだ(天野馨南子、『データで読み解く「生涯独身」社会』)。つまり50歳の時点で一度も結婚できていない人は100%に近い確率で独身のまま生涯を終えることが統計的に分かっている。とはいえ50間近になってとつぜん結婚するのは考えにくい。それなりの過程があるはず。30代、40代でアイドルを追いかけている。その時点で実質的には詰んでいる。一生アイドルのオタクでいることが約束されているようなものだ。つまり、ハロー・プロジェクトのメンバーさんが自由な恋愛とセックスを犠牲にしてアイドルとしての活動をしているのと同様、我々(私)もアイドルを応援することで生涯未婚への快速電車に乗っているのだ。もっともアイドル鑑賞をしていなければ結婚して家庭を作って…というような人生になっていたかというと、それは別問題だ。今よりも幸せだったかというと、それはもっと別問題だ。服の通販サイトでかなり値引きされているのに不思議なくらい無視されて売れない服がたまにある。あなたや私は恋愛市場におけるそれである。しかも我々は値引きされていないし、必死に売ろうともしていない。売り場に出ることさえ諦めている。アイドルという救いがなければ生きていられたかどうか分からない。

蒲田駅。微妙な場所。東京の端。隣が川崎駅。そういえば明日も横浜(日産スタジアムにマリノス対横浜FCさんを観に行く)だった。こっちに泊まってもよかったかもしれない。羽田空港に行くまでの中継地点として二度くらい来た覚えがある。そうそう。2019年9月。札幌遠征前に泊まったカプセル・ホテル。ダニに刺されてまともに眠れなかった。たしかあの建物がそうだよな、とホテル名の塗装が剥げかけた壁を見ながら私は思った。そこから徒歩数分以内にある今日の会場。大田区民ホール・アプリコ。向かいのカフェ・ド・クリエ。レーコー。石井妙子さんの『女帝 小池百合子』を読む。発売当初(2020年5月)から気になっていた。値段がこなれるのを待ちブック・オフで570円で買った。とてつもなく面白い。筆者に一円も還元されない買い方をしてしまったのが申し訳ないくらいの力作。12回目となったつばきファクトリーさんのキャメリア ファイッ! 1回目が16時半、2回目が18時半。両方とも当選したのは少し驚いた。だって席を間引いているし、久しぶりのファンクラブ・イヴェントだからヘッズは飢えているだろうし。

1回目で登壇したつばきファクトリーさんは客席を見、一様にホッとしたような反応を見せていた。何でも彼女たちが出てくる前にステージでちょっとだけ喋っていたさわやか五郎さんに対する我々の拍手を裏で聞いていて、その音からだいぶ観客が少ないのではないかと恐れていたらしい。「皆さん、優しい拍手だったので…」(岸本ゆめのさん)。私がe-Lineupであまり商品を買わなくなったせいかアップフロントさんの厳しい仕打ちは続いており、席は1回目が1階24列、2回目が2階。いずれも日本野鳥の会ばりに双眼鏡を常用しないと楽しめないのが確定していた。私は若干ふてくされてはいたが、VixenアトレックライトBR 6x30WPを構えて小野瑞歩さんをはじめとするうるわしのカメリアたちを追いかけると、すぐに口角が上がった。

だが、最初のセグメントのつまらなさと言ったらなかった。オタク引退が頭をよぎった。来場者から募っていたらしい(私はまずそれを知らなかった)つばきファクトリーさんのこれまでに関する(もしくはちなんだ)クイズにメンバーさんが答えていく。たとえば、低温火傷になるのは最低何度でしょう。正解は44度。他には、岸本ゆめのさんにゆめぴっぴというニック・ネームが出来たのは何年何月何日のブログでしょう、とか。メンバーさんが当てずっぽうで数字や日付を答える。もっと後、もっと前、と正答に導いていくかさわやか五郎さん。ひたすら数字を刻んで連呼していくメンバーさん。私は平日にわざわざ労働を調整して、コレを観に来たのか? 面白くなるヴィジョンが見えなかった。

次のセグメントはとてもよかった。前にJuice=Juiceさんのファンクラブ・イヴェントで似たのがあった。違法に投稿された動画で観たことがある。“Juice=Juice FCイベント2019~メリクリxJuicexBoxIV~”だ。それを参考にしたのかもしれない。メンバーさんの誰かが誰かを表彰し、賞を貰ったメンバーさんがそれにちなんだ曲を1ヴァースだけキックするという内容。たとえば、岸本ゆめのさんは新沼希空さんを表彰。同じ年代の女の子が集まっているので争いが起きがちだが、いつも仲裁し平和をもたらしてくれるのが新沼さんなのだという。曲が『この地球の平和を本気で願ってるんだよ!』。歌詞カードを見ながらの緩めの歌唱。後ろで自由に踊ったり手拍子を促したりのメンバーさんたち。平時のハロ・コンのひな壇のようで、幸せな光景だった。セグメントを通しテキツーな感じで身体を揺らす左側の年長組(山岸理子さん、新沼希空さん、谷本安美さん)、割とガチめに踊る年少組(特に浅倉樹々さん)のコントラストが可笑しかった。小野瑞歩さんがダンスマシーン的な賞の名前を発表すると「やばい私だ」と谷本安美さんが言っていたが特に誰も突っ込まなかった(言うまでもないが受賞したのは秋山眞緒さん)。

ミニ・コンサート。それまで無邪気にはしゃいでいたメンバーさんが一転、フォーメーションを作ってスッと真顔になる、スイッチが入る感じ。カッコよくて私は好きだ。このために訓練された集団。曲順は正確に覚えていないが、『抱きしめられてみたい』、“My Darling~Do you love me?~”、『低温火傷』、『笑って』、『三回目のデート神話』。あと一曲あったはず。計6曲。小片リサさんの退団から時間が空いたせいか、もう私はこのラインは本来リサchanが歌っていたんだよな…的なことを感じなくなってしまった。私は“My Darling~Do you love me?~”を音源で聴いてそこまで強い印象は受けていなかったんだけど、こうやってステージで歌って踊るつばきファクトリーさんの視覚的な要素と合わさると一気に魅力が増す。17時36分頃に終演。

半休を取得し名古屋方面から蒲田にお越しになったホーミー、森川さん(仮名)と合流。彼は2回目だけに入り、一泊するのだという。18時半の開演まであまり時間はないのだが、周囲の飲食店は軒並み20時に閉店するため、夕食をご一緒するなら今しかない。会場近くのソルマリに入る。新大久保にあるリアルなネパール料理店の支店なので安心していたが、変なローカライゼーションを施していた。許せないことにチリ・モモの中にチーズを入れてやがる。気持ち悪い。正月のハロ・コンで買った為永幸音さんのアンオフィシャル・フォトグラフを進呈。『競艇と暴力団「八百長レーサー」の告白』(西川昌希さん)をいただく。もっとゆっくりしたかったが、致し方なし。

2回目の公演は、のっけから1回目よりもメンバーさんの熱量があった。そんなもん。昼公演よりも夜公演の方が演者も客も乗っているという、よくある現象。公演を通して、小野瑞歩さんのトレードマークである弾けた笑顔を何度も目に焼き付けることが出来た。

最初のつまらないクイズ・セグメントの内容は何も思い出せないが、最も正答数が多かったのはさっきの回も今回も小野瑞歩さんだった(1回目では浅倉樹々さんと同率一位)。セグメントの冒頭で前と同じように一番になると宣言していた小野さん。有言実行の小野ですから、と胸を張った。

表彰からの1ヴァースをキックするセグメントでは、演出上、ちょっとした変化があった。1回目では、賞の名前を言ってから受賞者にスポットライトを当てるという順序だったが、今回は先に受賞者にスポットライトを当てて、後から賞の内容を発表するという順序に変わっていた。フットボールでハーフ・タイム中に戦術的な調整を行うように、1回目と2回目の間に裏方やメンバーさんが話し合ってやり方を変えたのだろうか。と思ったら、3人目くらいからまた1回目のやり方に戻った。あれは何だったのだろう。最後(発表者が誰だったか忘れた)は、あなたは熱い的な賞。受賞者が誰かは二重に自明だった。第一に、1回目の公演から一人ずつ受賞していき、残っているのが岸本ゆめのさんしかいない。第二に、つばきファクトリーさんで熱いと言えば岸本ゆめのさんしかいない。のだが、なぜか浅倉樹々さんに当たるスポットライト。違うでしょ、私ですよ、と照明担当者さんの方向を指さして抗議する岸本ゆめのさん。照明担当者さんの単なるポカなのか、意図的なボケなのか分からないが、笑いが起きて場内は盛り上がった。

セットリストは1回目と比べて2曲が入れ替わっていた。“My Darling~Do you love me?~”→『恋のUFOキャッチャー』。『三回目のデート神話』→『純情cm(センチメートル)』。

このイヴェントで採用された、メンバーさんの身体の大部分を覆うカーテンのような衣装はイケていなかった(新沼希空さんだけはチャイナ・ドレス感があって幾分かマシだった。また浅倉樹々さんのヒップ・ラインは見事だった)。今日の私が席に恵まれなくても悔しくならなかった理由は、衣装にある。どうしてももっと近くで観たいと思うほど肌が出ていなかった。年齢的にも、肌は出し惜しみせず見せていかないと。布面積の少なさで勝負する℃-uteさんの精神をちゃんと受け継いでほしい。江ノ島デートという原罪。小片リサさんがInstagramにドロップしてきた愚痴の数々。もう純真無垢では済まない。女性としての魅力はどんどん増し、いま雑巾掛けレースを収録したら円盤に年齢制限がかかりかねないこの集団が、今更ロング・ドレスを着て私たち清楚ですみたいなのはもう無理なんだから。もし予算の問題でアレになったのであれば、過去のシングルのを使い回してもよかったんじゃないの?

終演後、森川さんと公園でチル。彼は缶コーヒー、私は炭酸水。これ以上飲むとバッド入るんで…とコンビニでアルコールを避ける森川さん。身体に気を付けているんですかと聞いたところ、煙草を吸うことで飲酒欲が低下したとのこと。あまり書くと後にドロップされるかもしれない彼の創作物のネタばれになってしまうが、公演の直後に森川さんが残したフレッシュな感想をいくつか記録しておきたい。

  • 小野さんのおっぱいがよかったですね
  • Saoriが元気なかったですね。生なのカナ?
  • 『恋のUFOキャッチャー』はこの動き(手を上下に動かす)がアレ(手コキっぽい)ですよね