2022年10月10日月曜日

ヘアスプレー (2022-10-01)

『ヘアスプレー』の田村芽実ファンクラブ先行受付の時点で、明治安田生命J1リーグの後半日程の詳細が確定していなかった。この週末にアウェーの名古屋グランパス戦があることは分かっていたが、土日のどっちなのか、何時に始まるのか、それは7月29日(金)まで分からなかった。今Gmailで検索したら私が『ヘアスプレー』のチケットを申し込んだのが1月23日(水)だった。半年以上経つまでマリノスの試合と『ヘアスプレー』のどの公演が被るのかが分からなかった。被らないよう祈りながら申し込んだのが10月1日(土)の夜公演。18時開演。7月29日(金)に発表された明治安田生命J1リーグの後半日程。マリノスの試合は同じ日の16時キックオフ。重複は免れた。けど本当にギリギリ。試合が終わるか終わらないかくらいにミュージカルが始まる。Fire HD10をバックパックに入れて出かける。出先でDAZNを観るために購入した。iPhone SE (2nd generation) ではさすがに物足りないとずっと思っていた。10.1インチの画面だと、そりゃ大迫力というわけにはいかないけど、手元に置いてフットボールを観る分にはまあ十分。

サテン→ストリート→東京建物ブリリア・ホール前の広場→入場列→座席と場所を変えてFire HD10で名古屋グランパス対横浜F・マリノスを観た。これがこれが本当に素晴らしくて。久し振りにマリノスらしい、心底スカッとする試合。4対0でマリノスが勝ったけど、もっと点が入ってもおかしくはなかった。水沼宏太さんはハット・トリックのチャンスを3回逃した。後半アディショナル・タイム、最後の最後に藤田譲瑠チマさんが右足を振り抜いてとどめの4点目を決めたときは思わず笑ってしまった。そのまま試合終了。川崎には引き分けて、マリノスには0-4で負けてくれる。名古屋様々である。現地観戦されていた森川さん(名古屋ファンとして最近明治安田生命J1リーグを観るようになった)に強いマリノスをお見せすることが出来てよかった。イヤフォンを外し、Fire HD10をバックパックに仕舞い、数分後に『ヘアスプレー』が開演。さすがにね、この短時間では気持ちを切り替えることが出来なくて。どうしても試合の余韻が残ってしまって。序盤は試合の場面が頭に浮かび、劇に集中できなかった。ステージに近い席(F列の右側)だったので勿体なかったが、仕方がない。試合を観ないわけにもいかなかったし。もちろんずっと気が散っていたわけではなく、少し時間がたつと私は『ヘアスプレー』の世界に入り込んでいた。

観るのが2回目だったのと、席がステージに近かったのとで、1回目とはまた違う見方、楽しみ方が出来た。コロコロ変わるアンバーの表情。テレビ番組の出演中、コマーシャルから本番に戻る瞬間に急にスイッチを入れて過剰なまでにニコニコのぶりっ子になる感じとか、トレイシーに皆の注目を奪われたときの呆気に取られたような、焦ったような反応。「いじわるアンバー」という情報をあらかじめ入れていたのもあって、先週に初めて観劇したときはとにかくアンバーの意地悪さが目に付いた。でも今日2回目を観て、それだけじゃなくチャーミングでコミカルな面も大いにあるな、と。アンバーの新しい魅力に気付くことが出来た。終盤にミス・ティーンエイジ・ヘアスプレーのコンテストでトレイシーに逆転され、アンバーが失神する場面。このときしばらくアンバー(めいめい)がステージの(こちらから見て)右側の椅子に座っている。私の席が右側だったので、このときのアンバーを細かく観ることが出来た。朦朧としていた意識を徐々に取り戻し、呆然とし、ステージ中央でトレイシーが主役になっている現実を受け入れられずに首を振り、顔を歪めて泣く。一連の表現が可笑しく、可愛かった。この場面で差し出されるのがウィルキンソンのジンジャー・エールだったというのは前に書いた。今日、F列から双眼鏡で見て、瓶の逆三角形がエンジ色だったので辛口の方だと特定できた。私が不思議に思っているのが、気を失った相手に差し出すのがなぜ水ではなくジンジャー・エールなのだろうかという点。意識がはっきりしていない状態であんな強い炭酸を口に入れたらむせてしまいそうなものだ。もしかするとアメリカの文化ではジンジャー・エールが気付け薬のような位置づけなのだろうか?

これから列毎に規制退場を行いますという係員の声が場内に流れても鳴り止まない拍手。幕を再度上げての演者さんたち再登場。最後に残った渡辺直美さんが身振りで拍手をやめさせ「帰って」と言い、ドッと笑いが起きて終幕。(と思っていたが、後で渡辺氏がインスタグラムで補足したところによると「気を付けて帰って」と言っていたのを、最後の「帰って」だけマイクロフォンが拾ったらしい。)

それにしても今日に限らずコンサート、ミュージカル、特典会などに動員される係員という職種。客全員に無視されながら、ざわざわと楽しく賑わっている客席に向けて「感染拡大防止のためお喋りはお控えください」とか、ほぼ全員が屋外でもマスクを常につけて感染拡大している国で「感染拡大防止のためマスクを鼻まで上げてつけてください」とかの与えられた文を大声で読み上げる仕事。思考力があったら頭が狂うはず。あんなことをやり続けているのでは、年齢が若くても実質的にシルバー人材だと思う。最近、静かな退職(quiet quitting)という言葉をTwitterで見たが、彼らは職選びの時点でそれを実現させている。資本主義の苛烈な労働市場に対する一種の抵抗である。私は彼らを軽蔑すると同時に羨んでいる。今の私は彼らよりも高い給料を貰っている。それでも私は(係員になりたいという意味ではなく、大きな意味で)彼ら側の世界に入りたい、シルバー人材になりたいという願望を隠しきることが出来ない。シルバー人材的な仕事で最低限の衣食住と安定を確保した上で、必要や興味に応じて色々なことを経験してみたい。次に転職をするときには、それが私が目指すべき方向性なのかもしれない。