2017年10月29日日曜日

Beyond the Beyond (2017-10-22)

軽い気持ちで申し込み、重い腰を上げて家を出た。台風が接近している。今日の未明から明朝にかけて関東地方を通過するという予報だ。強くなっていく雨。近場で夕飯を済ませるかスーパーで食材を買ってきて、家でゆっくりインターネット、読書、Blu-rayやDVDの鑑賞でもしているべきである。でも私は持っている。山梨県の甲府CONVICTIONで18時半に始まるコンサートのチケットを。Juice=Juiceが山梨、石川、香川、和歌山、大分、佐賀の順にライブハウス(和製英語)を回るツアーの、今日が初日である。ファンクラブ先行受付で、私は山梨の2公演だけを申し込んだ。もっと観たかったのは言うまでもないが、遠い場所が多すぎる。今年は5回も遠征をしているので、宿泊を要する土地は避けたかった。費用的に。私のJALマイレージバンクには九州の往復が出来るだけのマイルがまだ残っているが、それは後に取っておきたい。甲府公演の昼公演は外れて、夜が当選した。残念だが、私がこのツアーに入るのは1回だけだ。番号は結構よかった。69番。甲府は地図で見ると近かったし、ジョルダンで検索したら日帰りで行けそうだった。申し込むときにはちゃんと見ていなかったが、交通費が片道で4,000円くらいかかる。山梨ごときに往復で8,000円も払わないといけない理不尽さ。無駄に高い交通費をかけて、台風が近づく中、わざわざ山梨まで行くのは気が進まなかった。しかもTwitterを眺めていたらある方が甲府CONVICTIONはクソ会場だと言っていた。いっそのこと延期になってくれないかとすら思ったが、当日の昼に更新されたJuice=Juiceメンバーのブログには台風のたの字も出てこない。コンサートを楽しもうという思いが伝わってきた(「たの字も」、「楽しも」で韻を踏んでいる)。

池袋の「千里香」で昼飯。定食はやっていない。焼きそばを注文した。串焼きを頼もうとしたが、5本からしか頼めないと言ってきた。ケチくさいシステムだ。普通は2本からだし、1本で頼める店もあるよ。私はもうジジイだし、5本も食えないので諦めた。ピーナッツともやしと大根のつまみが支給された(頼まなくても全員に配られるようだ)。あてがあるのに酒を飲まないのもなんなので、焼酎を追加した。焼きそばは上げ底の逆で、見た目よりもたくさん入っていた。味はパンチが足りなかった。山手線で新宿。中央線プラットフォームの発券機で甲府行きの自由席特急券を買う。1,340円。指定席でもよかったのだが、ここでは指定券が買えなさそうだった。自由席で座れたし、最後まで隣に乗客は来なかった。甲府で2両編成の身延線に乗り換える。15時すぎに南甲府駅に着いた。この駅は、というか身延線では、ICカードが使えない。駅員さんに申し出る必要がある。「池袋からパスモで来たんですけど…」という自分の口から発せられた言葉を聞いて、何で池袋から南甲府に来たんだという疑問が拭えなかった。運賃を現金で支払った。「ICカード処理連絡票」というのを渡された。ICカードが使える駅でこれを見せて、パスモの処理をしてもらってくれ、一番近いのは甲府駅だ、とのこと。とても感じのいい紳士だった。

雨は降っているが、風は普通。問題なく傘が差せる。昼公演(15時開演)の最中なのもあって、甲府CONVICTION前の物販には誰も並んでいなかった。係の女性はスチロール容器に入ったほうとうのような麺を食らっていた。私が現れると、面食らっていた。「すみませんね、食事中に」と私が愛想を振りまくと、彼女は特に返事もせず淡々と私の注文をさばいた。いや、別にそれでいいんだけど。宮崎由加さん、宮本佳林さん、高木紗友希さんの日替わり写真と、コレクション生写真を4枚買った。日替わりは誰のも売り切れていなかった。15時26分。近くのオギノというスーパーマーケットに入った。中の書店に併設されている喫茶店でアイス・コーヒーを飲んだ。コレクション生写真を開けた。宮本佳林さん、高木紗友希さん、段原瑠々さん、梁川奈々美さんだった。当然のように宮崎由加さんはいない。コレクションものを買って自分の一推しのが当たるのは稀である。18時開場、18時半開演で、終わったらまっすぐに帰らないといけないので、夕飯は事前に食べることにした。17時すぎに会場のすぐ横にある喫茶店あさげに入って、ハンバーグ定食を頼んだ。子供の頃に好きだったハンバーグの味だった。後から入ってきたオタクさんご一行が店内を見渡して「ここはオタが一人もいないな」と言っていた(近くにマクドナルドがあって、おそらく皆さんそちらに行かれている)ので、私がオタクではないことが証明された。いい歳をした大人が、(マクドナルドならまだしも)静かな個人経営の喫茶店で「佳林ちゃんが…」「あーりーが…」などと盛り上がっているのは同類ながらキモかったし、ヒヤヒヤした。公共の場ではアイドルさんのことを名字にさん付けで言及するべきである。あたかも職場の同僚の話でもするかのように。

甲府CONVICTIONは入場前に500円で荷物を預けられる。これが出来る会場は少ない。助かる。傘と宮崎Tシャツを手に持って、チケットとお金をポケットに入れて、カバンを預ける。傘は建物に入るところにあった傘立てに差した。盗まれるかもしれないと思ったが、そのときはそのときだと腹を括った。69番でどれくらいの位置を取れるのか楽しみだったが、入ってみると既に感覚的に半分くらい埋まっていた。これはキツい会場だ。左が女性エリア。右端に行っても大勢は変わらなさそうだったので、真ん中ら辺に立った。(最前の右側に三大迷惑マサイで有名な紳士がいることに後から気が付いた。右に行かなくてよかった。)私の後に入ってきた人たちが、70番台でこれかよ…と落胆していた。近くの人たちが前方にいる180センチ超の紳士に視線を向けて「あの壁がなければ…」と言っていた。背が高いだけで迷惑がられるのは不憫だが、ライブハウス(和製英語)では前にいる人の身長が見え方に大きく影響するのは事実。ライブハウス(和製英語)はとにかく他の観客との距離が近すぎるのである。後ろの人たちが視界の悪さを嘆きつつも「俺から見えなくてもメンバーから見えればいいや」と発言なさっていた。真ん中はメンバーの視線が来ますからねと彼の仲間が言っていた。

コンサートが始まってから気が付いたが、私が立った位置は「真ん中ら辺」どころではなかった。まんまんなかであった。ゼロの位置だった。こんなドセンターでコンサートを観たのは初めと言っていい。4月1日、福岡の夜公演でも真ん中だったが、あのときは酒を入れすぎていたし、あまりの尿意でそれどころではなかった。中央付近はいつも人が密集しているので、私は普段そこを避けて横(通常は女性エリアが左なので、右)に流れる。今日はどういうわけか混み方が均等だった。しかもコンサートが進んでいくにつれ前の人たちが微妙にずれたことでいい具合に視界が開けた。メンバーがゼロの位置に来たとき、何と足元まで見えた。靴紐が見えた。私とステージとの間に5列くらいあったにも関わらず、である。私は旧約聖書の十戒で海が割れる場面を思い出した。

観る位置によって見え方は変わるというのを理屈では分かっていたが、ここまで異なるのかと驚いた。それくらいにゼロの位置は特別だった。宮本佳林さんの格(cockではない)の違い。公演を通して、ほとんど宮本佳林さんしか目に入らなかった。宮本佳林さんが凄すぎて凄すぎて、それを目の当たりにできるのが幸せすぎて、涙が出てくるのではないかと思った。結局、泣きはせんかったけど、その二歩くらい手前まではいった。圧倒的な自然の美しさに触れたときの、こんなものがこの世に存在しているのかという、あの感覚。トルコで目にした、カッパドキアの大地。インドのマハーバリプラムで目にした、クリシュナのバターボール。甲府CONVICTION、ゼロの位置から目にした、Juice=Juiceの宮本佳林。宮本佳林さんの一挙一動を観ることと歌声を聴くことに集中しすぎて、あんまいオイオイとかフーとか言えなくなった。ゼロの位置から観る宮本佳林さんは、この人だけを見ていればいいという存在だった。私がJuice=Juiceで一番に推しているのは宮崎由加さんであるにも関わらず、公演中の8割以上は宮本佳林さんを観ていた。ダンスにおけるしなやかな身のこなし。曲の展開によって使い分ける細かい表情の変化。それだけでなく、髪の毛の動きや、頭を振ることで変化する前髪までをも表現の道具にしているように見えた。歌を届けるとか、ダンスを見せるとかという技術的な階層を超越して、全身で、宮本佳林という存在そのもので表現している。パフォーマーとして抜きん出ている。

金澤朋子さんのファンでペンライトを紫に光らせてくれた人がいた(最前にいた三大迷惑マサイで有名な紳士のことかもしれない)、と宮本佳林さん。そういうファンを「浮気者」と称しつつ、「他の子のファンが浮気したくなっちゃうくらい、魅力的な女の子になりたい」と続けた。

最後のコメントで「私は皆さんの足が心配ですよ」と我々を気遣う宮本佳林さん。観客から、関西は帰れないという声。唖然とするJuice=Juice。事態を理解していなさそうな植村あかりさんが隣(我々から観て右)の梁川奈々美さんに聞いて、梁川さんが答えていた。私の想像だが、「帰れないってどういうこと?」「台風で電車が止まって…」というようなやり取りをしていたのではないか。そこで宮本佳林さんが発した言葉が、「帰ることよりも、家で寝ることよりも、私たちに会いに来ることを優先してくれるJuice=Juiceファミリーの皆さんが大好きです」だった。ここに来てよかったと私は思った。打ちのめされた。このツアーを、最低でも14公演は観たかった。

その他
・セットリストが最高だったNEXT ONEツアー以来に、『この世界は捨てたもんじゃない』『銀色のテレパシー』の両方を聴けて嬉しかった。(『この世界は捨てたもんじゃない』はSeven Horizonツアーでもやっていた。二曲とも聴けたのはNEXT ONE以来。)これらの曲や、まだ私が聴いたことがないハバグッダイ的な題の曲を網羅したセカンド・アルバムを早くリリースしてほしい。
・『続いていくSTORY』は昨年11月の武道館ぶりだったんじゃないかな。来月の武道館まで取っておくのかと思っていた。
・このツアーは衣装が至高だ。初めはど派手な、複数柄の組み合わせ。第二形態はそこから下を脱いで、第三形態で上を脱ぐ。ステージ上で脱ぐのがいい。脱ぎ方がまた我々をエクサイトさせる。中にはお腹を出した黒の上下。段原瑠々さんだけ、おへそがちらっと見える。アンコール明けでは下がそのままで、上にはアレンジしたツアーTシャツ。金澤朋子さんがえりを付けていた。高木紗友希さんはいつものようにデコルテを出していた。いつも積極的にデコルテを見せてくれてありがたい。
・段原瑠々さん+梁川奈々美さんのトーク・セグメント。どうやら回替わりで先輩メンバーが一人登場するようだ。この夜公演は宮本佳林さん。ロンドンに滞在中、段原さんが宮本さんとお揃いのパーカーを買った。同じ袋を持っていたら、梁川さんが「へー、お揃いなんだ…」と分かりやすく拗ねた。その代わりに梁川さんはパリで宮本さんとお揃いのリップを購入した。これからも他のメンバーともお揃いの物を買って、絆を深めていきたいという梁川さん。
・段原さん+梁川さんのトークに合流するや否や「その前に金澤朋子!」と金澤さんを呼び出す宮本さん。その前の曲中で金澤さんが水を蹴ってステージにこぼしたらしい。滑りそうになったと興奮気味に苦情をまくし立てる宮本さん。平謝りの金澤さん。「甲府CONVICTIONのスタッフさんに謝れ!」と宮本さん。本当にすみませんと頭を下げて、しゃがんで水を拭いてから捌ける金澤さん。
・“Magic of Love”でお馴染みとなった「ここだよ朋子!」の直前に「せーの」という掛け声を大勢の人が叫んでいて、それ自体が一つの集合的なチャントのようになっていた。「ここだよ朋子!」の音量に驚くようなおどけた顔の植村あかりさん、嬉しそうな金澤朋子さん。
・段原瑠々さんが歌い終える度に漏らす息。マイケル・ジャクソン的な。個性として残してほしい。
・「いちばん前の人は分かったかもしれないけど」、と脚にあざが出来たことを話す高木紗友希さん。コタツのテーブルを設置する際に出来たという。「今は痛くないので心配しないで」
・梁川奈々美さんは今日の髪型を宮崎由加さんに作ってもらった。昼はポニー・テール。夜は横に流したテール。
・梁川奈々美さんの歌にはまだまだ向上の余地がある。まだJuice=Juiceの水準ではない。
・“Fiesta! Fiesta!”のフックを歌う人がちらほらいたので、私もそれに乗っかった。ハロ!ステかアプカミか、どっちかは忘れたがインターネットで公開されたメキシコ公演における現地の観客のオマージュである。めっちゃ楽しかった。最後のコメントでそれが嬉しかったと述べた段原瑠々さん。「メキシコで皆さんが歌ってくださって…それを再現してくださったんですよね?」
・植村あかりさん曰く、髪型をハーフ・アップにしたところ“Fiesta! Fiesta!”の「情熱を解き放て」で本気で頭を振り乱すことが出来た。「いつも本気ですよ」。でもこれまでに比べて髪が広がらなくなったのでやりやすくなった。
・終演直後、近くの紳士が「やなみんがMCでカントリーのときより楽しそうにイキイキしているのを見てつらかった。ゲロ吐きそうだった」とおっしゃっていた。私は意味が分からなかったが、各人が見てきたものによってそれぞれ思うところがあるんだろうなとは思った。
・高速握手で植村あかりさんが感じのいい笑顔をくださった。植村さんは怖い時期もあったが最近はいつも感じがいい。
・会場を出ると雨は弱まっていた(傘は残っていた)。甲府駅までは問題なく行けたが、特急は運休。30分くらい待って、各駅で帰った。途中で梁川という駅に止まった。家に帰ったのは日付が変わって0時22分。山梨県は地図で見るよりも遠かった。