2019年12月30日月曜日

JAPAN TOUR 2019 "SPECTRUM” (2019-12-15)

近くのテーブル。完全に中年紳士の見た目の人から完全に中年淑女の声が出ていて、認知的不協和で何度も見てしまった。オジサンのようなオバサン。オバサンのようなオジサン。どっちだ。おそらく前者。人間は壮年期以降、性ホルモンが低下し、男女の境目が曖昧になってくる。横浜の飲食店と言えば、読者諸兄は私がどこにいるかを分かってもらえると思う。万が一、分からなかったら当ブログの全記事を全文読破してからココに戻って来てほしい。この文をあなたが読んでいるということはお店の名前が分かっているということだからあえて書かない。そう、あのハンバーグ・ステーキ店だ。またかよって自分でも思うが、横浜に来てココに来ない手はない。10時59分に整理券をゲトッて、ダブル・ハンバーグ・ステーキが目の前に運ばれてきたのが12時半。同じ階のスタ・バでコーヒーを飲んで待った。食後にもコーヒーを飲んだ。

本当にこの席で正しいのか? こんな場所をいただいちゃっていいのか?不安になった。前日にセブン・イレブンさんで発券したチケットに記載された席は、1階C5列25番。C5って何だ。前にAブロックとBブロックがあるのか。ということはだいぶ後ろの方なのか。この間の清水公演がさ、S席なのに二階だったから、あんまり期待していなかった。ネットで座席を調べたらどうやら前から5列目? でも半信半疑だった。実際に席に着いた時点でさえ。だってめちゃくちゃいい席だったからね。上原ひろみさんの超絶的なピアノ演奏をこの距離で堪能できる機会なんて、もしかするともう二度とないかもしれない。いや、生きている間にもう一度、二度くらいはあると信じたい。築き上げる新時代(踏み尽くされた韻)。

横浜みなとみらい大ホール。みなとみらい駅に直結。近くのパシフィコ横浜には何度か来たことがある。℃-uteさんとか、モーニング娘。さんとかで。今日の会場は初めて。それもそのはず。会場の壁に貼ってある公演予定のチラシを見たらさ、クラシックとかそんなんばっか。入場時に配布されたアンケートには、今後さらに取り組んでみたい文化活動はどのようなことですかっていう設問があった。文化活動? まあとにかくアイドルさんのコンサートをやる箱とは毛色が違うんだよね。11月30日(土)に上原ひろみさんのツアーを観に行った静岡市清水文化会館マリナートさんにはJuice=Juiceさんのコンサートで来たこともあった

開演前にその予感はしていたけど、とにかく素晴らしい会場だった。優れた会場は、そこにいるだけでコンサートが始まる前からワクワクしてくる。そういうヴァイブスがある。上原ひろみさんも嬉しそうだった。曰くココには観客として来たことがある。是非うちでコンサートをと誘っていただいた。音響のよいホール。私とピアノの二人だけのコンサート。ピアノが喜んでいるのが分かる。今日はじめの音を出した時点でそれが分かった。期待できそうだねとピアノと話した。音が、こう…(手でカーヴを表す)。カーヴを描いてみなさんに届く感じで。(会場の音響については静岡市清水文化会館マリナートさんのときは何もおっしゃっていなかったんで、まあ…そういうことだよね。)あともうひとり重要なのが、と上原さんが挙げたのが、調律師のヨネザワさん。ピアニスト、ピアノ、調律師は、たとえるならばF1ドライバーとマシンと整備士のような関係。アルバムの調律はヨネザワさん。海外ではそれぞれの国の調律師さんにお願いしているので、アルバムの調律を聴けるのは日本ツアーだけ。

私の席は右側ブロックの通路席だった。上原さんが演奏中、お顔を上げて観客席をご覧になるとき、ちょうど角度的に私のあたりに視線が来る感じだった。だから気が抜けなかった。仏頂面でBGMを聞き流す受け身の観客ではいられなかった。自分がいてもいなくてもつつがなく同じコンサートが進行される、という感じがしないんだ。ちゃんと向こうのクリエイティヴィティにこっちがついて行けているかを試されている感じがするんだ。こっちの集中が切れると上原さんにバレる感じがするんだ。あらゆる興業は、演者と観客が一緒に作り上げるものだ。ジャズのコンサートというのは特にインプロヴィゼーション(即興)の比重が大きいので、こっちが適当な気持ちで聴いているとそれが演奏者さんに伝わって音楽に影響しかねない。自意識過剰だとあなたは笑うかもしれないが、誇張ではない。もちろん、観客は楽器を演奏しているわけではない。でも、アーティストさんのひらめきに気付いて、何かしらの反応(笑顔だったり、歓声だったり、身体を揺らすことだったり)を示すかどうか。それは奏でられる音楽がさらにグルーヴするか、さらに面白くなるかどうかの分岐点だと思う。Hello! Projectにたとえると、音楽そのものに握手会の要素があるというか。

こんな気持ち 初めて(つばきファクトリー、『初恋サンライズ』)

コンサートを観客として観ている、聴いているのではなく、自分が音楽になっている。音楽と自分の境界線が崩れている。コンサートの観客としてこれ以上に幸せな体験があるだろうか。凄まじかった。一生で観てきた中でも最高のコンサートの一つだった。別世界に連れて行かれた。途中で挟まれた20分の休憩時間中、本当に手が震えていた。これまで私は上原さんの最新アルバム“Spectrum”をいま一つ理解できなかったが、この横浜でのコンサート中、急に腑に落ちた感触があった。この難解なアルバムを私は理解したなんて大それたことを言うつもりはないが、少なくとも理解は進んだ。明らかにこれまでとは聞こえ方が違った。だいぶ時間がかかったが、この瞬間が訪れたことが本当に嬉しい。

15時開場、16時開演。18時27分に終演。この後、私は代々木に直行してつばきファクトリーさんのファンクラブ・イベントを観覧する予定だった。でもさ、もういいや。行くのをやめた。時間的には、上原さんのコンサートが終わるや否や小走りで駅に向かって何とか開演ギリギリ、もしくは少し遅れそうなくらいだった。そんなにすぐ気持ちを切り替えるのは無理だった。世界最高峰のピアニストによる絶品の演奏に打ちのめされ、ロビーでボーッとしていると10分くらい過ぎていた。ボーッとしすぎてまったく記憶がないのだが、なぜか蓋を閉めずに水のペットボトルをカバンにしまっていた(少ししか残っていなかったので無視できる程度の被害だったが)。とにかくこの体験は、今日中に別の何かで上書きしてはいけない。記憶をスポイルしたくない。この状態で何を聴いても耳汚しにしかならない。

誤解しないでくれ。つばきファクトリーさんを軽く見ているわけではない。数時間前まではファンクラブ・イベントに行く気満々だったよ。メンバーさんたちが着てくださるエッチなクリスマス衣装をこの目で観るのが楽しみだった。スナイパーのように双眼鏡でひたすら凝視したかった。お金を出してゲトったチケットを紙屑にするのは不本意だ。心残りがないと言えば嘘になる。でもさ、考えてみてくれよ。これだけ素晴らしい会場で、絶好の席で、人生にそう何度とないくらいのクオリティのコンサートを体験したすぐ後に、クソ会場(山野ホール)のクソ席(後ろから二列目)で、二流芸人さん(上々軍団さん)が司会のイベントを観に行くかよ? それも走って焦って向かって、開演ギリギリか開演後に客席に入ってさ。ペコペコしながら席に着いてさ。一生の思い出が台無しでしょ。いくらつばきファクトリーさんを優先するのが基本的な原則とは言っても、この上原ひろみさんのコンサートとつばきファクトリーさんのファンクラブ・イベント三部の一回とでは、さすがに重みが違いすぎる。上原ひろみさんは世界中を周っているのでそう頻繁に日本に来られるわけではない。(横浜でのコンサートは12年振りだという。12年前も来てくださった方? と上原さんが問いかけると数名が挙手。お互い一回り歳を取りましたが、お元気そうで何よりです、と言って笑いを誘っていた。)ソロ・アルバムは十年に一度作るというスタンス(実際に“Spectrum”は“Place to Be”以来、十年振りのソロ・アルバム)だから次の来日がソロのコンサートとは限らない。どちらかが昨日(土曜)だったらよかったんだけど。日程を恨むしかない。

帰ろう 帰ろう 思い出持って 帰ろう また会おう レッツゴー!(つばきファクトリー、『帰ろう レッツゴー!』)

(公演後に貼り出されていたセットリスト。清水のときに書いたように“Place to Be”は他の曲の即興の一部かと思っていた。あまりにもオリジナルとアレンジが違ったので。)

Hiromi
Japan Tour 2019
SPECTRUM

Kaleidoscope
Yellow Wurlizer Blues
Whiteover
MR.C.C.
Blackbird
Spectrum
-----------------------
Once in a Blue Moon
Place to Be
Rhapsody in Various Shades of Blue

Sepia Effect