2019年12月4日水曜日

JAPAN TOUR 2019 "SPECTRUM” (2019-11-30)

体内時計の調整に重要な役割を果たすホルモン、メラトニン。15歳の若年者に比べて50-60歳では生産量が約半減。高齢者が熟睡しづらく早起きで、昼と夜の違いがない平坦な生活になる原因。メラトニン生産量の減少を防ぐには昼間に太陽の光を浴び、夜は明るい光を避ける(参照:古谷彰子、柴田重信、『時間栄養学が明らかにした「食べ方」の法則』)。休日の早朝、ストリートに出ると老紳士、老淑女たちが犬を散歩させている。通勤や通学から解放された現役世代がいないので、老人たちの姿は平日よりも目立つ。老人たち、と書くとまるで私が若者の側に属しているようだが、実際には若者でもない。若者と老人の中間である。加齢に伴うさまざまな心身の変調は、私にとっては他人事ではなくなりつつある。若者や老人といったカテゴリ間の移動はデジタルではない。一年一年、一日一日、一秒一秒、誰しもが少しずつ老化している。メラトニンが生産される量も少しずつ減っていく。私は3週間前からメラトニンのサプリメントを飲み始めた。今のところハッキリした効果は実感していない。そもそも不眠に悩まされていたわけではないのだが。ただ安い(私が飲んでいるのは60日分で400円しない)のでしばらくは続けてみるつもり。日本では製造・販売が認められていないが、個人での輸入は可能。iHerbさんで買える。最近はコエンザイムQ10のサプリメント(DR. MERCOLA LIPOSOMAL CoQ10)を一粒(100mg)昼食後に摂取したところ、寝ても取れなかったしんどさが翌日には解消した。もうそういう世代になってきた。あなたもそうだ。強がるなよ。セブン・イレブンでホット・コーヒーを三つも淹れる白髪の老紳士に若干イラつく。アイス・コーヒー(R)を淹れ、飲みながら駅へ。コレが朝の日課になっている。『ニッポンノD・N・A!』を聴いていたら、岡村美波と大人のみんなにで韻を踏んでいることに気付き感動した。作詞者(野沢トオルさん)が意図していたかどうかは分からない。偶然の可能性が高い。

土曜日。私が早く起きて平日と変わらない時間に家を出たのはメラトニンが減少しているからではない。静岡県の清水に上原ひろみさんのコンサートを観に行くためだ。開演時間の17時に間に合うだけなら朝に出る必要はない。去年の4月に訪問してから忘れられないリアルな店、久松さんでまぐろをいただきたい。それも昼と夜の両方。そして新幹線にムダ金を落としたくない。在来線を利用する。だからこの時間に家を出る必要があった。JR東海道。車窓から見える富士山。窓に張り付いて見ているのは私くらい。地元民たちには日常の風景なので『マジ興味ねぇ』(DJ OASIS feat. K DUB SHINE)のも当然。合計で3時間以上、電車に乗ったが、私は一度も座らなかった。具合が悪いか立ち仕事を終えた後でもないのに電車で席に着きたがる人は、おそらく身体が歪んでいる。整体に通った方がよい。座ってばかりの生活は人間の本来の姿ではない。The Pharcydeさんの“Humboldt Beginnings”を聴く。私はこのドープなグループをJ Dillaさんの“Jay Deelicious”で知った。11時35分に清水駅着。例によってPASMOでそのまま出られない。改札横で駅員さんに精算してもらう。久松さんに直行。給仕を務める老淑女はまだご健在だろうか。少し不安があったが、営業中の札を確認し扉を開けた先には安心する光景があった。海老のように背中の曲がった老淑女は心なしかに来たときよりもお元気そうに見えた。店主の紳士とのヒヤヒヤするコンビは相変わらず。まぐろづくし1,250円+税、たこぶつ500円+税。コレだよコレ、最高のまぐろずし。見た目の時点で既に絶品。久松さんがなければ今日の公演には申し込んでいなかった。清水を訪れたらここは必ず行かなくてはならない。むしろ久松さんに行くために清水に行く価値がある。清水港がすぐ側にあるという土地柄、まぐろを出すお店がいくつもある(私はまだ久松さんにしか行ったことがないが)にもかかわらず駅前のマクドナルドさんに行列を作る人々。

14時から大事な試合。明治安田生命J1リーグ第33節。川崎フロンターレさん対横浜F・マリノス。同時に行われるFC東京さん対浦和レッドダイヤモンズさんの結果によってはマリノスの優勝が決まる。なさそうなwi-fi(まず駅前にチェーン店のカフェすら見当たらない。マクドナルドにはあったかもね)。古めかしいサテンを発見。喫茶きょうばし。営業中。入る。ウインナーコーヒー500円。注文から15分ほどして運ばれてくる。こじゃれた食器。DAZNを起動する。
大変申し訳ございません
予期せぬ問題が発生しております。技術者チームが問題解決に向けて取り組んでおりますので、時間をおいて再度お試しください
65-000-500
映らない。アプリを再起動しても読み込み直しても変わらない。もうキック・オフ数分前。しばらくお待ち出来ないんだよこっちは。TwitterでDAZNで検索すると阿鼻叫喚だった。どの試合も観られなくなっているらしい。よりによって今日このタイミング。大迷惑。幸いにもマリノスの試合はたまたまDAZNのTwitterアカウントでも無料中継がされていた。そっちは観ることが出来た。助かった。NHKでもやっていたらしいが今はテレビを観られる環境ではない。前半をサテンで観た。仲川輝人さんのゴールで1-0。あまり長居しすぎるのも悪いので(客は私だけになっていたが)店を出る。FC東京さん対浦和レッドダイヤモンズさんは、山中亮輔さん(元マリノス)が打ったシュートを林彰洋さんが弾いたこぼれ球をマルティノスさん(元マリノス)が押し込んで浦和レッドダイヤモンズさんが先制、1-0でハーフタイムを迎えたようだ。後半だけのために別の店に入り直すのも何なので(どうせwi-fiもないだろうし)、コンサート会場である静岡市清水文化会館マリナート付近でウロウロしながら後半を観た。こっちは最終的に4-1でマリノスが完勝。ゴールが決まる度に、声を出すのを、飛び跳ねるのを抑えられなかった。向こうの試合はFC東京さんが追い付いて1-1で終了した。優勝チームが決定するのは来週の12月7日(土)に持ち越し。何という巡り合わせか、横浜F・マリノス対FC東京さんの直接対決。マリノスが3点差以内の負けまでならマリノスが優勝。FC東京さんが4点差以上で勝つとFC東京さんの優勝。15年ぶりとなるマリノスのリーグ優勝に向けて最高の状況が整った。チケット完売の日産スタジアム。私は歴史を目撃する準備が出来ている。

静岡市清水文化会館マリナートの入場列で試合終了を見届けた。開場時間は予定されていた16時から10分くらい遅れた。ツアーTシャツをゲトる。黒。Lサイズ。3,000円。一般的な男性用衣服の基準に比べて1サイズくらい小さい。Instagramだったか何かの画像で上原ひろみさんがMサイズを着用されていた。なかなかイカしたデザイン。白も欲しいくらい。Hello! Projectも見習ってほしい。背中にツアー日程を記すくらい基本でしょうが。S席とA席があって、私が購入したのはS席なんだけど、2階の2列目。ステージとの距離を感じる。どこまでがS席だったんだ。いちばん後ろは2階の13列目。そもそもA席は存在したのか? 私の右も左も、Hello! Projectの現場にいても違和感のないヴァイブスの中高年男性。同じ列の右端付近の席にすみませんを連発してわざわざ左から入る、要領の悪すぎる紳士。

上原ひろみさんの演奏に頭を切り替えるのが難しかった。私はまぐろとマリノスで満足してしまった。完全に。試合からもう何時間か空いていれば少しは違っていたかもしれないが、16時まであの試合があって、17時から上原さんのコンサートというのは気持ちを整えるのに十分ではなかった。マリノス優勝への希望でもう胸がいっぱいになっている。気もそぞろになってしまった。上原さんの演奏を聴いてはいるけど、集中できていなかった。夕食は何を食べようかという雑念まで浮かんで来た。しかしコンサートが進むにつれ、徐々にマインドフルな状態になっていった。ただ音楽を聴いているというよりは、徐々に無心になっていく、瞑想的な過程だった。この日、この場所でしか生まれない音楽を皆さんと追い求めていきたい、と上原さんは我々に語り掛けた。まさにそれこそが会場に足を運ぶ醍醐味である。特にジャズというジャンルでは曲そのものが変容する。同じ曲がまったく同じように演奏されるということは基本的に二度とない。後で音源化されるわけでもないので、本当にその場にいた人だけが味わうことを許される。絶対音感でもあれば後で頭の中で再現できるのだろうが、私のような凡人では一度聴いただけでは頭から消え去ってしまう。“Spectrum”のアルバム曲を中心としたセットリスト。私はアルバムに収録されたヴァージョンとの違いを楽しみながら生演奏に耳を澄ませていたが、じゃあどこがどう違ったのかと後になって説明することは出来ない。記憶力も、音楽の知識や語彙も不足している。印象に残っているのは前半の曲でしばらく同じ音を連打し続ける場面と、後半の曲のどれかで即興箇所に“Place to Be”が紛れ込んでいたこと。

私はアルバム“Spectrum”をまだ理解できていない。もっと聴き込まなければならない。上原ひろみさんの音楽はリリースを重ねる度に複雑で難しくなっていっている気がする。10年前のソロ・アルバム“Place to Be”と比べても“SPECTRUM”は展開が入り組んでいて、決してキャッチ―ではない。彼女の作品はどれも一、二回聴いてなるほどねって通り過ぎていい類の音楽ではない。はじめは尖っていて経歴を積むにつれ商業化され大衆に寄っていくというのは分かるんだけど、上原さんの場合はむしろ年月を経てどんどん尖っていっていると思う。我々がついて来られるのか試されている。“Spectrum”を実際に聴いてみてほしいんだけど(ストリーミングにある)、何かのコマーシャルに使いましょう的な分かりやすい曲は一つもないでしょ。

上原さんのトーク概要:三年ぶりの清水。港がすぐそこ。港で演奏をすることはそう多くない。前にあったのがノルウェー北部。平日の19時くらいからだった。地元メディアからの取材申し込み。受諾。終演後に楽屋で話すのかと思っていたら港に連れて行かれカニの船に乗せられた。夜10時くらいだったけど白夜で昼のようだった。カニを持たされてアイ・ラヴ・カニという感じで撮らされた。日本の常識が通用しない海外の珍道中。ここ(清水)ではそんなことはないでしょうけど…アイ・ラヴ・マグロみたいな。今日は近郊から来られた方も多いでしょうけど、魚介などは楽しまれましたか? 私とスタッフ一同はホタテ、アジ・フライ等をバック・ステージで楽しみました。/“Spectrum”は色をテーマにしたアルバム。“Whiteout”は雪の中で書いた。

上原ひろみさんは私の中で田村芽実さんと同じカテゴリー。才能と努力の塊。孤高の表現者。ただ食事に関してはそこまでストイックではなさそうだ。上原さんのInstagramを見るとオタク並の頻度でラーメンを召し上がっている。よくそれで全世界を飛び回り強度の高い公演をこなし続ける体力と集中力が持つものだ。もし上原さんが栄養の管理も徹底していたなら、彼女が産み落とす音楽は変わっていたのだろうか? 18時3分から20分の休憩。カーテン・コール後に一曲。19時21分に終演。夕食は再び久松さん。私が昼にも入ったのをまったく覚えている様子のない老淑女が、まぐろがおいしいですよと薦めてくる。まぐろづくし(特上)2,200円+税と焼酎のお湯割り。アジ・フライも食べたくてうずうずしたが、お腹の満たされ具合を冷静に判断し我慢。エラい。新幹線を使って帰った場合とカプセルに泊まって在来線で帰った場合で値段がほとんど変わらない。明日も休みだからゆっくりしていく。一年半前に利用した東静岡の時之栖 松之湯さんを再訪。ここはお風呂が素晴らしい。今日は久松さんのドープなまぐろ、そして何よりマリノスの優勝が懸かる試合が直前にあったという特殊な状況によって、コンサートよりもそれに付随する諸々が楽しかった。久松さんでまぐろを食べて時之栖 松之湯さんで一泊して帰るというパターンはコンサートがないときにまたやりたいくらいに気に入った(これを書きながら思ったが来年はアウェーの清水エスパルスさん戦を観に来るのもいいかもしれない)。何が目的なのか分からなくなってくるが、すべてを目的合理的に執り行うだけではつまらない。計画は必要だが、即興、逸脱、寄り道を楽しみたい。まるでジャズのように。