2023年12月27日水曜日

上原ひろみ Hiromi’s Sonicwonder JAPAN TOUR 2023 “Sonicwonderland” (2023-12-21)

毎朝モーター・サイクルのエンジンを爆音で入念にふかしてから出かける近隣住民。家のすぐ前にあるゴミ捨て場にゴミを捨てる音。特に火曜日、ビン・缶の日。時間を問わず常に行き交う人々と自動車。ときおり発生する異常者のわめき声。通報を受けて車と自転車で駆けつけるポーの物音と話し声。深夜早朝にその辺でえずく紳士。この町に越してきて一年半。知らず知らず妨害されてきた睡眠。だましだましやり過ごすのはやめるべきだと考えるようになった。耳栓をつけて寝るようにしたら上記の音がどれも気にならなくなった。最初に使った耳栓は何時間もつけると痛みやかゆみが出てきた。MOLDEXのメテオというモデルに変えてみたところ、その問題がなくなった。12時間くらいつけても違和感はない。ひょうたんのようにくぼんだ形なので、耳への負担が少ない。MOLDEXの他のモデルに比べると遮音性は低いものの、睡眠中に上述の騒音から逃れるには十分である。200ペアをアマゾンの定期便に追加した。難点はアラームもほとんど聞こえなくなることであるが、私がアラームをかけることは稀なため問題はない。私にとって耳栓をするのと音楽を聴くのはある意味で同じ行為である。世の中の聞きたくない音を遮断しているのだ。

仕事の状況が落ち着いている。16時半に在宅業務を切り上げて有楽町に向かう。公演の前に軽く一杯ひっかけた方がいいのではないかと思っていた。理由は前回の記事を読んでもらえれば察してもらえるはずだ。客席のヴァイブスがあのときの再現になるならアルコールでも入れておかないと飲まれてしまうだろう。しかし考えた結果、お酒は我慢した。お酒は昨日飲んだし、明日も飲むからだ。昨日は会社の忘年会。生ビールをグラス2杯、赤ワインを3杯くらい。明日は前の会社で仲がよかった同期二人と忘年会。(池袋ナンバー・ワンの中国料理店、太陽城。)いわゆる町中華と呼ばれる日式の中華料理店に入った。多くを期待できないのは承知の上。有楽町駅のすぐ近く。JPY850だかJPY880だかで定食を出している。周囲を散策してもめぼしい店もない。中途半端にJPY2,000だのJPY3,000だの払うよりはココでおとなしく定食を頼んだほうがいいだろう。卵とキクラゲ炒め。見事なまでに期待を寸分も上回らず、下回りもしない。コレはコレでひとつの芸当と言える。

思い返す、2週間前。同じ会場。国際フォーラム Aホール。来場者の大多数を占める、羊のような客たち。それが今日は一転して大熱狂するとは考えにくい。その羊たちの群れから脱することが出来ない自分のふがいなさ。また同じ悔しさを繰り返すことになるのだろうか。そもそも水曜、金曜と忘年会があって、日曜日にはめいめいのミュージカルを観に行く。そして上原ひろみさんに関してはまた28日にコンサートを観に行く。このツアーとは別の公演だが。今日の自分がそこまでコンサートを欲しているわけではない。チケットを誰かが買い取ってくれるなら売ってもいいくらいのモチベーション。若干ダルいなと思いながら会場に向かい、席に着いた。今日は12列目の右側。19列目だった前回よりはステージに近づいた。距離としては渋谷のときと同じくらいだろうか。今回も左が男女カップルだ。開演し、ステージに現れる上原ひろみさん、アドリアン・フェローさん(ベース)、ジーン・コイさん(ドラムス)、アダム・オファリル(トランペット)さん。感情のこもらない拍手で迎える私。始まる一曲目。はいはい“Wanted”ね。とそこまでは気分の高揚がなく、醒めていた。

不思議なもので、そこから大きく巻き返した。客席のヴァイブスは2週間前と大きくは変わらなかった(でも声を出している人は前よりも多かったかな?)。良くも悪くもインテンシティの高くない人たちも多く観に来ている。良くも悪くも、と書いたのは良い点もあると気づいたからだ。私と同じ列に、小さな娘さんとその母親らしき淑女の二人組がいた。たしかにこういう層が来やすい場として、着席会場での公演には意味がある。彼女らに渋谷のスタンディングは難しい。客席にいる少年・少女の中に将来の上原ひろみさんがいるかもしれない。視界に入る観衆を見て、おかしいなと思うことはあった。だってこのバンドの音楽は曲によっては本当に激しいダンス・ミュージック。着席とはいえほぼ全員が刑務所の慰問コンサートよろしく微動だにせず聴いているのは不可解。とはいえさほど気にならなかった。周りがどうこうではなく自分が如何に楽しむかに意識を集中できた。要因として第一に、12月7日(木)に同じツアーを同じ会場で観て、雰囲気を掴めていたこと。分かっていたので一から失望することはない。それを踏まえた上で自分がどう振る舞うかに頭を切り替えられた。あの一回目があったからこそ今日の二回目をココまで楽しむことが出来た。12月7日(木)の一回だけなら消化不良で終わっていた。第二に、昨日の飲酒による睡眠の浅さ。耳栓の効果もあってよく眠れたつもりだった。中途覚醒もしなかった。でも睡眠の質は低かったのだろう。この時間に眠気が来ている。ただ、今日に関してはそれがいい方向に作用した。眠いけど居眠りしてしまうほどではない。ほどよいけだるさ。雑念なしに、無駄に考えることなく音の世界に浸ることが出来た。素晴らしいツアー千秋楽を全力で楽しむことが出来た。

同じバンド、同じツアー、同じ会場、同じ開演時間、同じ曲目。なのに2週間前に聴いたのとぜんぜん違う。分かっていたつもりだが、頭のどこかにまた同じコンサートを観に行っているという考えがあった。それは間違っていた。すべてのコンサートが本当に別物。そのときだけの奇跡。二度と再現されることはない。いつ行っても同じ60-70点を提供する町中華とは違って、どの公演でもそのとき限りの100点を叩き出す。それが上原ひろみさんのコンサート。彼女のプレイはいつになく激しかった。前回も素晴らしかったけど、ひときわ情熱的で、幾度となく感情を揺さぶられた。アドリアン・フェローさんによる圧巻のベース・ソロも印象的だった。私は前回より何段階か感情を解放することが出来た。フー!とYeah!を何度もやった。歓声を浴びせる観客には大別してフー!オジサンとYeah!オジサンがいる。フー!オジサンは基本的にフー!しか言わない。Yeah!オジサンは基本的にYeah!しか言わない。私はフー!オジサンとYeah!オジサンを兼ねるポリバレントな選手としてコンサートのヴァイブスを高めた。その貢献度たるや2022年の横浜F・マリノスでセンター・バックとボランチを兼任した岩田智輝さん(現・セルティックFC)の如くであった。もっとも別に歓声がフー!かYeah!である必要はなく、本当はたとえばすげー!とか見事だ!とか何でもその場で思ったことをそれぞれが口に出して拍手すればいいんだろうね。それはジャップが苦手なやつ。