2018年5月1日火曜日

ニューワンマン3 (2018-04-22)

日本に急増するインドネパール料理店と一線を画す<ソルマリ>にしてもよかったが昨日も行ったし、何よりホッピーが飲みたかったのでナングロに入った。残念だったのがマトンを切らしていてサマエボウジのチョエラがチキンだった点だ。チキンじゃだめだ。キチンとチキン(松浦亜弥が歌ったファミ・マのフライド・チキンのコマーシャル・ソング)じゃない。キチンとマトン。頼むよ。じゃないとサマエボウジがサマにならないし。今日は東京都に住むギャンブル依存症のロリコン、中島(仮名)とDOTAMAのソロ・コンサートを観に行く。ワンマン・ライブというのは完全な和製英語だ。一人の男、生身くらいの意味になるんとちゃう。中島にはセットリストに多数の曲が入ると予想される最新アルバム『悪役』を聴かせていたが、ピンと来なかったらしい。私は気に入っていた。私は数年間に渡ってDOTAMAを追っているし、彼の曲をほぼすべて聴いた。過去に行われたソロ・コンサートの1と2にも足を運んだ。それに対し中島はDOTAMAの過去作をちゃんと聴いているわけではない。彼と私では普段聴いている音楽も食っているメシも推しの年齢層も違う。ある音楽アルバムを聴いた感想が同じではないのは当然のことである。私自身にしてもたとえば5年前にDOTAMAを聴いても受け付けられなかった可能性が高い。こんなのはヒップホップじゃねえとか言って拒絶していただろう。だから彼が『悪役』をいまいち気に入らないことに私はネガティヴな感情は少なかった。実際にコンサートを観て印象が修正されるのかどうかに興味を持っていた。

なお、当ブログの読者は筆者をアイドル・オタクと誤解しているかもしれないが、あくまで音楽ファンであるから、ヒップホップ現場にも顔を出すのである。K DUB SHINEが最近Twitterで巻き起こしたヒップホップかラップ音楽か論争からすると、DOTAMAがヒップホップかどうかっつうのは多少、議論の余地はあるかもしれない。ただヒップホップかどうかはたしかに重要だけど、今の私はそれよりもクリエイティブな音楽かどうかを大事にしている。まあこの話は深入りするのはやめておこう。

恵比寿LIQUID ROOM。私がここに来るのはいつぞやのfox capture plan以来だ。私たちの整理番号はB137とB138。番号からしてその前にAが何百人かいたんだろうけど、分かんないな。私たちが会場に着いた時点でもう入場列は出来ていなかったから。そのままスッと入って。フロアは6割くらい?埋まっていたけど余裕はあったね。開演間際になると人が増えてきたけど、ほどよい感じだった。アイドルさん以外の現場は、開演のちょっと前に入って適当に後ろの方で観ようという大らかな気持ちになれるのが新鮮だ。少しでも前で演者さんを観たいとかみーたんに見つけてもらってレスをもらいたいなんていう邪念が入り込まないで済むからね。

group_inouという、名前からして何かのグループのimaiという人物による前座。imaiとおぼしき青年がステージに現れ、軽く起きる歓声。まだ電源とか入れてるだけなんで、と準備を進めるimai。聞いたことも聴いたこともなかったのでそれほど期待をしていなかったのだが、彼のショータイムが始まるとすぐに引き込まれた。ジャンル的にはテクノなのかな。礼儀正しい独特の物腰。あんまり時間もないんで、というかそもそもDOTAMA君のワンマンなんで。DOTAMA君の思い出を語るのではなく、ボクのミッションは皆さんを暖めてDOTAMA君に送り出すことです。歓声。imaiが奏でるドープなサウンドに、DOTAMAのオタクたちは手を挙げて声を出す。着実に熱を帯びるフロア。はじめましての方も多いと思いますがこんなに共有してもらってありがとうございます。彼はハイになると恍惚とした表情で自身の胸をまさぐっていたんだけど、乳首がSexy Zone(性感帯)なのかな? group_inouのアルバムがあれば聴いてみたいと思った。後で検索したら何枚も出てるみたいで。サクッと捌けるimai。

彼のおかげで我々のヴァイブスはすぐにでもコンサートが始まってほしいくらいに仕上がったが、しばらく機材の入れ替え。それは仕方ないとして、本編が始まってからの導入部分を引っ張りすぎな感はあった。DOTAMAが出てくるまでの音楽がちょっと長すぎ。まだ出て来んのかよっていう。カップ・ラーメンにお湯を入れて5分放置したような感じになった。そこを引っ張ったところでおいしくはならへんやろっていう。それもあって、序盤は何かしっくり来なかった。私の前にいたジャケット、メガネのいかにもDOTAMAワナビーという風情の30代のうちに禿げそうな頭髪の紳士が『ディスっていいとも』でホントに世の中腐ってる! の部分を思いっきりのけぞって叫んでいるのを目の当たりにして、何でこいつはこのフレーズにここまで入り込めるんだ…と引いた。これは中島が言っていたことなんだが、DOTAMAの『悪役』におけるディスは全般的に具体性に欠ける。ディスが技術になっている。たしかにそれは一理ある。『音楽ワルキューレ』とか『サイキック島耕作』のように音楽業界とか会社の上司とか、明確な敵がいて、自分との関係も明確にしてこそのディスだし、ヒップホップだと思う。どいつもこいつもクソッタレ(『悪役』)と言われてもさ、ってのはある。ただ漠然と世の中を否定されても。

コンサートが進むにつれ、最初の違和感が取れていった。DOTAMAのパフォーマーとしての力量の高さ、音楽への向き合い方の真摯さ、彼が作る楽曲の面白さを再認識した。基本的な部分として声量が安定しているし、早口フローの後でも曲が続いても息が切れない。最初から最後まで音源と変わらない歌唱を届けてくれる。このコンサートの開催は半年前に決まった。ずっと胃が痛かった。半年間、毎日練習してきました。ってマジか。どんだけ練習するんだ。DOTAMAが他の多くのラッパーと比較して秀でているのは、曲毎にもアルバム毎にもテーマやコンセプトがある点だ。今日も披露された『楽曲のテーマは「テーマ」』では自身もそれについて歌っている。それだけではなく、アーティストとしても一環して追っているテーマやコンセプトがある。特に『音楽ワルキューレ』と『栃木のラッパー』に関しては題名を維持して番号を付ける形で続編を出している。アルバム『悪役』に前者は3、後者は2が収録されている。『音楽ワルキューレ』は、1のときは半ばヤケクソに音楽業界への不満を書き殴った。でもあれから8年。音楽家としてやってこれている。音楽の女神に愛されていた。だから3は女神へのラブソング。同じテーマに対して年月を経て微妙に変化していく思いを綴っていくことで、DOTAMAの人としての、アーティストとしての成長が感じられる。むかし彼は何かのバトルでAKBは死んでくれ! AKBは死んでくれ! と言っていたことがあった。2017年1月11日の『フリースタイルダンジョン』ではアイドルを揶揄する相手に「おいアイドルなめんな 俺アイドル現場でアイドルの子と一緒にやってるけど あの子たちは頑張ってるから お前は何だ ラッパーだからアイドル マジで(コンプラ)とか思ってる時点で お前はアーティストとして最悪だ」と返していた。AKBは死んでくれ! の方が尖っていて面白いけど、単純なヘイトって往々にして無知が原因なわけで。年齢と経験を重ねることで成熟していく考えを表現してもらった方が、人としての深みを感じられる。それを歌詞で表現することができるDOTAMA。

客演を挟むタイミングがよかった。それにゲストが6人いたにも関わらず曲をパフォームした後は長居せず去ったことでDOTAMAのソロ・コンサートという体裁が維持されていた。まずNAIKA。DOTAMAと二人で『北関東BLUES』。そこにSAM、MAKAが合流して『TECHNICS』。この面子は戦極MC BATTLEで、同じステージで対戦したことがあるので、コンサートで顔を合わせるのは感慨深い。最後に一言と振られ、特に告知をするリリースもないらしくDOTAMAのワンマンぶち上げてください!と私たちを煽るNAIKA。同じ言葉を続けるMAKA。UMBの栃木予選はドTシャツ(本ツアーのグッズ)を着て優勝すると宣言するSAM。バトルだけじゃなく音楽活動も頑張っていますという話をしているのに、と笑うDOTAMA。次に、輪入道とmu-ton。“TAG SHIT”。輪入道君とは以前ここで対決したことがあって。バトル振り返りライブみたいになってますけど。気合いを入れるためにビンタしてくれ! って言ったら輪入道君どん引きっていう。まだここまで深い仲じゃなくて。7年前。笑う輪入道。2月に曲(“TAG SHIT”)作って。4月にワンマンやるからに来てほしいと言って。絶対断られると思った。2ヶ月先までライブの仕事で埋まってるんでしょ? あ、否定しないんだ。笑う輪入道。mol53と出すEPを宣伝するmu-ton。最後のゲスト、般若。大歓声。公演の山場。『音楽ワルキューレ』『音楽ワルキューレ2』をメドレーでやった後に(『音楽ワルキューレ (1)』はニューワンマン1でも2でもメドレーだった。いい加減フルで聴かせてくれ!)、新作『音楽ワルキューレ3』に行くと見せかけて“MONSTER VISION”のトラックがかかる。サプライズ風な演出。般若、腕がムキムキ。曲が終わる。2008年のUMB東京予選で般若さんと対戦したのがこのLIQUID ROOMで。般若さんに喧嘩を売った命知らずのメガネとしてボクが全国に名を轟かせたんです。そのときの思い出話が始まるのか思いきや、何も言わずにステージの右に捌ける般若。見に行くDOTAMA。観客からは般若!のチャント。にゃんこ!という声に笑うDOTAMA。出てこない般若。お子さんと奥さんが見えているから般若さんもそこにいるはず。大丈夫そうなので、ということで『本音』。ヴァースの直前で再登場する般若。さっきはアロハ・シャツだったが今度はTYSONと印字された黒いTシャツにサングラス。2ヴァースだけの登場で1ヴァース毎に衣装を変えるというHello! Projectもびっくりな豪華さ。曲が終わるとまたすぐに捌ける。たぶん単なる気まぐれや受け狙いではなく、ゲストが多数いるという状況を観察した上で判断している。

今日の今日まで言うまいと思っていたんですが。1,500円という破格のチケット代の裏側を語るDOTAMA。安くしてたくさんの人に来てもらいたかった。1,500円なら軽い気持ちで来てくれる人がいると思った。2017年のUMBで優勝し、賞金100万円を獲得した。これまで散々100万なんて燃やしてやる、100万なんていらねえ等々あらゆる角度から100万円を拒絶してきた。お金よりも大切なもののためにやっているという意味で放った言葉だった。実際に100万円を手にすると、某S社員さん(戦極MC BATTLE主宰のMC正社員)が早く100万円燃やしてブログを書いてくださいよと言ってきた。ひどい人だ。その100万円を、今日にすべて突っ込んだ。大喝采。そういうのはいい、と照れるDOTAMA。さらに大きくなる拍手と声援。ボクのワンマンなので静かにしてもらっていいですか? 笑い。音楽業界では、ラッパーが2時間のワンマンをやると言うと白い目で見られる。夢みたいなこと言ってんじゃねえよって。そういう声を、音楽活動で黙らせる。来年もニューワンマン4が出来るように邁進していく。

終演後の中島が、アルバムを聴いての印象よりもよかった。どう言葉にしたらいいのか分からないですが、と言った。それはよかった。私は、アルバム『悪役』を聴いたときにはそこまで引っかからなかった『ハピネス』が、やけに沁みた。このコンサートの流れがあった上で最後の最後に聴くと、違った聴こえ方になった。これをきっかけに、好んで『ハピネス』を聴くようになった。それまでとは曲や演者に対する印象、見え方、聴こえ方が変わったり、新たな魅力を発見できたりするのは現場で音楽を味わうことの醍醐味の一つである。