2017年8月6日日曜日

グランギニョル (2017-07-30)

カーテン・コールが3回。最後はスタンディング・オベーション。拍手が鳴り止まなかった。それは自然な反応だった。義務感に駆られてとか、礼儀として、といった要素は皆無だった。一人一人の観客に聞かなくてもそれは分かった。「体が勝手に動き始めるの」(モーニング娘。、『Fantasyが始まる』)とはこのことである。あなたはこの舞台が終演すると同時に出せる限りの力を振り絞って拍手を送ります−サンシャイン劇場の客席に座っていた全員が『A女E女』の催眠術師からそういう暗示をかけられていたに違いない。『A女E女』が分からなければ、分からなくていいよ。劇場を出ると、女装したオジサン。仮装した女。女を撮影するお兄さんとオジサン。コスプレのイベントが開催されていた。さっきまで私が浸っていた世界との落差が大きい。『グランギニョル』の衣装や化粧も、現実の現代日本からかけ離れた虚構の世界を表現している点では、コスプレ的だった。田村芽実さんは全身白の衣装(ジャンルとしてはゴス・ロリっていうのかな?)に、髪はグレーっぽいカツラ。お顔まで真っ白に塗って、眼の周りはパンダのように黒く塗ってあった。離れた場所からパッと見ただけじゃ田村めいめいさんだってすぐには判別が出来ないくらいに、別人になっていた。出演者たちの中で私が素に近いお姿を知っているのは田村さんだけだった。だから断言は出来ないのだが、おそらく他の出演者たちも普段とは大きく変貌を遂げていたのだろうと思う。我々が『グランギニョル』独自の世界にグッと引き込まれた要因として、最大の要因はもちろん脚本や演技だろうが、服飾とメイクアップの効果も大きかったと思う。コスプレ・イベントを楽しむパンピーのトーシローたちとはまず素材が別物すぎたし、コスチュームとメイクの手の掛かりようも別次元だった。その対比は残酷だった。

田村芽実さんのファンクラブ先行で申し込んだ。席は、13列。通路を挟んで後半ブロックの最前だった。私の隣は何かと挙動がキモめなヴァイブスのオジサンだった。軽く体臭が漂ってきたのは仕方ないとして、革靴を脱いてダランと足を投げ出して組み始めた。一時的に私の領海を侵犯していた。私を含め四人連続で男だった。たぶん他の三人も田村さんのファンクラブ会員なんだろうなと思った。というのが、観客の大多数が女性だったんだ。8割は優に超えていたと思う。20代くらいの人が多かった印象。出演者のほとんどは男性だから、彼らのファンなんだろうね。田村さん以外の出演者に関しては何の予備知識もなかったし、調べもしなかった。だからふだん何をやっている人たちなのかまったく分からなかった。これを書いている今でも調べていないので分からないままなんだが、おそらく活動の主軸として演技をやっている人たちなんだろうなとは思った。私は6月に同じ会場でモーニング娘。主演の『ファラオの墓』を観ていた。時期が近く会場も同じだったので、自ずと対比せざるを得なかった。印象的だったのが、殺陣の迫力。『ファラオの墓』でも殺陣があって、ヒールを履きながらよくここまで出来るなとモーニング娘。に感心した。それはそれで凄かったが、ガッチリした男たちが繰り広げる殺陣はひと味ちがった。声量の大きさ。特にダリ役の人の声の通り方が尋常じゃなかった。舞台俳優としての訓練をしている人なんだろうなと思った。あとHello! Projectの場合はコミカルな役を与えられる人はコミカルなことしかしない傾向があるが、今日の男性陣は同じ人の演技にコミカルさとシリアスさの振り幅があった。

そういう中に入っても、田村芽実さんは埋もれていなかった。キキ・ワトソンという、繭期の少年少女たちの一人。彼らはみんな情緒不安定でそれぞれの症状があるんだけど、キキの場合は見るものすべてが愛おしくなってしまう。そして怒りっぽくて暴力的でもある。歩き方にぎこちなさがあって、殺陣のときの動きも他の登場人物とは違う、独特さがあって目が離せなかった。常にほのかな狂気を振りまいている。この役が田村さんのトリック・スター的な持ち味をよく引き出していた。『グランギニョル』に欠かせない強烈なスパイスだった。主役級ではなかったとはいえ、ソロで歌う場面もあった。(そういえばこの舞台、思ったよりも歌が少なかった。)

Hello! Projectの舞台とは違う見方になった。私にとってHello! Projectの舞台は、メンバーたちの個性を味わう色んな媒体の一つである。人って自身ではない誰かを演じることで、本人の人間性がにじみ出てくるというか、光の当て方が変わることで見えにくかった特徴が発見できるというか。そういう感じがするんですね。でもそれはコンサートやラジオやYouTubeやブログを通して彼女たちに関するある意味での先入観を持っているからこそ可能な楽しみ方であって。『グランギニョル』に関しては知っている人が田村さんしかいなかったから、彼女を除けば、そういう見方は出来なかった。いま思ったけど、もしかしたらそれが私が『グランギニョル』の世界に入り込みやすかった一因だったのかもしれない。何せ出演者たちをこのお話の登場人物としてしか知らないわけだから。誰々が○○(役名)を演じている、ではなく、○○(役名)としてしか認識していなかったから、内容への集中という点に限ればよかったのかもしれない。とは言ってもね。私がこの舞台の物語や世界をちゃんと理解できたとは言いがたい。シリーズものなので、これだけを単体で観て分かるもんじゃないんだよね。作品群の一つであるHello! Projectが演じた『LILIUM-リリウム 少女純血歌劇』はDVDで観たけど、Hello! Projectじゃない人たちが演じた『TRUMP』というのもあってそっちは観ていない。他にもあるのかな? ただ、背景知識が乏しくても『グランギニョル』単体で普通に楽しめた。要所要所で、台詞に邪魔にならない程度の解説が挟まれていた。相手を噛むことでイニシアチブを握る(命令を聞かせることが出来る)とかね。繭期の少年の一人がキキに対して君はマリーゴールドという名前の女の子になるというようなことを言っていた。ちょっと会場がざわついた。マリーゴールドって『LILIUM-リリウム 少女純血歌劇』での田村さんの役名なんだ。シリーズの全作品をしっかりと何度も観て、専門用語、設定、登場人物のことをちゃんと知った上で観たらさらに楽しめたんだろうと思う。ただ、私は深入りする気はない。そこに時間を費やすなら読みたい小説がたくさんある。