2018年11月5日月曜日

タイムリピート~永遠に君を想う~ (2018-10-06)

それほど期待はしていなかったんだけど、見る見るうちに引き込まれて、最後には涙ぐんでいた。それだけ素敵な舞台だった。たとえばコンサートだったら盛り上がりに行く、サッカーだったら応援するチームのゴールと勝利を喜びに行く、感動系の映画だったら泣きに行くというように、多くの娯楽ではあらかじめ自分がどう反応するかというのがある程度、予期できる。予期というよりは、そういう感情を求めて足を運ぶ。私が『タイムリピート~永遠に君を想う~』を観劇するにあたってはそういう事前の想定が何もなかった。もちろんJuice=Juiceというイルな集団を割と近い距離で観られるのは心待ちにしていたけど、内容についてはすっげー楽しみというわけでもなかった。ほぼニュートラルと言っていい状態で開演を迎えた。まず、いつものようにファンクラブ先行受付が始まった時点では詳細が分からなかった。Juice=Juiceが主演の舞台。会場は新宿のスペース・ゼロ。その程度の情報で、申し込むかどうかを判断しなければならなかった。簡単なあらすじくらいは出ていたかもしれないけど、それだけを読んでもよく分からない、申し訳程度のものだった。初日が近づいてきて初めて、具体的に想像できる材料(画像)が公開された。どのメンバーさんがどういう役を演じて、どういうメイクアップで、どういう衣装で、というのが分かってきた。解禁されていく情報に、この舞台に対する私の期待を高める要素は一切なかった。服や髪型が総じてダサい。筋書きはあまり興味をひかれない。何より、肌の露出が少ない。特に宮本佳林さんの髪型とメイクアップは、普段の彼女のよさを消しているように見えた。その宮本さんをはじめとした数名が担当するのが男役というのもあまり楽しみと言える要素ではなかった。

それが、開演して時間がたつごとにグイグイ持って行かれた。舞台は終始、宇宙船。何やら世界では二つの陣営が対立していて、その片方に属する人たちが船に乗っている。宇宙を探索中に資源が豊富な惑星を見つける。宇宙法では先に上陸した陣営が所有権を得られることが定められている(ジョン・ロック方式ですね)。この星が蓄える膨大なエネルギーを占有できるかどうかは、対立する陣営との戦いを制する上で極めて重要。船に学者が二人乗っていて、その惑星に上陸するかどうかについて意見を求められる。学者が宮本佳林さんと稲場愛香さん。稲場さんは他の乗組員とは仲良くせず、鼻につく態度をとる。宮本さんのことも馬鹿にしている。上陸に関して宮本さんは危険だと反対し、稲場さんは上陸すべきと主張する。船長の宮崎由加さんは、これまたツンとした乗組員(高瀬くるみさん)にも押されつつ、上陸するという決断を下す。向かっていたところ、突如として小惑星が接近し、宇宙船にぶつかる。乗組員は全員、死ぬ。それで話が振り出しに戻るんだけど、稲場さんだけ記憶が残っている。彼女はこのままではみんなが死ぬことを必死に説明し、未来を変えて生き残るための道を模索する。それで四、五回だったかな、また初めに戻るというのを繰り返す。その都度、微妙に展開が変わって、新事実が次々に明らかになっていく。

・一つの物語の中で短い話がループするというのが、私には妙に心地がよかった。ジャズやヒップホップ的だからかもしれない。こういうジャンルの物語に関する興味が喚起された。百数十冊を数える私の積ん読の中で、Ken Grimwoodさんの“Replay”という小説の序列が急上昇した。
・難易度設定が絶妙だった。ひねりがありつつも難しすぎない。一回でもしっかり楽しめるけど、二回、三回と観たくもなる。これくらいがちょうどいいんだ。私が演劇女子部を観に来るのはHello! Projectのメンバーさんを鑑賞することであって、舞台が好きだからではないんだよ。いや、好きは好きだけど(私には下北沢の小劇場に演劇を観に行っていた時期もある)、それが主目的でないの。私は演劇女子部に、コンサートやイベントといった現場の一つとして来ているんだ。だから脚本、演出、衣装、メイクアップ、等々、舞台を成立させる要素のすべてはメンバーさんの魅力をどれだけ引き出せるかで価値が決まる。
・観る前には何だコレ…と思った宮本佳林さんの髪型やメイクアップは、彼女が演じたキャラクターによくマッチしていた。舞台が始まるとすぐに違和感はなくなった。Refugeecampさんの“Sensei”の早口フローのような独特なしゃべり方でまくし立てるガリ勉。これまでに見たことのない宮本佳林さん。
・通底しているテーマが没入しやすかった。自分だけが記憶や経験を保持したまま過去に戻れないかというのは、多くの人々が夢想したことがあるんじゃないだろうか。私も、今の自分のままで年齢だけ20歳になれないかと考えたことが何度かある。
・『気絶するほど愛してる』ぶりに目にする、稲場愛香さんの演技。特別。引き込まれる。Juice=Juiceが舞台をやるのであれば今後も彼女は欠かせない。彼女の存在がグループとして出来ることの幅を広げていると言える。それに負けない演技を見せた宮本佳林さん。この二人が見事に主役を演じきった。
・宮崎由加さんと植村あかりさんの滑舌の悪さは少し気になった。自身の間でしゃべれる場(ラジオとか、コンサートやイベント中のトークとか)だとそれも一つの個性や魅力だが、言い回しや速度を調整できない舞台の台詞では仇になる。